神奈さんとアメリちゃん

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第四百二十二話 ありがとう

公開日時: 2021年11月30日(火) 21:01
更新日時: 2021年12月1日(水) 18:41
文字数:2,814

「ミケちゃん、あれから久美さんの歌のほうはどう?」


 今日も今日とて、お勉強会。問題用紙ととっ組み合っていた彼女に、例の計画の進捗しんちょくを問うてみる。


「久美、うなってるわ。やっぱり、ムズカシーみたいね。ミケも協力してるんだけど」


 まあ、本来のお仕事もしながらじゃ難しいよね。


 私だって、「仕事と同時進行で、小数の勉強が楽しくなる漫画描いて」と言われたら、かなり悩む。アメリに教えるとき、分数までなんとか楽しく教えられたのが、割と奇跡的なんだな。


 協力したいものだけれど、久美さん直々に、仕事に集中するようにお願いされたからね。彼女の心遣いを無駄にしないためにも、頑張りましょー!


 しかし、白部先生の教室は本当に助かる。本来なら、私がアメリに教えなければいけないことなのに、ありがたいことしきり。


「猫崎さん」


「ほいっ!?」


 白部さんのことを考えてたら、当の本人から呼びかけられてびっくり。


「分裂怪人作戦、効果てきめんですね! ノーラちゃん、興味持って学んでくれてます。宇多野さんにも、お礼を言わないと」


「本当ですか! それは良かったです」


 お役に立てたようで、良きかな良きかな


「おー! こうやってベンキョーすると、面白いな! ブンレッツとの戦いが、目に浮かぶぜー」


 怪人、ブンレッツとかいう名前なんだ。まんまだね。


「いいなー。ミケもそうやって、キョーミ持てるので勉強できたらなー」


 ぼやくミケちゃん。ごめんねー。「勉強そのものに楽しさを!」なんて言っておいて、このノーアイデアぶり。


「センセーはさ、勉強って楽しかった?」


「ええ、すっごく! ……って言えたら、説得力があったんだけど。残念ながら苦痛というほどでもないけど、楽しくもなかったかな。医学部に入ってからは、やりがいはあったけど、とにかく必死で」


 「ふーん」と、良くも悪くもない反応に、気の抜けた返しをするミケちゃん。


「だからそのぶん、猫崎さんの『楽しくお勉強』っていうアイデアに心惹かれてね。みんなには、楽しく色んなことを学んでほしいなあって」


 あら、私ってば影響大?


「クレヨンやブロックを使っての勉強法や、アメリちゃんの恐竜式算数とか、心中すごく感動したんですよ」


 屈託のない笑顔と賞賛を向けられるもので、「いや~、お褒めに預かり光栄です」なんて、後頭部を撫でて恐縮してしまう。アメリも同時に、「うにゅう」と人差し指を突き合わせて照れる。


「ふふ、本当にリアクションが親子ですね」


 口に手を当て、微笑む白部さん。


「ミケちゃんはどうしよっか。気分転換に、漢字のほうにしてみる?」


「そーね。このまま、いまいちキョーミ向かない小数やってるよりいいかも。アメリには置いてかれちゃうけど、逆にクロに追いつくわ」


 いやはや、プライドガール。自分に折り合いつけるのも、大変ね。


「了解。すみません、猫崎さん。小四向け漢字の一覧を、プリントアウトしていただけますか?」


「はい~。少々お待ちくださいねー」


 執筆を一時中断し、一覧サイトにアクセス。プリントアウトする。まったく、便利な世の中ですこと。


「どうぞ」


 とことこ歩いていき、記入用紙ともども、プリントを手渡す。


「ありがとうございます。じゃあ、ミケちゃん。やっていこうか」


「はーい」


 こうして、再び白部先生と生徒たちの質疑応答がときどき交わされるだけの、静かな時間に再突入しました。私も仕事に集中。


「……でーきーたー!!」


 次号の原稿脱稿! 思わず大声を出してしまう。予定よりもいいペースだ!


