神奈さんとアメリちゃん

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第百五十二話 アメリと恐竜

公開日時: 2021年4月25日(日) 09:01
文字数:2,999

もみもみ。


(ん……)


 もみもみもみもみ。


(んん……朝かあ……)


「おねーちゃん、ごはん~」


「おふぁよぉ……ごめーん、朝ごはんお母さんに作ってもらってー」


「おお~、おはよー! わかった!」


 とてとてと走っていくアメリの足音が遠ざかる。


 二度寝しよ。あー、オフトゥンさいこー……。



 ◆ ◆ ◆



「おはよぉございまぁ~す……」


 気の済むまで寝て、いい加減起きるかという気分になったので、顔を洗った後リビングへ。


「おはよう。もう八時よ? ほんっと朝ダメよねえ、神奈」


「おはよう」


 アメリと一緒にテレビを見ていたお母さんとお父さんが、挨拶してくる。


「面目ない~。アメリの朝ごはんは?」


「ちゃんと食べさせてあげたから安心して。あなたも、適当に温め直して食べちゃいなさい」


「はーい」


 というわけで、冷蔵庫にあった肉じゃがの残り物をレンチンして、お味噌汁を温め直す。両者の加熱が終わったら、お米をよそってお茶をれて着席。


「いただきます」


 両手を合わせ、食事開始。いやー、みんなで食事したかったけど、朝が激弱だからね。仕方ないね。実家でぐらい、好きなときまで寝ていたいもの。


 ごちそうさま。食器を食洗機に入れ、歯磨き。はー、やっと意識がしゃっきり。


「肉じゃが、味しみで美味しかったー。何見てるのー?」


 私もこたつに入る。内容はどうやら、教養番組のようだ。


「へー、座り方特集ねえ……」


「もーう、パジャマのままじゃなくて、着替えてきなさいな」


「んー、まあいいじゃない。今日はアメリに西側・・見せてあげようと思うんだけど、車借りていい?」


 お母さんに小言を言われてしまうけど、馬耳東風。


「うん、別に構わないよ」


 お父さんがオッケーを出してくれました。


 そんなまったりした時間をしばし過ごし、十時前。


「そんじゃー出かけましょうかねー。アメリー、外着に着替えましょー。お昼までには帰るからね」


「おお~」


 一緒に二階に上がり、自室でお着替え。


「西側ってどういう意味?」


「んー? 駅の西側にね、面白いスポットがあんのよ」


 ふふふ、とほくそ笑む。


「おお? よくわかんないけど楽しみ!」


 さて、着替えもおっけー! 参りましょうか、お嬢様。



 ◆ ◆ ◆



 実家のあるT町は、福井駅の東にある。そのままさらに東に少し行くと田園地帯に突入するような場所だが、T町はそれなりに栄えた地域だ。


 福井といえば様々な神社仏閣が名所だけれど、初詣やお祭りでもない閑散とした神社を見せても、アメリの受けは悪いだろう。クロちゃんなら大喜びしそうだけれど。


 そこで、駅西口の超絶キャッチーなアレ・・を見せちゃおうって寸法なのです!


