神奈さんとアメリちゃん

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第四十九話 雨とお好み焼きとお買い物と ―前編―

公開日時: 2021年4月18日(日) 10:31
文字数:2,726

「まりあさん、こんにちはー。今、お手透きですか?」


 昨日に引き続き、ぱらぱらでも土砂降りでもない勢いの雨の日。思うところあって、仕事机の前でまりあさんに電話をかけてみた。


「こんにちは。今、『うどんのめがみさま』の新作を書き進めていたところです。でも、中断するのは別に構いませんよ」


 おおう、お仕事中でしたか。まあ、要件を切り出すだけ切り出してみよう。


「昨日から雨じゃないですか。しかも、予報を見るとしばらく続くみたいで。なんで、アメリに雨具を買ってあげたいと思いまして。それでですね、まりあさん車持ってらっしゃらないからお買い物不便してるだろうなと思いまして。ご一緒に、駅前でお買い物しませんか? よろしければ、車でお迎えに上がりますれけど」


 ぶどう狩り以来、まりあさんと電話やLIZEをする機会はあったけど、直接会うのは一週間ほどご無沙汰だったりする。なので、直接お話したいなあなんて思ったわけです。アメリも、クロちゃんと会わせてあげたいしね。あと、お買い物が大変だろうからお手伝いしたいというのも本心。


「いいんですか? おっしゃる通り実は買い物が結構大変で……。ありがたいです。お時間いつがよろしいでしょう?」


「私は……そうですね、三十分もあれば伺えますが」


「では、十時半にお願いできますか? クロちゃんも連れて行きますね」


 PCの時計を見ると、十時少し前。


「わかりました。では、十時半に」


 というわけで通話終了。


「アメリー。今日は駅前に行こう! まりあさんとクロちゃんも一緒だよ!」


 と、ぬいぐるみ遊びしてるアメリに伝えると、「おおー!」と瞳を輝かせ嬉しそう。では、準備が整ったら参りましょうか。



 ◆ ◆ ◆



「あめ、あめ、ふれ、ふれ、かあさんが~。じゃのめで、おむかえ、うれしいな~」


 のんきに歌いながら、宇多野家へと車を走らせる。今日から、衣服も秋物だ。


「なーにその歌?」


「んー? 『あめふり』っていう歌。一緒に歌ってみる? じゃあ、いくよー。あめ、あめ、ふれ、ふれ、かあさんが~。はい」


「おお~。あめ、あめ、ふれ、ふれ、かあさんが~」


 後部座席のアメリと歌いながら、蛇の目傘じゃないけど車でまりあさんたちを迎えに行くのでした。


 そして、宇多野家前。時刻もピッタリ。LIZEで「着きました。家の前にいます」と送信すると、「お迎えありがとうございます。今そちらに行きます」と返信が来る。


 少しして、秋物をまとった二人が玄関からが出てきた。二人とも、カーディガンに丈の長いスカート。まりあさんはアイボリーの上品な傘、クロちゃんはどこで手に入れたのやら、お魚柄の子供傘を開き、こちらへ向かって来る。


「お久しぶり……といっても、一週間ぐらいですけど、お久しぶりですね。まりあさん、クロちゃん」


「おお~! まりあおねーちゃん、クロ、久しぶり~!」


 後部座席に乗り込んだ二人に挨拶する。


「お久しぶりです、神奈お姉さん。アメリも久しぶりだね」


「お久しぶりです。アメリちゃん、元気だったかな?」


「うん!」


「では、出しますね」


 二人がシートベルトを装着したのを確認すると、車を発進させる。


「こないだは、バーベキューに参加できなくてすみませんでした。クロちゃんも残念がってまして」


「いえいえ。こちらのお誘いが急だったのですから、仕方ないです」


 道中、松平さんの起こしたくさや騒ぎが発端だったことを語ると、まりあさんもくすくす笑ってしまう。クロちゃんは、くさやが魚の干物だと知るとすごく興味を示したけど、まりあさんが独特の臭気について説明すると、がっかりしてとたんに興味が失せてしまったようだ。


 集中が乱れない程度に会話しながら運転することしばし、おなじみ「るるる」駐車場にゴールイン!


「じゃあ、行きましょうか」


 エレベーターへの道すがら、まずは大荷物になる前に食事をしましょうということになり、四階のレストランフロアに向かいました。



 ◆ ◆ ◆



 色々テナントを見ていき、相談の結果、今日のお昼はお好み焼き屋「とまとかん」さんに決定! ……って、お好み焼きで「とまと」ってどゆこと?


 ま、いいや。入ってみましょ。


「へー。このお店、大阪風なんですね」


 四人がけのテーブル席に案内され、メニューを眺めながらぽっと頭に浮かんだ感想をこぼす。


「大阪風といえば、素朴な疑問なんですけど……福井のお好み焼きは大阪風、広島風どっちなんでしょうか?」


 おっと、私の特技「素朴な疑問の質問」をまりあさんから受けてしまった。


「家庭で食べるのは基本、大阪風ですね。外では広島風も食べますけど。上京したての頃、東京ではお好み焼きをおかずにしないと知って、びっくりしました。よく、炭水化物同士の組み合わせだって否定する東京の人いますけど、やってること焼きそばパンと同じなんですけどねえ……」


「言われてみれば、たしかにそうですね」


 うんうんとうなずくまりあさん。


「ちなみに、まりあさんは大阪風と広島風、どっち派ですか?」


「ひっくり返すのが難しいので、家で作ると大阪風が多いですね。外ではどっちも食べます。ただ、やっぱりごはんは一緒に食べないですねえ。なんだか申し訳ないですけど」


「いえいえ。日本は狭いってよくいいますけど、その割に食文化の地域差って大きいですよねえ……」


 などと雑談しながら、選択に迷う。一通り目を通してみたけれど、トマト要素はゼロ。ほんと、なんでこんな店名に……。まあ、いいけど。


「おねーちゃん、お好み焼きってどんなの?」


 お好み焼き初体験のアメリが、お好み焼きとは何なのかともっともな説明を求める。たしかに、よくわからないものじゃ注文しかねるよね。


「うーん、説明しにくいけど……うちでもよく、小麦粉使うじゃない? あれにお肉とかイカとかキャベツを混ぜて焼くものだよ」


「おお~。イカは『おすし』で食べたね! あれを入れるんだー。そめごろうイカも大変だなー……」


「そめごろうはぬいぐるみだからね。今回は大変なことないから大丈夫。お好み焼きに入れるイカは、お寿司のより小さく切ったのだけどね。あ、この海鮮玉とかどう? イカとタコ、あとホタテが入ってるよ」


 イカからそめごろうの苦難を連想するアメリに微笑ましさを覚えつつ、海鮮玉をオススメする。


「それにする!」


「じゃあ、ボクもアメリと同じので……」


 クロちゃんも、魚介類入りと聞いて同じのに決定。


「私は何にしようかなあ……。そうだアメリ、豚玉私が頼むから、四分の一……半分のそのまた半分ずつ交換して食べない?」


「おお~! そーする!」


「じゃあ、クロちゃん。わたしたちもそうしてみる?」


「うん。ボクも、ブタさん少し食べたい」


 まりあさんたちも、同じく四分の一交換作戦に決めたようだ。


 かくして、店員さんを呼んで注文と相成りました。続く!

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