「で、神奈おねーさん。どんな料理を教えてくれるの?」
前向きになったミケちゃんが、今日のメニューを尋ねてくる。
「ずばり、ホットドッグとピザでーす!」
「えー!? ホットドッグはともかく、ピザなんてミケに作れる? 優輝が作ってるの見たことあるけど、大変そうだったわよ?」
「あー、私たちが今回作るのは、ずばり食パンホットドッグとピザトースト。とってもお手軽だから、だいじょーぶ!」
不安そうなミケちゃんに、サムズアップと笑顔で答える。
「案ずるより産むが易しっていってね、言葉で説明するより、実際作ったほうが早いからやってみましょ!」
ぽんと手を叩き、ウィンナー四つと食パン二枚の載ったお皿を手に、三人でコンロ前に移動。
「うちはガスコンロでね。ミケちゃんちのIHに比べるとちょっと火加減が手間だけど、やり方教えてあげるからね。まずはフライパンを……」
二つのフライパンをコンロに乗せる。
「これをね、中火で熱してほしいの。ガスコンロの火の点け方はね……」
ミケちゃんに、ガスコンロの扱いをレクチャー。
「ふーん。これが中火なのね」
「中火と弱火はよく使うから、覚えといてね。ミケちゃんちはIHだけど、キャンプでガス使うこともあるだろうからね」
そう説明すると、今まで感心薄だったガスでの火加減に、しっぽをピクつかせて興味を持ち始める。
「で、フライパンが熱くなったら、バターを溶かします。このぐらいね」
ざっと十グラムずつをチューブから絞る。
「じゃあ、ウインナー二つずつと、パンの片面を焼いてみよー」
子供たちが「はーい」と、材料を投入する。
「ミケちゃん、ウィンナーは片側だけ焼けないように菜箸で転がしてね」
そうやっていると、ウィンナーに焼き色が付きました。
「ちょっと、パンの裏面も見せてくれる? ……うん、火を止めて」
消火。
「で、こう、パンの焼いた面の中央に菜箸を当ててですね、半分に軽く曲げてくださいな」
やり方を説明すると、子供たちが実践する。
「いいね! あとはサニーレタス、ウインナーの順に載せてですね。ケチャップとマスタードをかけて、もう一度ゆるく折ったら完成~。マスタードは苦手なら、ないでもいーよ」
「ウソ! こんな簡単なのでいーの!?」
ミケちゃん、しっぽを立ててびっくり。
「いいのよー。これで完成! 冷めないうちに召し上がれ」
私もさっさと同じものを作り、麦茶をみんなに注いで着席。
「「「いただきます!」」」
三重奏。にぎやかだね。
「簡単なのに美味しいわねー」
狐につままれたような表情のミケちゃん。
「簡単で美味しいって、朝食の大事な要素だからね。あ、ミケちゃんには言ってなかったけど、これアメリに朝食教える会でもあるの」
「へー」と感心するミケちゃん。しっぽが興味深げにぴくぴく揺れている。アメリも同様。
こうしてしっぽ丸出しが当たり前になると、この子たちがロングスカートの下で、今までもこんな多彩な意思表示をしてたのだとはっきり気付かされる。このへんは猫なんだなあ。
そして、食べ終わったわけだけど。
「ごちそうさま。でもおねーさん、パン一枚とウィンナー二つじゃちょっと足りないわ」
食べ盛りなミケちゃんが、不満を口にする。
「大丈夫よ。今度はピザトースト作るからね」
全員食べ終わったので、お皿を片してまな板を二つ置く。
「さて、ミケちゃん。包丁の使い方教えちゃいますよー」
「ええ!? 怖いことない!?」
「やり方を守って、慎重にやればだいじょーぶ。ほら、アメリもミケちゃんがしっかりできるかなーって見いてるよ」
そう言ってアメリのほうに視線を促すと、実際私たちを見ていた。真意はわからないけど、じっとこちらを見ている。
「うう……やってみせるわよ!」
「偉い! じゃあね、まず玉ねぎの皮を剥こう」
ミケシェフの皮むき。
「で、先端は切り落として半分にしちゃいましょうね。これは私がやっちゃう」
すとん。
「目が痛い~!」
もはやお約束になった苦情を述べるミケちゃん。
「我慢してねー。じゃ、猫の手で薄切りにしていこう。アメリは大丈夫だろうから、ミケちゃんに教えるね。猫の手っていって……」
猫の手法で、手を添えながら注意深くレクチャー。優輝さんは私を信頼すると仰った。それを裏切るわけにはいかない。
サクサク切っていくアメリと対象的に、たどたどしいミケちゃん。
それにしても……なんかアメリが静かだな。いつもはもっとにぎやかな子だったはずだけど。
ミケちゃんが、なんとか玉ねぎを切り終わる。
「じゃあ、次はハムを切ろう! こうやってね……」
またもや、ミケちゃんを補助しながら達成! 長方形に細かく切られたハムが出来上がりました!
「ミケちゃんはちょっと待っててね。アメリ、ズボッと法で種取って、ピーマンの輪切り作ろう」
アメリのほうに行くと、「うん!」と元気よく返事し、しっぽをピンと立てる。んん?
ともかく、それぞれの具材完成!
「あとは、食パンにケチャップをまんべんなくかけてね、ハム、ピーマン、玉ねぎ、とろけるチーズの順に載せて、トースターで三分焼きまーす」
というわけで、待機中に私も自分のぶんを用意する。
ちーん!
「はい、でっきあがり~! 簡単でしょ? 先に食べてていいよ。冷めちゃうからね」
私のトーストと入れ替えて、お皿に乗せて配膳する。
「「いただきます!」」
子供たちの合唱。
「こっちも美味しい!」
ミケちゃん、しっぽピーン! ふふ、かなり気に入ってくれたみたいね。
「どういたしまして。ね、料理って意外と簡単でしょう?」
こくこくと激しく頷くミケちゃん。
「手間がかかるのは、ほんとかかるんだけど、ピンからキリってことね。こういう簡単なレシピ、優輝さんなら特にいっぱい知ってるはずだから、おうちでも習ってみるといいんじゃないかな」
「うん! そうしてみるわ! ね、アメリ。今日のミケ、かっこよかった!?」
キラキラした瞳を向け、対面の愛娘に問うと……。
「あ、うん。かっこよかったと思うよ」
あ、あれれ? 無表情で、なんからしくないリアクションだな? あ、私のトーストもできた。
ともかくも、いただきます宣言! うんうん。良き哉良き哉。
ミケちゃんも料理に興味を持ってくれたようで、これも良き哉良き哉。
ただ、アメリの様子が気になるな? どうしたんだろう?
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