「うぉはよぉごじゃいま~す……」
「もーう、ご先祖様に会いに行くんだから、しゃっきりしなさいな」
起き抜けに、お母さんに苦言を呈されてしまいました。
「一時間待って~」
うとうと船を漕ぐ私に、ため息を吐くお母さん。
「アメリちゃんも起きて。隣の人みたいになっちゃ、ダメよ」
「ひど~……」
「おお~。おはよー」
続いて、アメリが起こされる。
「顔洗ってくるー」
寝起きのいい、アメリちゃん。ひとあくびだけして、元気よく客間を出ていきました。
「ほらほら。お母さんも、しっかりする!」
「ふぁ~い……」
のっそり起き上がり、布団をたたんで押し入れへ。顔、洗ってきましょ~。
◆ ◆ ◆
とまあ、朝のダメダメ神奈さん劇場を、ひとしきり展開した後、八時になると、さすがにある程度しゃっきり。
アメリと一緒に、自室に着替えに行きます。お墓参りだからな。あんまりズボラな格好はできない。
よし、この服でいいか。家から、まともなやつ持ってきてよかったな。実家に置いてきたの、干物服ばっかりなんですもの。
帰省中に、お墓参り自体はするつもりだったので、アメリにも、用意しておいたロングスカートを履いてもらいます。
姿見で髪を整え、メイクして……。ヨシ!
「お待たせー」
階段を降り、アメリと一緒にリビングへ。
「うん、ちゃんとしてるね。ご先祖様に顔向けできるわ」
「そりゃ、しますよ。アメリも、この格好なら大丈夫でしょ?」
「そうね」
お母さんから、お墨付きをもらいます。お母さんも、すでにきちんとした格好。
「じゃあ、出ようか」
スーツ姿のお父さんが、音頭を取る。
というわけで、父方、母方、それぞれの眠る墓地へ参りましょう。
◆ ◆ ◆
父方の墓は、A山にある。途中にあるお店で菊やお線香などを買い、駐車場に車を停めて、墓地へと向かう。
「おお……結構歩くね……」
「そうだね。あんまり、お墓のそばに駐車場ってわけにもいかないからねえ。ちょっと我慢してね」
山を登っていき、霊場へ。
お父さんの先導で、「猫崎家之墓」の前に着く。
手を合わせる私たち。
「アメリもやって」
「おお……」
彼女も、私たちに倣う。
続けて、ゴミ片付け。分解されずに残った枯れ葉なんかを、ビニール袋に入れていく。アメリちゃんも、お手伝いしてくれました。
そして、お墓に水をかけ、雑巾で拭っていく。これも、四人がかり。
拭き掃除が終わると、お父さんが改めてきれいな水をかけ、お清めをする。
花立てに菊を差し、水鉢に水を入れ、お供え物として、父方のおじいちゃんが大好きだった、酒まんじゅうを供える。
「おお? なんで、おまんじゅう置くの?」
お墓に食べ物を置くという、不思議な行いに、困惑するアメリ。
「こういう儀式なの。こういうことするんだなー、ぐらいに考えておいて」
「わかった」
続いてお線香に点火し、振って余分な火を消し、これも供える。
「じゃあ、僕から」
お父さんが合掌と礼をし、一家健康に過ごしていること、そして、孫ができたことなどを報告していく。
「おお……石とお話ししてる……」
「しーっ。そういう儀式なの」
口に人差し指を立て、小声で注意。
お父さんの報告も終わり、続いてお母さんが、お父さんや私と相変わらず仲睦まじく過ごしていることなどを報告。
続いて、私。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ご先祖様、お久しぶりです。アメリが改めて家族になったこと、お父さんの報告の通りです。私はこの一年、素晴らしい友人たちと巡り会い、幸せに暮らしています。仕事も順調ですので、私のことは心配しないでください」
報告を終える。
で、次はアメリだけど……。
「どうしたらいいか、わからないよね。こう、手を合わせてね。『見守ってくれてありがとうございます』っていう、感謝の気持ちを込めてみて」
「うん、やってみる」
合掌するアメリ。
……。
……動かないな。
「ええと、それぐらいでいいよ?」
「おお」
合わせた手を解き、下がる愛娘。
お父さんが酒まんじゅうを回収し、一同、再度合掌して引き上げます。
◆ ◆ ◆
「お墓参りって、こういう感じなんだね」
「うん。まあ、最初は変な感じするかもだけど、自然と身につくよ」
私も、子供の頃、よくわかってなかったもんね。
駐車場まで戻ると、今度は南のH山にある、母方が眠る墓地へ。ここは、ありがたいことに駐車場が併設されている。
今度は、お母さんが筆頭となってご報告。私も、父方のときと同様のご報告を行う。アメリにはやはり、先ほどと同じように心を込めて合掌してもらいました。
「みんな、お疲れ様」
運転席に乗り込んだお父さんが、皆をねぎらう。
「お昼、どうしようか」
「もう一度、A山に戻らなきゃだけど、笏谷庵でどう?」
お父さんの提案に、一票投ずる。
「私も、それでいいわ」
お母さんも同意。
「アメリは?」
「んー? よくわかんないし、前、美味しかったから、そこでいいよー」
「了解。じゃあ、出すよ」
エンジンをかけ、一路、笏谷庵へ。
お蕎麦、大変美味しゅうございました。ただ、ここに私の色紙を飾ってもらうという野望は、まだまだ先になりそうだ。
帰宅後は、向井家にお邪魔しようか悩んだけど、やはりお墓参りの後ということで、一家で静かに、かつ和やかに過ごしました。
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