優輝さんには連絡済み。今日はミケちゃんも一緒だし、気合い入れて作りましょうかねー。
「おねーちゃん!」
冷蔵庫の中を眺めていると、不意にアメリが話しかけてきたのでそちらを見る。
「なーにー?」
「ごはん、アメリが作りたい!」
あら。唐突だけど、結構な心構えね!
「うん。じゃあ今日の料理はアメリちゃんに作ってもらおうか。ただ、メニューと材料は私が決めるけどいいかな?」
こないだ、やっと目玉焼きを覚えたばかりのアメリに全権を委ねるのは、さすがにできない。
「うん!」
元気に頷く彼女。隣のミケちゃんを見ると、期待に輝く目でアメリを見つめている。
今日はちょっと凝ったものにしようと思ったけど、こうなるとシンプルな料理がいいね。
よし、これにしよう。
「それじゃあ、今日はベーコンスクランブルエッグと、トマトときゅうりのサラダにしましょうか」
冷蔵庫から材料を取り出し並べていくと、アメリがマイエプロンを締める。
「そうだなー……先にサラダから作っちゃおうか。アメリ、まずはきゅうりを洗って、薄く斜め切りにしよう」
「はーい!」
言われた通りに切る彼女。さすがに包丁は結構扱い慣れてきたのか、割とスムーズに切れた。「上手上手!」と褒め称える。
「よし、先っちょは捨てちゃってね。次は、トマトをいつも私がやってるみたいに、六つに切ろう」
これも、割とスムーズに……はいかず、ちょっと切断面が乱れてしまった。まあ、柔らかいからね。とはいえ、「その調子!」と褒めるのを忘れない。
「あとは、これをきれいにお皿に盛り付けよう」
三人分の小鉢を用意すると、アメリシェフがせっせと並べていく。「いいよいいよー!」とまた褒める。
「さあ、ここからが難しいよ! まずはボウルに、卵を三つ割り入れよう」
こんこん、かしゃと、卵を割り入れる彼女。やはり殻が少し入ってしまったので、菜箸で取るよう指示する。「そのうちもっと上手になるよ!」とフォロー。
「よし。じゃあこれを、菜箸でかき混ぜよう!」
かしゃかしゃとかき混ぜていくアメリちゃん。「いいよー、その調子!」と褒めるのを忘れない。
「いいね! 次はフライパンに油を引いて、中火で加熱しよう」
言われた通りに加熱。「その調子だよ!」とまた褒める。
「次に、ベーコン六枚を焼こう。火を通しすぎないようにね。」
じゅうううと、べーコンをフライパンに並べていく。いやー、火を使わせるのは緊張するわー。ともかく、「いいよー!」と合いの手を入れる。
「胡椒を軽く振りましょう。……うん、そんな感じ。じゃあ、そろそろひっくり返そう」
たどたどしいながらも、なんとかひっくり返していく彼女。良き哉良き哉。「お上手!」とこれまた褒め言葉。
「よし、そろそろいいかな。一旦火を止めて、ベーコンを二枚ずつお皿に空けよう」
よいしょよいしょと移していくアメリ。「うんうん、上手い上手い!」と褒める。
「次は、もっかい中火にして、フライパンにさっきの卵を流し入れてかき混ぜよう! こっちも軽く胡椒を振ってね。あまり火を通しすぎるとボソボソした感じになるから注意ね」
さーっと流し入れ、胡椒を振った後、うんしょうんしょとかき混ぜるアメリシェフ。「いいよー、上手いね!」と褒め褒めモード。
「よし、火を止めて! あとは三人分にベーコンのお皿に分けてね」
フライパンを回しながら、少しずつ量を合わせていく。おお、最初からその発想ができるとは。……かんせーい!
「すごいよー、アメリちゃん! よくできました!」
頭を撫でると、「うにゅう」という弛緩した気抜け声を上げる。すごく緊張しながら作ってたんだろうな。
「さあ、あとはベーコンスクランブルエッグにケチャップを、サラダにマヨネーズを掛けたら完成だね! これはみんな好みがあるだろうから、それぞれ好きなようにかけよう」
パンのレンチンと配膳は私が務める。最後に紅茶を淹れ、着席。アメリもエプロンを外し、ミケちゃんお隣に着席した。
「それじゃあ、いただきます!」
二人も、「いただきます!」と続く。
「美味しい!」
キラキラ瞳を輝かせるミケちゃん。
「おお~、ありがとー!」
「これ、アメリの手料理なのよね。うふふ、アメリの手料理かー」
ほんわかモードで上機嫌なミケちゃん。ぷんすかしながらうちに来たのが嘘のようね。
「あのね、おねーちゃんとミケに食べてもらいたいから、一所懸命作った!」
「そっかー。ありがとう、頑張ったねー」
アメリに微笑むと、「うにゅう」と照れくさそうに俯く。あら、ミケちゃんも恥ずかしそうに俯いてもじもじしちゃって。ほほえま!
お昼も美味しく食べ終わり、私は仕事、アメリたちは遊びに戻る。食洗機ってほんと便利ね!
ミケちゃんの乱入という珍事はあったものの、仕事自体は至ってスムーズに進んでいる。このペースが維持できれば、単行本の全余白におまけを入れられそうだ。
「でね、お尻の怪獣がね……」
「おお~……」
ミケちゃん、また変な映画の話してる……。もう、私もアメリも慣れたものだけど。
こんな感じで時間は過ぎていき、ミケちゃんはとっくり陽が沈むまで遊んでいきました。
「それじゃあ、アメリ。ミケちゃんを送りましょ」
「はーい!」
「う~、もっとアメリと遊んでたいなあ……」
「流石にこれ以上はちょっとね。優輝さんたちも心配するし。お姉ちゃんなんだから、心配かけちゃダメよ」
「そ、そーよね! お姉ちゃんだものね! わかったわ!」
というわけで、三人でお隣へ。
「はーい……あ、こんばんは! 今そちらに行きます!」
インタホンを押すと優輝さんが応対に出て、ややするとロックを外した門までやって来た。
「こんばんは」と、アメリと一緒に挨拶する。ミケちゃんは「ただいま」。
「アメリちゃんもこんばんは。そしてお帰り、ミケ。すみませんね、今日はミケがとんだご迷惑を。お昼までごちそうしていただいて……。この埋め合わせはいずれ」
「いえいえ、埋め合わせなんてそんな。かえって二人の仲が深まったようで、良かったです」
「そうですか? 恐縮です」
背の高い優輝さんが、縮こまる。
「そうですねえ……。では、また楽しいパーティーやイベントにお誘いください。それが、とても楽しみですから」
「そういうことでしたら、お任せを!」
ドンと、自分の胸板を叩く彼女。
「では、買い出しと仕事が残っているので失礼します」
「はい。今日は、本当にありがとうございました」
互いに深く礼をし、別れを告げる。
さて、着替えて買い出しに行きましょ~。
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