神奈さんとアメリちゃん

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第三十五話 自転車でGO!

公開日時: 2021年4月17日(土) 19:01
文字数:2,340

「アメリ~。早速だけど、自転車買ってみようか」


 朝八時。いつもの寝ぼけモードからやっとこ立ち直ると、アメリに昨日提案した自転車の件を尋ねる。


「おお~! 自転車乗っていいの!?」


「いいよー。でも確かあのお店開くの十時だから、もうちょっと経ってからね」


 食器を片付けた後は一緒に寝室に戻り、仕事を軽く始める。


 そうして過ごしていると、目的の時刻がやって来たので、車でW町とS町の境あたりにある「ウェイラン」というディスカウントストアを目指す。


 住まいの近隣にもいくつか自転車屋さんはあるけれど、「駐車場がある」というのがここにした最大の理由。これがないと、行きも帰りも大変だからね。


 というわけで、とーちゃーく!


 一階建てだけど、なかなか広い店構え。私はこっちS町近辺に来ることはほとんどないけれど、機会がゼロというわけでもないのでこのお店に寄ったこともあり、自転車を売っているのを知っていたりする。


 すると、果たして自転車が店頭に並んでいるじゃあないですか! もちろん、ラインナップには子供向け自転車も。


 「おお~」と声を上げるアメリに、「どれがいい?」と問う。


 彼女が子供向け自転車のエリアをうろうろと物色することしばし、「これ!」と一台を指差す。


 それは、ピンク基調のキャラもの・・・・・のママチャリ。チェーンカバーと買い物かごの前面に人気猫キャラ「ケイティちゃん」が描かれており、どうやらこれにグッと来たようだ。補助輪もちゃんとついていて、これは具合がいい。


「よし、じゃあこれ買っていこう」


 入店し、くだんの自転車を購入する。防犯登録と保険も加入し、ついでに自転車カバーもお買い上げ!


 さらにもののついでということで、ディスカウント価格でマスぺとコラ・コーラ。そしてちゅ~ゆも買っていく。残念ながら生鮮食品はあまり充実していないので、それはいつものスーパーで済まそう。


 レジ打ちしている店員さんも、まさかちゅ~ゆが目の前のこの子アメリのためのものだなんて、夢にも思わないだろうなあ。コラ・コーラなど人間の味覚に目覚めた今なお、アメリはこうした物も相変わらず好む。


 人と猫の間にいる、とても不思議な存在。それがアメリたち猫耳人間。この先も、じわじわと猫耳人間は増えていくのだろうか。そうしたら、人は彼女らとどう関わっていくのだろう。


 なんだか柄にもなく遠大な思考をしてしまったが、考えてもせんないことよね。今はとにかく、アメリに充実した文字通り第二の人生を送らせてあげることが、私の努めだ。


 トランクに自転車を積み込む。ペダルとハンドルが邪魔で完全には閉まらないが、もともと自転車など積むようにはできてないのだから致し方なし。


 では、いざおうちに帰りましょうぞ!



 ◆ ◆ ◆



 「ただいまー」と車を降りた後は、トランクから自転車を出し中庭へと引いていく。


「よし、アメリ。乗ってみよう。このペダルを漕ぐと、自転車は前に進むよ。ただ、逆に回しても後ろには進まないからね。で、曲がりたいときはこのハンドルをその方向に傾けて。あと、これがブレーキ。止まりたいときは、左、右の順で両方握ってね」


 まずは、簡単な操作方法をレクチャー。早速乗ろうとするが、ちょっとまごつく。どうも、またがり方がいまいち良くわからないらしい。


「こうやって乗るんだよー」


 お手伝いしてサドルにまたがらせてあげると、「おお~!」と声を上げる。


「じゃあ、お庭をぐるぐる回ってみようか」


 彼女から離れ、窓辺で様子を見守る。最初はおっかなびっくり漕ぎ始めていたが、コツさえ掴めば後は早いもので、わりとすいすい進むようになった。さらにはブレーキングの具合を試したり、ベルを鳴らして自分で驚いたりしている。


「いいねー! 上手、上手!」


 ぱちぱちと拍手。親バカかも知れないけど、文字学習といい、やっぱりアメリは物事を理解し飲み込むのが早いと思う。考えてみれば、もうずいぶん経った気がするのに、彼女が今の姿になってからまだ一ヶ月も経っていないのだ。


 その後、一時間弱漕ぐのを見守る。どうやら、補助輪付きでの漕ぎ方はマスターしたようだ。


「すごいよ、アメリ! ばっちり! これならお出かけできそうだね。夕方になったら、これでお買い物行ってみようか」


「おお~!」


 拳を突き上げ、意気上がる彼女。ほほえま。


 暗くならないうちに、私の自転車も利用できるようにしないと。


 庭の奥で埃と自転車カバーを被っていたマイ自転車のカバーを外すと、茶フレームの二十六インチママチャリが姿を現す。自動車を買って以降、すっかり乗る機会がなくなっていたものだ。


 遠出をしたければ自動車を使うし、近場なら運動込みで歩くからねー。


 カバーで雨よけはしていたから錆びてはいないと思うけど、空気は入れたほうがいいよね。


「アメリー、先にお部屋に戻ってて。私、これまた使えるようにしなきゃいけないから、少ししたら戻るね」


 アメリの自転車は前庭に置き、鍵をかけておく。そしてドアの鍵を開け、彼女を戻らせた。私はそのまま、物置から空気ポンプを引っ張り出す。さーて、これが結構重労働なのよねえ、空気入れ……。



 ◆ ◆ ◆



「よーし。じゃあ、私の後をゆっくり着いてきてちょうだい。自動車の音が後ろから聞こえたら、ちゃんと振り返ってね」


 夕方。お米を水に浸してから、いつもの買い物時間に徐行でいつものスーパー目指して漕ぎ出す。度々背後を振り返りアメリの様子を伺う。うん、ちゃんと着いて来てるな。ブレーキをかけたとき危ないので、少し距離を空けるようアメリに注意しておく。


 歩きよりは早いけれど、自転車としては遅い。そんな時間をかけて、スーパーに到着!


「鍵はね、こうやってかけてね。停めるときはこうしないと、ケイティちゃん盗まれちゃうよ」


 アメリに鍵のかけ方も教え、いざ入店~。さーて、今日は何にしようかなー。

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