「いぃやっほおおおおおおおうっ!!」
時計の針はまたくるくるりと回って月末のお昼過ぎ、デスクの上で片拳を突き上げ、感極まって叫ぶ。
「おお? どうしたの、おねーちゃん?」
これには背後のアメリもびっくり。
「ふっふっふー。再来月号ぶんの原稿が仕上がったのですよ~」
彼女のほうへそそくさと歩み寄り、ハグからの頬ずりを華麗に決める。
「おお~。おねーちゃん、偉い!」
アメリもこういう状態になった私の扱いは心得たもので、優しく頭を撫でてくれる。えへへ~。
「いやー、単行本のおまけがまだ残ってるけど、こっちが仕上がったらもう余裕っすよ~」
さつきさんみたいな口調になりながら、両手を握って横にぶんぶんする。「おお~」と、いつもながらのハイテンションぶりに圧倒されるアメリちゃん。
「さーて、おめでたいときは何かおめでたい料理を作りたいよね! なーに作ろっかなー?」
両手ぶんぶんをゆっくり速度に落としながら思索。
おめでたい……おめでたい……ケーキ! そうだ、ケーキを焼こう!!
「よーし、アメリちゃん! ケーキを作るですよ!」
ぎゅーっとハグ。
「おお~。アメリも手伝う!」
「アメリちゃんなら、そう言ってくれると思いました! じゃあ、材料の買い出しに行きましょ~!」
というわけで、いつものスーパーへ!
◆ ◆ ◆
とうちゃーく! 無軌道な私も、さすがに今回はレシピチェックから入ろう。
今日の方針としては、まず皆さんにおすそ分けしたいというのがある。やはり、「祝」という気分のときには皆にこの気持ちをおすそ分けしたいというもの。で、次にポイントとなるのはあまり凝ったものは作れないかなあという点。
なにしろおまけコーナー自体はまだ手つかずだし、うちには優輝さんのものほど、どでかいオーブンもない。あとは、運ぶ際にクリームがべしゃっといっちゃうと悲惨なので、パウンドケーキ的なものでいこうと考えている。
そんなわけで、すいすいとスマホをいじることしばし。お、この「バナナケーキ」がよさそう! よし、今回はこれを作りまっしょい!
では、必要な物を買っていきましょう~。
バナナ四本一房。ホットケーキミックス四百グラム。チョコレート、卵と牛乳。はちみつはまだあるから、これはいいや。ケーキのほうはこれでOK。
晩ごはんは久しぶりにサバサンドでも作ろうかな。朝食のぶんも併せて、パンも買って……と。
うん、こんなもんかな? アメリちゃんはまだガムの封印を解いていないようで、特に必要なものはないとのこと。
それじゃあ、お会計~!
◆ ◆ ◆
ただいまー! 冬の帰宅後は手洗い&うがいが欠かせない。私もアメリも、風邪やインフルになったら大変だからね!
えーっと、レシピ動画によると四角い型が必要なのよね。まずそれを探して、洗っておきましょ。あったあった。洗浄しーの、拭きーのっと。
よし! では、先ほどのレシピサイトと三分でクッキングする脳内BGMをスイッチオン!
まず、バナナを半分に切りまーす。で、片方は六等分の輪切りに。もう片方はさいの目切りにします、と。これを二セット。
「アメリー。これ、六つずつの輪切りにしてくれる?」
「わかった!」
アメリパティシエールも参戦。私のほうは、さいの目に切っていきましょう~。
でっきあがりー。で、次は雑に手でちぎった別のバナナ二本ぶんをボウルに入れ、サラダ油大さじ四杯とはちみつ大さじ二杯を入れて、ヘラでうにうにとすり潰ーす!
で、ペースト化したら、卵四つと牛乳百ミリリットルを加え、ハンドミキサーで泡立てます、と。わお、ゴーカイ!
ここで、ホットケーキミックス四百グラムを投入! ハンドミキサーでダマがなくなるまで混ぜ合わせていく。
このあたりで、予めオーブンを百八十度に加熱させておいてっと。
生地のほうに、さいの目切りしたバナナと細かく砕いたチョコを入れ、ヘラで混ぜ合わせていきまーす。
型にハケでサラダ油をまんべんなく塗り、生地をもう一度混ぜて、半分流し込む!
アメリパティシエールが切ってくれたバナナを六個縦に並べ、彩りに。後は温まったオーブンに入れ、三十分焼成! ふう。お手軽はお手軽だけど、それなりに疲れるね。
「アメリちゃん、お疲れー」
頭を撫でると、「うにゅう」という気抜け声を上げる。
では、寝室でお仕事に励んでましょうか。
……というわけで、焼成終了! 竹串を刺し、生焼け部分がないことを確認する。
型から抜いたら、粗熱を取るべく、適切なサイズに切って放置。型をもう一度洗い、もうワンセット焼く。
二つ目も焼成終了! こちらも切って冷やす。型も冷ましておきましょー。
そして三十分ほど待ち、粗熱が取れたのを確認すると、ラッピング。型も洗ってしまっておこう。
「脱稿記念に、ケーキ焼きました!」とLIZEでメッセージを送り、皆さんご在宅なことを確認すると、配って回る。
「どうもどうも、ありがとうございます。ご脱稿されたそうで、新作楽しみです!」
と優輝さん。
「配り終わったら、単行本のおまけを描くつもりです。楽しみにしていてくださいね」
「はい、それはもう! 予約済みですよ!」
と、ガッツポーズで気合い十分な彼女。友人にして熱心なファンである彼女にそう言ってもらえると、とても励みになる。
続いて、白部さん宅にお邪魔。
「おすそ分け、ありがとうございます。ノーラちゃんも喜びますね」
口に手を当て、ふふと微笑む彼女。
「ノーラちゃんといえば、ミケ先生とクロ先生はどんな感じでした?」
こないだの、指導力を観る話が気になったので尋ねてみる。
「ミケちゃんは体当たり、クロちゃんは根気強く……みたいな教え方ですね。性格がよく出てるなと。ただ、所感ですけど指導力という面ではアメリちゃんが頭一つ抜きん出ているように感じました」
あら。アメリが褒められて、私まで嬉しくなってしまう。
「おお~! 頑張って教えた!」
「わかりやすかったぞー、アメリー」
と、アメリもノーラちゃんと両手をつないで横にゆらゆら揺らし、喜ぶ。立ち話も何なので、このへんでお暇。続いて車を走らせ宇多野家へ。
「ありがとうございます。ご脱稿、おめでとうございます! わたしのほうも、鋭意執筆中です」
と、まりあさん。
「『くろねこクロのたび』、必ず買わせていただきますね!」
「たしか、単行本も出されるんですよね。わたしも、そちら買わせていただきますね」
と、和やかに談笑。とはいえ、路駐なので長話をするわけにもいかない。
ほどほどで切り上げ、帰宅~!
「ふう。あまり、お友達とお話しさせてあげられなくて、ごめんね」
同乗していたアメリに、ソーリー。
「おおー。後で電話貸してー」
「ほいほい。おっけーですよん。じゃあ、中入ろっか」
かくして、突発的ケーキ配り大作戦は無事終了したのでした。
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