炊飯の用意をして、LIZEチェック。
白部さんから皆さんにも、国会への招致と、その用意のためにしばらく立て込む旨が書き込まれていました。
彼女から皆に、「代弁して欲しいことはありますか?」との質問があったので、めいめい何をお願いしようかと悩んでいる状況です。
やはり、まりあさんを筆頭に、研究の是非は一旦置いておいて、人権法を早めに確定させてほしいという意見が第一のよう。
私としても概ね同意なのだけど、研究医療は研究医療で放っておいていい問題ではないのは確かかなー。せめて、一回三時間に及ぶ検査を半分……いや、せめて二時間ぐらいにできないものかと思ったり。
せっかくなので、ご挨拶がてら提案してみよう。
皆さんからご挨拶が返ってくる。
ただ、白部さん私の提案には渋くて、「それをするなら、一時間半の検査を月二回とかになりますけど、どちらがよろしいですか?」と、悩み猫スタンプとともにお返事。うーん、やっぱり単純に簡略化ってできないのか……。
「検査を簡略化すると、やはり障りがありますか?」
「そうですね。我々としても、もっと負担を減らしてあげたいのはやまやまなんですが……」
白部さんも、ノーラちゃんの親だ。愛娘の負担を一番減らしてあげたい立場なはず。それをできないときっぱり仰っているのだから、できないのだろう。
「サンプル人数が多ければ、それだけ一人あたりの負担が減らせるのですけどね」
「どういうことですか?」
「たとえば、風邪にかかる人は毎年たくさんいますけど、患者さん一人ひとりに対して何時間も検査しませんよね? 数が多いのと、今までの蓄積があるからなんです」
なるほど。たしかに、アメリが風邪引いたときも、普通の風邪に対する処置だったものね。猫耳人間でも、風邪程度なら難しい検査をするまでもなく対応できるって寸法か。
つまり、アメリたちの負担を減らすのは、当面無理と。困ったものだね。
「例の議員には、どう攻めていく感じですか?」
優輝さんから、質問が飛ぶ。
「やはり、誠実に必要性を訴えるしかないですね。あとは、私の立場……研究者であると同時に、猫耳人間の親というのをアピールするぐらいしか」
まあ、当事者中の当事者が、苦悩しながらも我が子に負担を強いているんですと言えば、わりとぐうの音も出ないかもしれない。それを虐待とか言い出されると、こじれそうだけど。
「実際、国内外の保護者の方々から、負担を減らせないかという声はいただいているので、検査工程の見直しは、上層部の許可を得た上で折衷案として提案してみるつもりです。実際に省ける部分があるかは、確約できませんが……」
白部さん、本当にお難しい立場にいらっしゃる。私が同じ立場だったら、どうしたらいいかわからなくてパンクしてるな……。
医学部って六年制で、彼女は私と同い年だから、まだ四年選手のはずなのに、すでにベテランの風格を感じてしまう。
「ちなみに、いつ国会に出られるんですか?」
「今週末、十一日です。締切がタイトで厳しいですが、頑張るしかないですね。あ、そうだ猫崎さん」
「はい、なんでしょう?」
由香里さんの質問に答えていた白部さんが、突如話を振ってくる。
「恐縮ですが、当日ノーラちゃんを預かっていただくわけにはいかないでしょうか? 私と離れるなら、アメリちゃんと一緒にいたいと言って、聞かないものでして……」
「ああ、それならお安いご用ですよ。お昼も、必要なら夜もごはん用意しますので」
サムズアップ猫スタンプ。
「いえ、さすがにそれは……」
「お気になさらないでください。私たちの気持ちを背負って、国会という大舞台に立たれるわけですから」
「恐縮です。では、ご厚意に甘えさせていただきます。当日は、よろしくお願いします」
お辞儀猫スタンプ。
「では、資料や原稿の用意を進めなければいけませんので、一旦チャットを抜けさせていただきます。ご意見、ご要望がありましたら、三日前ぐらいまでならぎりぎり盛り込めると思いますので、ご遠慮なくお伝え下さい」
白部さん、ほんと大変だな。明日、サンドイッチでも作って陣中見舞いに行こうかしら。
私たちは私たちで、白部さんを通じて議員の方々に伝えたいことをまとめようと話し合う。
私としては、やはり公的な教育の機会と、養子縁組なりなんなりで、正式に親子になれる制度がほしい。
皆さんにも、概ね同意していただけたので、こういうのが得意な由香里さんが、意見をまとめて白部さんに送信する。既読がつかないのは、作業に集中してるんだろうね。
当面伝えたいことは、今しがた伝えていただいたので、仕事に集中する旨を書き込み、チャットを抜ける。
白部さんも大変だけど、私も原稿大変なのよね。今のところ、スケジュールに遅れはないけれど。
明日は真留さんも来るし、とにかくできるところまでやっておこう。
仕事をこつこつ進めていると、ごはんが炊けたので、アメリと一緒にアジの開き定食を作って、美味しく食べました。
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