優輝さんに先導されてダイニングに向かうと、キッチンでエプロン姿の由香里さんが鍋をかき回しており、アメリ、ミケちゃん、久美さんがすでに着席していた。
大きなテーブルだなー。八人掛けか~。
「さっちゃんは?」
「さあ? さっきちょっとリテイク出したから、キリのいいところまでやったら降りてくるんじゃない?」
私たちに気付いた由香里さんが尋ねてくるので、優輝さんが返答する。
「さっちゃんって、さつきさんのことですよね?」
「ええ。なんか響きが可愛いので、なんとなく自然とそう呼ぶようになりました」
うんうん。たしかに可愛らしい。
「んで、今日は何?」
「栗ごはんとサンマの塩焼きと、小松菜のおひたしにナスのお味噌汁だよ~」
「あら、すごく美味しそうですね」
「ええ、腕によりをかけました!」
機嫌良さそうに優輝さんの問いに答える由香里さん。私も思わず釣られて微笑む。
そんな会話をしていると、階段からぱたぱたと足音が。
「すんません~、ちょっと遅れたっす~。もう始めちゃってるっすか?」
「いや、ちょうどこれからだぜ」
小走りでやってくるさつきさんに、湯呑でお茶を飲みながら返答する久美さん。
「あ、神奈さん。適当に掛けちゃってください」
「はい、ありがとうございます。アメリ、練習どうだった?」
「疲れたけど楽しいよ!」
優輝さんに着席を勧められたのでアメリの隣に座り尋ねると、にぱっとお陽様みたいな笑顔を向けてくる。
「ミケ、ちゃんと休憩取りながらやったよね?」
「もちろん! お姉ちゃんだもの、アメリの体調管理もお任せよ!」
ミケちゃんの隣に掛けながら優輝さんが心配するものの、当のミケちゃんは心配ご無用とばかりに、えっへんと胸を反らす。
皆の前に、由香里さんが次々に配膳していく。最後に自分のぶんを配膳し終わると、エプロンを外し着席する。
「じゃあ、始めましょうか。いただきます!」
由香里さんの声がけで、食事開始。
サンマ、栗、ナスという秋の味覚に舌鼓を打つ。良き哉良き哉。
「そういえば不躾な質問ですけど、ゲームってどのぐらい売れるものなんですか?」
「まあ、そのときどきですけど、うちは大体一万本ぐらいコンスタントに出る感じです」
代表して答える優輝さん。ほほー。
「本だとギリギリの採算ラインですけど……。ゲームだとどうなんですか?」
「ゲームだと中堅ですね。うちの場合、二千八百から三千八百の価格帯なんで、声優さんに支払うギャラやマージンとか税金引いて四分の一するとトントンです」
へー。ゲーム作りも大変なんだなあ。
「今のゲームって三千円とかなんですね。父が昔は一万円とかしたって言ってましたけど」
「あー、そのへんはピンキリです。上はフルプライスっていってそれぐらいのもありますし、下は百円とかの世界です」
「えっ! そんなに幅があるんですか!?」
思わず変な声を出してしまう。そりゃまあ本でも、少年少女向けの漫画単行本と六法全書では、天地ほど値段違うけど。
「開発人数と作業工程で変わりますからねー。百円クラスとかはほんとに簡素なのですし。あたしらの規模だと、さっき言った二千八百とか三千八百ぐらいが妥当なラインですね。もっと豪華なの作ってみたいな、とも思うんですけど……」
「今のウチらがいい感じにウマが合ってるからなー。下手に人増やしてトラブってもやだし」
小松菜を突きながら、優輝さんの言葉を受ける久美さん。
「やっぱり、人増やすって難しいんですか? なにぶん、担当さんとアシさんぐらいとしか関わらないからピンとこなくて」
「いやー……下手に規模大きくして空中分解とか、よくある話っすよ」
さつきさんが肩をすくめる。おお怖。漫画家って気楽だなー。
「うちは優輝ちゃんがなんていうか精神的支柱で、実作業は由香里ちゃんがすごいまとめるのが上手いから、おかしくなったことないっすけどね。特に由香里ちゃん、うちらの守護神っすよ」
「褒めすぎ~。もー、照れるじゃない」
由香里さん照れてる。可愛い。それ見ながら、「あはは」なんて笑ってる優輝さんもほほえま!
「そういえば、夕食の料理当番誰だっけ?」
久美さんの問いに、優輝さんがお味噌汁を飲みながら無言で挙手する。
「お前かー。まさか、またピザ焼く気じゃないだろうな?」
「え? ダメ? 美味しいじゃないですか、ピザ」
お味噌汁を飲み込み終わり、優輝さんが不服そうに返す。
「いや、だって一昨日もその前もピザだったじゃん……」
「え~。せっかくオーブン買ったんだから、使わないともったいないじゃないですか~」
「あ、結局買ったんですね。ピザ用オーブン」
以前招かれて宅配ピザをいただいたとき、そんな会話をしていたのを思い出す。
「そそ。ウチと由香里は要らないって言ったんだけど、私物として自腹で買うからって、ついに買っちゃってさ」
おーう、さすが気風のいい優輝さんらしいこと。
「ま、夕食をお楽しみに~」
料理当番がメニューの全権を握っているのだろう。優輝さんの笑顔に、溜息で返す久美さん。
「神奈さんも、アメリちゃんと一緒に夕食食べていってくださいよ」
「え、悪いですよ。お昼までいただいちゃいましたし」
「そう言わずに。こういうのは、人数多いほど楽しいですから!」
ううむ、笑顔で推されると弱いなあ。
「では、お言葉に甘えて」
「やったー!」
優輝さん大喜び。
いや~、こういう賑やかな食卓ってのもいいもんだね。
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