「それじゃーそろそろ、アメリにうちの中案内してあげようかな」
こたつでごろごろすることしばし。十分くつろいだので、提案してみる。
「おお? 見たい、見たい!」
「というわけで、お父さんとお母さんの部屋も見せてあげていい?」
「僕は構わないけど、お母さんは?」
「私も別に」
二人とも、快く同意してくれた。
「りょうかーい。じゃあ、行こっかアメリ」
「おお~!」
というわけで、部屋を移動する。
「まずは、仏間~」
まっ先に案内するのが仏間というのもどうかと思うけど、おじいちゃん、おばあちゃんへの挨拶がまだだったからね。
仏壇には、父方の祖父と祖母の位牌が置かれている。一礼してから正座してろうそくに火を灯し、お線香をあげて鈴《りん》を鳴らし合掌。
「おじいちゃん、おばあちゃん。ただいま。私は元気にやっているよ。なんと、アメリが猫耳人間になったんだよ。色んな人とも知り合えてね、今とても幸せ」
近況を報告する。最後にもう一度鈴を鳴らし、一礼して下がる。
「アメリも、これを鳴らして手を合わせてね」
「おお? わかった」
アメリも、私に倣う。この行為の意味は、まだわからないだろうけれど。
お父さんは、比較的早くに父母……すなわち私の祖父と祖母を亡くした。私への愛の深さも、「人はいつまで元気でいられるかわからない」という経験と想いがあってのものなのかもしれない。
この部屋はもともと、おじいちゃんの部屋だった。小学生の頃、ここでよく遊んでもらったものだ。現在は仏間兼、多用途に使われている。
「アメリ、そろそろいいよ。最後にもう一回、それを鳴らして一礼してね」
「おお」
言われた通りにした後、立ち上がる。
「じゃー、次は……お父さんの部屋にしようか」
「おー!」
というわけで二階に上がり、お父さんの部屋を見せる。
作業用デスクとノートPCにベッド、本棚、オーディオセットがまず目に付く。ベッド以外の木製家具は、全部お父さんの自作だ。
物珍しそうに、きょろきょろ見回すアメリ。
「まー、アメリはうちにいたときも、あまりここには入らなかったからね。次行ってみよう」
続いて、お母さんの部屋。
こちらにもデスクとノートPCとベッド。そして本棚。デスクの上には、編みかけの編み物と毛糸玉がある。
「こっちも、アメリはあまり入ったことがなかったね。じゃあ、ラストは私の部屋!」
久々の自室は、お盆に帰ってきたときと変わっていなかった。こちらにもデスクがあるが、パソコンはない。私物として、東京に持っていったからだ。今はすっかり代替わりして、当時のものは処分してしまっている。
代わりといってはなんだけど、本棚がとにかくぎっちり。ほとんどが漫画だ。何ぶん漫画バカなもので、テレビもオーディオもないという漫画特化部屋。
埃が溜まっていないのは、お母さんがきっちり掃除してくれているからだろう。
「この柱のここ、見てごらん」
エアコンのスイッチを入れた後、柱の低い部分についた傷を見せる。
「おお? 何この傷?」
「これ、アメリがやったのよ」
「お、おお……。よく覚えてないけど、ごめんなさい」
しゅんとするアメリ。
「あー、責めてるわけじゃないから。ただ、懐かしいなって思って。あ、そうだ!」
漫画の中に混じった、アルバムを取り出す。
「えーっと……あったあった。ほら、見て。仔猫だった頃のアメリ」
アメリをお迎えして間もない時期の、ツーショット写真を見せる。
「おお~? これ、アメリ? あと、こっちおねーちゃん?」
「そだよー。アメリ、ちっちゃくて可愛いよねえ。もちろん、今もすごく可愛いけど」
頭を撫で撫ですると、「うにゅう」と気の抜けた声を出す。中学生の私、初々しいなあ。
その後もアルバムをめくって彼女との過ぎ去りし日々の思い出を見せていく。
一通り見終わると、アルバムを閉じる。
「ふう、懐かしかったー。あ、そうだ。アメリもあの漫画読んでみる? 賞に落ちた私を、立ち直らせてくれた漫画」
「おお? 見る!」
私にとって聖典となった、伝説のバスケ漫画の第一巻を手渡し、私は二巻を手に取る。
ルビが振ってあるから、アメリもちゃんと読めるでしょう。バスケがマイナースポーツだった頃の漫画で、初心者向けなのも安心ポイント。わからないことがあれば、その都度教えていけば良し。
たまに飛んでくる「これどういう意味?」に答えながら、黙々と読み耽る私たち。
すると、廊下から私を呼ぶお母さんの声が聞こえた。
「はーい?」
外に出て、返事する。
「あ、自室にいたのね。ごはんできたから、食べにいらっしゃい」
「あや、もうそんな時間? 言ってくれたら手伝ったのに」
「いいのいいの。東京から帰ってきたばかりなんだから。今日ぐらい、とことん甘えちゃいなさい。今晩は肉じゃがよー」
「Oh! ニクジャーガ!」
出ました! ザ・家庭料理!
「アメリー。ごはんできたって。食べに行こう~」
「おお~」
漫画を本棚に戻し、エアコンのスイッチを切り消灯して、ダイニングへと向かう。
ダイニングでは、お父さんがニュースを見ながらお茶を飲んでいた。
「おお。おかえり、神奈」
私たちに気付き、声をかけてくる。
「ただいまー。なんかめぼしいニュースあった?」
「まあ、ニュースだからねー。楽しい話は特にないかな。小さな女の子に聞かせるのはどうかなって話ばかりだよ」
「そりゃそうだね」
アメリと二人で手を洗い、一緒に着席する。
「じゃあ、よそうからね」
「はーい」
先に戻っていたお母さんが、配膳の準備をする。
「あ、そうだ。寝るとき客間のほう使っていい? いつもアメリと一緒にシングルベッドで寝てるから、たまには広いスペースで寝ようかなって」
「うん、好きにしていいよ」
「やったー! 今日は広いお布団だよ、アメリー」
「おお?」
狭いベッドに慣れすぎて実感が湧かないのか、不思議そうな表情を向けてくる。
「印税が入ったら、セミダブルに買い換えようかなあ」
帰ったら、通常の仕事に加えて単行本化作業が待っている。発売は二月初旬。それまでの辛抱だねー。
「はい、お待たせー」
肉じゃがとお味噌汁、そしてほかほかごはんとお茶が並べられる。ああ、何もしなくてもあったかごはんを出してもらえる、この幸せ……。実家ってほんと素晴らしい!
それじゃあ、いただくとしましょうか!
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