ことの始まりは、今朝のひょんな会話でした。
いつものように、皆さんとLIZEで朝の挨拶を交わしていたワタクシ。すると久美さんが、突然黄昏猫スタンプをポンと貼ったのにびっくり。
「どうしたんですか?」
私を筆頭に、さつきさんと由香里さんも、突然の謎スタンプに「誤爆ですか?」と問います。
「んにゃ。土日さ、ミケ子ももうずっと習い事じゃん? でさ、ノラ子もサッカー始めてキャッチボール付き合ってくれなくなってさ。クロ子は家が遠いから、もともとあまり来てくれないし……」
ははあ。彼女子供好きだものねえ。土日に子供と触れ合えなくて、寂しい思いしてるのか。
「でしたら、アメリと遊んでいただけますか? 私の仕事が忙しくて、近頃構ってあげにくいものですから」
「いいの!? 喜んで!」
◆ ◆ ◆
というわけで、今久美さんは、うちでアメリと一緒にダンスゲームをやっています。曲目はちょうど、彼女が作曲した「S-M-G 1915」。
「よっしゃ勝った!」
「おお~。久美おねーちゃん強い……!」
「自分で作った曲で負けたら名折れってもんだからな」
さすが、ご自身で作った曲と譜面だけありますねえ。
「お疲れ様でした~。それにしても、久美さんがそういう感じの激しい曲作るの、意外でした」
「あー。ウチ、どっちかというと、こういう感じのほうが得意なんよ。まあ、音楽なら何でも好きだから、昭和懐メロからアフリカ民族音楽まで幅広~くイケるけどね」
へー。
「そういえば素朴な疑問なんですけど、この曲名、どういう意味が込められてるんですか?」
一見しただけでは、まるで意味のわからない文字列だ。
「これ、サブマシンガン1915って読むんよ。サブマシンガンみたいな激しい連打のイメージで書いた曲でさ」
へへー。
「1915というのは何でしょう?」
「サブマシンガンが発明された年だね。そこから取った」
へへへー!
「博識ですねえ!」
「お褒めに預かり、さんきゅー」
ウィンク&サムズアップする彼女。
「あ、そろそろごはんが炊きあがりますね。よろしければ、久美さんのぶんもお昼作りますので、召し上がっていってください」
「え、わりーよ。あ、いや待てよ。あのさ、神奈サン。逆にウチが料理作ってもいいかな?」
ひょ!? なんと突飛なお申し出を。
「それはありがたいお話ですけど、あちらでのお食事はいいんですか?」
「由香里たちには連絡しとく。ただ、材料はこっちのものを使わせてもらっていい?」
「あ、はい。ただでさえ作っていただくのに、さすがに材料まで出してもらおうなどと厚かましいことは」
慌てて両手を振る。
「よっし! そうと決まったら、神奈サンは仕事に集中しててちょーだいな」
「久美おねーちゃん、アメリも一緒にお手伝いしたい!」
「お、マジ? じゃあ、一緒に作ろーぜ」
あらまあ、アメリちゃんが向こうに行ってしまいますか。まあ、アメリがそばにいるだけで私の能率は確保されるから、大丈夫かな?
「じゃあ、久美さんを手伝ってあげてね」
「らじゃー!」
しゅびっと敬礼。
「なんか、これだけは使わないでってものある?」
「そうですね……。夕方に買い出しに行きますから、ご自由に使っていただいて大丈夫です。調味料など、なくなりそうなものがあったら、教えていただけますと」
「ほいほい。じゃ、行こーぜ」
「はーい」と連れ立って、キッチンに向かうアメリと久美さん。調味料の位置なんかはアメリが覚えてるから大丈夫よね。
人様に個人的に手料理を作っていただくなんて、なんだか照れくさいにゃあ……。
◆ ◆ ◆
「おまっとさーん。食べに来てちょー」
久美さんがドアを開け、完成を告げる。
「ありがとうございます。今、行きますね」
作業を保存し、PCをスリープに。さて、何を作られたのでしょー?
キッチンに入ると、テーブルの上に美味しそうなチキン南蛮が!
「チキン南蛮ですかー。美味しそうですねー」
お米もお茶もお味噌汁もすでに配膳されているので、着席する。
「でしょ? 自信作だぜ」
この鶏肉はもともと昨日、チキン好きなノーラちゃんに出そうと思って、結局出せなかったものだ。傷む前に使っていただいてありがたい。
「じゃ、いいかな? いただきます!」
久美さんの音頭取りで、私たちもいただきますの合唱。
では、さっそくチキンから……。ぱくっ! うーん、ジューシィでいい揚げ具合! あんかけとタルタルソースのコンビネーションもグー!
トマトとレタスのサラダも、これまた美味し。ネギのお味噌汁も、これまた良き哉良き哉。
「すごく美味しいです!」
「ありがと。アメ子はどう?」
「美味しい!」
私たちの賞賛を受け、満面の笑みになる彼女。特に、アメリに気に入ってもらえたのが嬉しいみたい。
「そういえば、お食事まで作っていただいておいて今更ですけど、久美さんお仕事は大丈夫なんですか?」
「あー、そのへんはちゃんと帳尻合わせるよ。ミケ子と優輝が帰ってくる時間になったら、引き上げるつもりだし」
「おお~。久美おねーちゃん、もうすぐ帰っちゃうの?」
しょげ気味に尋ねるアメリ。
「二人が帰ってくるのは夕方だからな。それまではいるぜ」
「おお! じゃあ、次お勉強教えて!」
「いいぜー。白部サンほど上手く教えられるかわかんねーけど、任せとけ!」
ドンと、自分の胸を叩く。
なんというか、ほんと「面倒見の良さ」という言葉の化身のような人だ。
「ありがとうございます。良かったねー、アメリ」
「うん! 久美おねーちゃん、ありがとー!」
アメリ、私と白部さんの多忙が重なって勉強に飢えていたところだったから、本当にありがたい。
久美さんは子供とふれあいたい欲を、アメリは勉強欲を満たし、Win-Win!
寝室に戻り、心ゆくまで勉強を教わるアメリちゃん。
夕方になると、スマホの振動音が。
「ウチだわ。……りょーかい。二人が帰ってきたんで帰るわ」
「おお~……。久美おねーちゃん、帰っちゃうの?」
しょんぼりアメリちゃん。久々の、自習じゃないお勉強だったものね。
「ゴメンな。あのさ、神奈サン。またこうやって、アメ子の相手させてもらっていいかな?」
アメリの頭を撫でながら、提案してくる久美さん。
「はい、喜んで。私としても、繁忙期にこうしてアメリの勉強や遊び相手をしていただけるのは、大変助かりますし」
深々とお辞儀。
「んじゃ、お互いWin-Winってことで!」
ウィンク&サムズアップで返す彼女。というわけで、門までお見送り。
「またな、アメ子! 神奈サンも、無理しない程度にお仕事頑張ってくれな!」
「はい。今日は、本当にありがとうございました」
深くお辞儀すると、向こうもお辞儀で返す。
「久美おねーちゃん、バイバーイ!」
三人で手を振り合い、お隣の門に消えていく彼女を見送る。
「さーて、買い物でも行こうか、アメリちゃん」
「おおー!」
買い物支度をするため、自室へ戻るのでした。
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