「こんにちは。真留です」
二時ジャスト、鳴ったインタホンに応対すると果たして真留さん。相変わらず、精密機械のように正確ですねえ。
門までお迎えに行き、中にお通しし、今月ぶんのファンレターを受け取る。
「お茶菓子なんですけど、クッキーと羊羹、どちらがよろしいですか?」
「ありがとうございます。では、羊羹をいただけますか?」
おお、羊羹買っておいて良かった。
「はい。今ご用意しますので、リビングでくつろいでいてください。アメリも、楽しみに待っていますよ」
「では失礼して、そのようにさせていただきます」
一礼して、リビングに入っていく真留さん。
お茶菓子を用意してリビングに行くと、相変わらずアメリが真留さんにごろにゃんとじゃれついてました。
「可愛いね~、アメリちゃん。少し大きくなったんじゃない?」
「おお~、そうだよー! 二センチ背が伸びた!」
真留さん、アメリに夢中で私に気づいてないみたい。
「お待たせしました~」
「あ。……こほん、ありがとうございます」
アメリとのじゃれ合いから姿勢を正す彼女。
「アメリも一緒に羊羹食べましょ」
「は-い!」
二人がお茶菓子をいただいている間に、ノートPCを起動してプロットのテキストファイルを展開する。
「今回は、こんな感じでいこうと思うのですが」
「拝見します」
真留さんがテキストを読み始めたので、私もお茶菓子をいただく。う~ん、甘い~。美味しいなあ。
羊羹に舌鼓を打ちつつも、心中は緊張なう。どうかな~。通るかな~?
「面白いと思います。強いて言うならば……」
真留さんから細かい改善案を受ける。真留さんのアドバイスはいつも的確だ。入社三年目なのに、ベテランだと思ってしまうほどに。
由香里さんもそうだけど、真留さんも年下なのに本当にしっかり者だな。私ももうちょっと、しっかりしたいものです。
こうして、改善点をその場で直して完成。無事、打ち合わせ終了しました。
「では、これで――」
「あ、ちょっと待ってください」
真留さんが別れの挨拶を切り出そうとしたとき、ストップをかける。
「はい、何でしょうか?」
「アメリ、アレ真留さんに見せるつもりだったんでしょう?」
「あ! そうだった! 真留おねーさん、ちょっと待ってて!」
アメリが私の言葉を受けて慌ただしく寝室に行き、スケッチブックを手に戻ってくる。
「見て! 頑張って描いたの!」
「あ、これひょっとして……私?」
アメリが先ほどスケッチブックに描いていたのは、真留さんの似顔絵。
「ありがとう、アメリちゃん。上手だよ。すごく良く描けてる」
真留さんがアメリの頭を撫でると、「うにゅう」と気抜け声を上げる。
「あのね、この絵あげる!」
「ありがとう。大事にするね」
彼女がぎゅっとアメリを抱きしめると、「うにゅう~……」と、さらに気の抜けた声を出す。
「袋、ご用意しますね」
「ありがとうございます。でも、編集部に戻ったら何と説明したものでしょうね」
珍しく考え込む真留さん。
「遊びに来ていた私の姪からもらった……という体でいかがでしょう?」
「そうですね。では、そういう話にさせていただきます」
キッチンからちょうど良さげな紙袋を持ってくると、真留さんがくるくると巻いて中に絵を収める。
「本当にありがとう、アメリちゃん。宝物にするね」
最後にもうひと撫でされると、「うにゅにゅ~……」という、地味に新パターンな気抜け声を上げるアメリ。
「では、改めて失礼します。特に大事なければまた来月に」
「あ、たびたびお引き止めして恐縮なのですけど」
「はい。何でしょう?」
コートを羽織ろうとしていた手を、一旦止める彼女。
「よろしければ、今度お暇なときにうちでお食事でもいかがですか?」
「食事、ですか?」
アメリに視線を落とすと、真留さんもそれを追い、得心がいったように頷く。
「そうですね。たまにはそれもいいかもしれません。では、日時は追って相談しましょう」
「はい。では、門までお送りしますね」
「真留おねーさん、またねー!」
門で再度お別れを述べ合うと、絵の入った紙袋を手に、真留さんは別のお仕事のため歩み去って行きました。
「真留さんとの食事、楽しみだね!」
「うん!」
後片付けしながら話しかけると、満面の笑みを浮かべるアメリ。提案して良かった。そんなアメリも、一緒に片付けを手伝ってくれています。
さあ、片付け終わったらネーム作業開始だ。これから忙しくなるぞー!
◆ ◆ ◆
そんなわけで、デスクでネーム執筆作業なう。今日も元気だ、コーヒー牛乳が美味い!
アメリは背後でブロック遊び。また、謎オブジェが生まれそうね。
こつこつ執筆してると、スマホが炊飯用意の時間を知らせてくる。もう、そんな時間かー。
コーヒー牛乳をついでに淹れ直し、お米を水に浸す。
それにしても、繁忙期を過ぎてマイペースに仕事してると、時間の進みもゆっくりに感じるなあ。
今月は少し余裕を持って、アメリやご近所さんとお付き合い出来そうだ。
さあ、コーヒー牛乳とアメリパワーで今日も頑張るぞー!
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