「おお、おねーちゃんお仕事終わったの?」


「あ、大声出してごめん。とりあえず、片っぽはねー。真留さんにチェックしてもらわないと」


 送信~。はー、疲れたー。でもこの後、ほぼ間を開けずに、次々号と相変わらず読み切りのお仕事があるのです。ヤンナルネ。


 とはいえ、一区切りついたとこで休息を入れたいので、みんなの輪に混ざることに。


「あまり書き順は、こだわらせないんですね」


 ミケちゃんの漢字の書き方を見て、所感を漏らす。


「はい。今、ただでさえ勉強に苦手意識が出てますからね。あまりあれこれ詰め込まないほうがいいかなと」


 なるほど。一方クロちゃんは、書き順も完璧だ。さすが、和ガール。


 ノーラちゃんは、怪人……なんだっけ、ブンレッツ? 作戦が功を奏して、鼻歌交じりにお勉強。エレメントレンジャーの曲かしらね?


 肝心の愛娘は、白部さんの用意したテスト用紙に、すらすらと正解を記入している。これなら、小数の足し算・引き算も卒業だねえ。すごいわあ、うちの子。バトンタッチして、お勉強教えようと思ったけど、出る幕ないわ。


「ミケちゃん以外は、順調な感じですね」


「そうですね。ミケちゃんは苦手意識さえなくなれば、すいすいいけそうなんですけど」


「なんでも、ガッコーの授業にはダンスがあるそうじゃない? それやりたいわ」


 あー、あるねえ。でも、多分ミケちゃんが想像してるような、アイドルチックなダンスじゃないのよね。


「手持ち無沙汰ですし、新しいお茶菓子持ってきますね」


 みんなからお礼を受け、台所へ。


 戻り!


「おせんべいの次は、羊羹ですよ~」


「栗羊羹だ! ボク、羊羹ではこれが一番好きです」


 とにかく「和」が好きなクロちゃん、嬉しそうにはにかみ、すごい好感触。彼女のはにかんだ顔って、ほんと控えめな感じで可愛いよね。


「アメリは、こないだ食べた芋羊羹っていうのが気に入った~」


「芋羊羹も美味しいよね」


 などと幼女同士、主にクロちゃんメインで羊羹トーク。渋い光景だなー。


 こうして楽しい休憩をはさみ、勉強会もラウンドツー。アメリは小数の学習が終わって教材が切れてしまったので、ミケちゃんと同じく小四漢字を学ぶことにしたようです。


 その後、なんとか勉強会も無事終わり、お別れの後、クロちゃんを送り届けて帰宅。LIZEをチェックすると、無事原稿は受領されてました。


 ふう、こうやってワチャワチャやるのは楽しいけど、親しき隣人たちでも、まるで気疲れしないといえば嘘になるね。


 というわけで、アメリと二人きりでリラックスタイム。ベッドで膝枕して、頭を優しく撫でる。相変わらず、すべすべしていい触感だな。


「ねえ、アメリ。猫だった頃、幸せだった?」


「うん! よく覚えてないことも多いけど、すごく幸せだったと思う!」


「そっか」


 アメリは、幸せに天寿を全うできたんだね。あの日覚えた罪悪感と後悔が、私の気の持ちようだと改めてわかり、心が救われる。


「でもね、今はもっと幸せかな! 生まれ変われて、おねーちゃんとお料理したり、お勉強したりできるようになって、すごく嬉しい!」


 お陽様笑顔を向けてくる、愛娘。


「ありがとう」


 アメリ。生まれてきてくれて、ありがとう。我が家へ来てくれて、ありがとう。十四年、一緒にいてくれてありがとう。生まれ変わってくれて、ありがとう。これからも一緒にいてくれて、ありがとう。心を救ってくれて、ありがとう。


 万感の思いを込めて、「ありがとう」を伝え、頬をそっと撫でるのでした。

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