 駅西やや遠にある駐車場に駐車して、そのまま福井駅へてくてく歩き、「あのスポット」を目指す。


「おお~!? あれ何!?」


 西口「恐竜広場」。そこのモニュメントでもひときわ目を引く、フクイティタン像を見たアメリが、驚きと感心の混じった声を上げる。


「恐竜の像だよー。ほら、こないだノーラちゃんが本買ってたでしょう。あれに出てくるような生き物たちでね。大昔の地球にはこんなのがいっぱいいたんだ」


 スマホでパシャリ。地元民にはさして珍しい場所でもないけど、アメリがきっと後で見たがるだろうから。


「おお~……。ノーラ、こういうの好きなんだね!」


 あちこちちょこちょこ移動しながら、色んな位置からティタン像を見上げるアメリ。


「こっちにも、像があるよ」


 フクイサウルスとフクイラプトル像も見せる。


「おお!? 動いた!」


 そう。なんとこの二体とティタン、動いて鳴くのですよ。


 語彙が崩壊して、「おお~……!」とひたすら言いまくるアメリ。


 そんな彼女ともども、恐竜像をパシャリ。


「さて、そろそろ戻ろっか」


「おお? もう!?」


「うん。百円駐車場使ってるからね。これ以上経つと値上がりしちゃうのよ。だから、このあたりで戻らないと」


 「うにゅう~……」と、わかりやすいぐらい残念そうなリアクションを取るアメリ。


「まあまあ。ほら、写真撮ったし。これでいつでも見れるから。それに、もうすぐごはんだしね。お母さんの美味しいごはんが待ってるよ~」


「わかった……」


「よしよし、いい子いい子」


 頭をキャスケット越しに撫で、不承不承差し出された彼女の手を引き、駐車場へと戻る。そしてそのまま、家路を急ぐのでした。



 ◆ ◆ ◆



「ただいまー」


「ただいま」


 二人でただいまを言い、ゴールイン。手洗いとうがいを済ませ、こたつに潜る。


「おかえりー」


 こたつでくつろいでいたお父さんが、挨拶してきた。


「ただいま。アメリに恐竜広場見せたら、めっちゃ好感触だったー」


「へえ。でも、その割には様子が暗いね?」


 塞いじゃってるアメリの顔を、怪訝けげんそうに眺める。


「西口駐車場使ったから、早めに切り上げてきたのよ。ごはんも近いし。でも、そしたらこんな具合に未練タラタラで」


「そういうことか。じゃあ来月の三日、ディノ・ミュージアムに連れて行ってあげよう」


「おお? さっきの場所とは違うの?」


「うん。もっとたくさん、恐竜の化石……石になったものとか、像が飾られてるんだよ」


 するとアメリ、「おお~!」と瞳を輝かせて一発で機嫌が治る。お見事です、お父様。


「お昼出来たわよ~」


 お母さんがダイニングから出てきて、声をかけてくる。


「待ってました! ごっはんっ、ごっはんっ!」


「おお~。ごっはんっ、ごっはんっ!」


 あらまあ、アメリったら私の真似しちゃって。ほほえま!


 みんなで着席~。


 今日のおかずは、厚揚げのおろし醤油かけ、たくあんの炊いたん、ネギのお味噌汁。


 たくあんの炊いたんというのは、東京風に言えばたくあんの煮物。たくあん単品をだしなどで煮ただけという、シンプル・イズ・ベストな一品。ただ、シンプルな割には手間のかかる料理で、贅沢煮なんて別名もあるぐらい。お母さん、ありがとう。


「いただきます!」


 四人で合唱。まずは、主菜である厚揚げ! 福井は、厚揚げの消費量日本一の厚揚げ大国。うーん、おろし醤油と食べるこのシンプルさ! こういう素朴な料理っていいよね。


 お米を口に運び、お味噌汁をいただく。これも美味しい。


 続いて、たくあんをぱくっ。何ぶんコトコト煮ているもので、たくあんならではのコリコリ感はなく柔らか。ああ、甘さ、塩加減、旨味、どれをとってもお見事! さすがお母さん! アメリも、「おお~!」と美味しそうに食べている。


「そうだ、神奈」


「なーに?」


 お父さんが話しかけてきたので、そちらを向く。


「アメリ、魚が好きだって昨日言ってたよね」


「うん」


「来月二日に、水族館に連れていってあげようと思うんだけどどうかな?」


「福井松島アクアリウム?」


 こくりとうなずくお父さん。あそこかー。


「おお? 水族館ってなに?」


「お魚がいっぱい泳いでる建物」


 そう聞くや、「おお~!」と瞳を輝かせる。


「ふふ、行きたいって」


「じゃあ、その方向で予定立てよう」


 あ、でも。


「初詣行くじゃない? で、水族館も行くじゃない? そのあとディノ・ミュージアムとか、三連戦でアメリ体力持つかしら?」


「まあ、バテちゃったらそのときは中止だね。大型連休もお盆も帰ってくるんだろう?」


「うん、仕事の進捗しんちょく次第だけど。そっか、別に全部いっぺんにやらなきゃいけないって話もないよね」


「おお~……頑張る!」


 これは気合い充分ですねえ、お嬢様。


 明日はもう大晦日かー。二十歳越えると、一年なんてあっという間よねー。子供の頃は、あれだけ早く大人になりたかったものだけど。


 充実した帰省ライフを送りましょ。

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