神奈さんとアメリちゃん

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第二百十三話 真留さんとアメリ

公開日時: 2021年4月30日(金) 12:01
文字数:2,015

「こんにちは。真留です」


 二時ジャスト、鳴ったインタホンに応対すると果たして真留さん。相変わらず、精密機械のように正確ですねえ。


 門までお迎えに行き、中にお通しし、今月ぶんのファンレターを受け取る。


「お茶菓子なんですけど、クッキーと羊羹ようかん、どちらがよろしいですか?」


「ありがとうございます。では、羊羹をいただけますか?」


 おお、羊羹買っておいて良かった。


「はい。今ご用意しますので、リビングでくつろいでいてください。アメリも、楽しみに待っていますよ」


「では失礼して、そのようにさせていただきます」


 一礼して、リビングに入っていく真留さん。


 お茶菓子を用意してリビングに行くと、相変わらずアメリが真留さんにごろにゃんとじゃれついてました。


「可愛いね~、アメリちゃん。少し大きくなったんじゃない?」


「おお~、そうだよー! 二センチ背が伸びた!」


 真留さん、アメリに夢中で私に気づいてないみたい。


「お待たせしました~」


「あ。……こほん、ありがとうございます」


 アメリとのじゃれ合いから姿勢を正す彼女。


「アメリも一緒に羊羹食べましょ」


「は-い!」


 二人がお茶菓子をいただいている間に、ノートPCを起動してプロットのテキストファイルを展開する。


「今回は、こんな感じでいこうと思うのですが」


「拝見します」


 真留さんがテキストを読み始めたので、私もお茶菓子をいただく。う~ん、甘い~。美味しいなあ。


 羊羹に舌鼓を打ちつつも、心中は緊張なう。どうかな~。通るかな~?


「面白いと思います。強いて言うならば……」


 真留さんから細かい改善案を受ける。真留さんのアドバイスはいつも的確だ。入社三年目なのに、ベテランだと思ってしまうほどに。


 由香里さんもそうだけど、真留さんも年下なのに本当にしっかり者だな。私ももうちょっと、しっかりしたいものです。


 こうして、改善点をその場で直して完成。無事、打ち合わせ終了しました。


「では、これで――」


「あ、ちょっと待ってください」


 真留さんが別れの挨拶を切り出そうとしたとき、ストップをかける。


「はい、何でしょうか?」


「アメリ、アレ・・真留さんに見せるつもりだったんでしょう?」


「あ! そうだった! 真留おねーさん、ちょっと待ってて!」


 アメリが私の言葉を受けて慌ただしく寝室に行き、スケッチブックを手に戻ってくる。


「見て! 頑張って描いたの!」


「あ、これひょっとして……私?」


 アメリが先ほどスケッチブックに描いていたのは、真留さんの似顔絵。


「ありがとう、アメリちゃん。上手だよ。すごく良く描けてる」


 真留さんがアメリの頭を撫でると、「うにゅう」と気抜け声を上げる。


「あのね、この絵あげる!」


「ありがとう。大事にするね」


 彼女がぎゅっとアメリを抱きしめると、「うにゅう~……」と、さらに気の抜けた声を出す。


「袋、ご用意しますね」


「ありがとうございます。でも、編集部に戻ったら何と説明したものでしょうね」


 珍しく考え込む真留さん。


「遊びに来ていた私の姪からもらった……という体でいかがでしょう?」


「そうですね。では、そういう話にさせていただきます」


 キッチンからちょうど良さげな紙袋を持ってくると、真留さんがくるくると巻いて中に絵を収める。


「本当にありがとう、アメリちゃん。宝物にするね」


 最後にもうひと撫でされると、「うにゅにゅ~……」という、地味に新パターンな気抜け声を上げるアメリ。


「では、改めて失礼します。特に大事だいじなければまた来月に」


「あ、たびたびお引き止めして恐縮なのですけど」


「はい。何でしょう?」


 コートを羽織ろうとしていた手を、一旦止める彼女。


「よろしければ、今度お暇なときにうちでお食事でもいかがですか?」


「食事、ですか?」


 アメリに視線を落とすと、真留さんもそれを追い、得心がいったようにうなずく。


「そうですね。たまにはそれもいいかもしれません。では、日時は追って相談しましょう」


「はい。では、門までお送りしますね」


「真留おねーさん、またねー!」


 門で再度お別れを述べ合うと、絵の入った紙袋を手に、真留さんは別のお仕事のため歩み去って行きました。


「真留さんとの食事、楽しみだね!」


「うん!」


 後片付けしながら話しかけると、満面の笑みを浮かべるアメリ。提案して良かった。そんなアメリも、一緒に片付けを手伝ってくれています。


 さあ、片付け終わったらネーム作業開始だ。これから忙しくなるぞー!



 ◆ ◆ ◆



 そんなわけで、デスクでネーム執筆作業なう。今日も元気だ、コーヒー牛乳が美味い!


 アメリは背後でブロック遊び。また、謎オブジェが生まれそうね。


 こつこつ執筆してると、スマホが炊飯用意の時間を知らせてくる。もう、そんな時間かー。


 コーヒー牛乳をついでにれ直し、お米を水に浸す。


 それにしても、繁忙期を過ぎてマイペースに仕事してると、時間の進みもゆっくりに感じるなあ。


 今月は少し余裕を持って、アメリやご近所さんとお付き合い出来そうだ。


 さあ、コーヒー牛乳とアメリパワーで今日も頑張るぞー!

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