神奈さんとアメリちゃん

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第七十一話 神奈の「すべて」

公開日時: 2021年4月18日(日) 21:31
文字数:2,086

真留さんが来た翌十時。松戸医院で抗体検査のための採血をしてきました。結果はマル。というわけで、来週BCGを接種することに。


 アメリはきちんと注射を我慢してくれて、思いっきり抱きしめ、頭を撫でてあげました。良きかな良きかな


 「ウェイランディスカウントストア」で雑多な買い物を済ませ、帰る頃にはもうお昼どき。特にすぐ消費しなきゃいけない食材もないしと、せっかくだから通り道である国道交差点の角にあったイタリアン・レストランに入ってみることにしました。


 お店の名前は「マンマ・トラットリア」で、チェーン店みたい。メニューを見ると少々価格はお高めで、ファミレスよりワンランク上っぽいね。内装もオシャレで、結構高級感が。


「アメリー。何にする?」


 席に案内された後、メニューを手渡し一緒に眺める。


「ランチもあるんだ。でも、スパゲッティーとかにパンまで付けたらアメリには食べ過ぎになっちゃうねー」


 とか言いながら、私はイカスミスパゲッティーのランチに決めてたり。


「んー……これ!」


 アメリはちょうどいい感じにあった、「お子様プレート」を指差しチョイス。チキンライス、エビフライ、ハンバーグ、フライドチキン、ジュース、プリン……。一つ一つは少量だけど、なかなか豪勢。


「こういうの、ちゃんとあったんだ。ちょうどいいねー」


 というわけで、オーダー。ランチには、パンのほかにドリンクも付いていてアルコールも頼めるけど、車だからNG。というわけで、カプチーノをホットでいただきましょう。



 ◆ ◆ ◆



 おしゃべりに興じていると、やって来ましたお昼ごはん!


「おお~。いっぱいあるねー」


 写真通りに種々多様な品々に瞳を輝かせるアメリ。


 さっきのおしゃべりでもやや明るい感じだったし、少しずつ上り調子になってるみたいね。


「おねーちゃんの、何それ? 真っ黒だね……」


 続いて、私のイカスミスパゲッティーを見て目をくりくりと見開き驚く。初見びっくりするよね、これ。


「イカって墨を吐くんだけどね。その墨を使ったソースのスパゲッティーなの。おいしいんだよー。後でひと口分けてあげるね」


「おお~。そめごろうすごいなー。そんなことができるんだ……」


 なぜか、そめごろうに感心するアメリ。アメリの中では、そめごろうは大変だったりすごかったり忙しいね。ほほえま。


 さてさて、早速いただきましょうか。私がいただきますと言うと、アメリも続く。


 うん、イカスミってほんとコクがあるよねー。これ食べようって思いついた人、ほんと尊敬するわ。


 前に某ファミレスで食べたイカスミスパゲッティーは実にぱっとしなかったけど、ここのはお高いだけあってきちんとしてる。


「アメリ、美味しい?」


「うん!」


 アメリも元気にエビフライをはむはむ。アメリが元気だと、私まで元気が湧いてくるね!


「はい、あーん」


 アメリが自分のぶんを食べ終わったので、最後にフォークに巻きつけたスパゲッティーを差し出す。


 ちょっと、ちゅるっと音を出しちゃったけど、もぐもぐごっくん。「美味しい!」と瞳を輝かせる。


「うん、うん。美味しいでしょ」


 和やかな雰囲気で食事終了。残ったカプチーノを飲み干し、ごちそうさまでした!



 ◆ ◆ ◆



 家に帰った後は、LIZEの確認。あ、真留さんから修正後プロットOKのお返事が来てる。


 では、ネームに取り掛かりますか。すいすいと筆を走らせていると、肩をちょんちょんとつつかれた。


「どうしたの、アメリ?」


「えっとね。文字を覚えられたか知りたいの」


 胸元で、「くろねこクロのたび」第一巻を抱えている。


 ふむ。お仕事も大事だけど、前向きになってくれたアメリの心意気をまないとね!


「よーし。じゃあ、声に出して読んでみて」


 一緒にベッドに腰掛ける。


「あるところに、クロというくろねこのおんなのこがいました」


 出だしから読み上げていくアメリ。うん! すごい! ちゃんと読めてる!


「こうして、クロはたびにでることにしたのです」


「おっけーおっけー。一旦ストップね。あんまり一気に読むと疲れちゃうから。すごいよアメリ、全部ちゃんと読めてる!」


 キリのいいところで休憩。


「ほんと!?」


 お陽様のような笑顔。ああ、やっぱりアメリには笑顔がサイコーに似合うなあ!


「うん、うん。すごいよ、ほんとすごい!」


 ぎゅーっと抱きしめて頭を撫で撫ですると、「うにゅう」という、おなじみの気の抜けた声を上げる。


 ああ、可愛いな。愛しいな。嬉しいな。とろけちゃうな。ほんとに、私にとってアメリはすべてなんだ。


 ずっと、こうしていたい。でも、それじゃお仕事にならないよね。真留さんや読者さんたちも、大切な存在だし。


 むむむ……。断腸の思いで、アメリのホールドを解除!


「ごめんね、アメリ。もっと一緒にいたいけど、お仕事しなきゃ。でも、いつでも呼んでね」


 ほっぺたにキスをして、仕事机に戻る。そういえば、猫時代はよくお口にちゅっちゅしてたけど、今のアメリにやるのは、ほっぺたでもちょっとこっ恥ずかしいな。やだ、今さら頬が熱くなってきちゃった。でも、アメリカなんかでは普通のスキンシップよね、うん!


 ……とか考えてないで! 集中、集中!


 なんだかへんてこな気持ちになりながら、筆を走らせるのでした。

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