神奈さんとアメリちゃん

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第三百三十七話 アメリシェフ、がんばる!

公開日時: 2021年8月31日(火) 21:01
文字数:2,020

「れっつ・くっきーん!」


 台所で拳を突き上げると、きょとんと見上げるアメリ。


「今回アメリシェフが全部調理するのだから、こうやって気合い入れよう! じゃ、もっかい。れっつ・くっきーん!」


「おおー、れっつ・くっきーん!」


 二人で拳を突き上げる。


「さて、アメリちゃん。自由に食事を作ってみたいよね?」


 屈んで目線を合わせ問うと、「うん!」と答える。


「私にも、そんな時期がありました。でもですね。何ごともキホンが大事なのです。そこができてないと、美味しくない料理ができてしまいます」


 「うにゅう……」と、神妙な表情のアメリ。


「で、ですね。そこで大事なのがレシピです。レシピ通りに料理を作ることは、恥でもなんでもありません。ここ、ポイント。ほら、私もよくレシピ動画見ながら作ってるでしょ?」


 こくこくとうなずかれる。


「というわけで、今レシピ動画を出したので、アメリちゃんにスマホを貸します。まず画面を一回ポチッと押して、縦棒二本のを押すと、画面が止まるのね。動かしたいときは三角のときに押して。あとは、このスライダーを左右に動かすと、進んだり巻き戻ったりできるよ。試しにに動かしてごらん」


 言われた通り、再生したり、止めたり、巻き戻したりする。そのたびに、「おお~!」と感嘆の声を上げるのでした。


「ほかの部分はいじらないでね。画面が変になっちゃったら、私に渡してね。それじゃー、やってみよう!」


「頑張る!」


 動画を再生するアメリ。


『まず、きびなごをボウルに入れ、塩大さじ一杯を振ります……』


 動画の指示に合わせて、一所懸命それを追うシェフ。応援してるよ!


 動作が遅れたら巻き戻して同じところを見ながら、少しずつ手順を踏んでいく。


 二分放置したら水でサッと洗い、ザルに揚げる。うん、順調順調。


 続いてキッチンペーパーで水気を拭き、唐揚げの粉をまぶす。


 そして、油をお鍋に注いで点火! 私も、ここからの作業は細心の注意をもって見守る。


 で、きびなごを入れ始めるけど……。あやや、まだ温度が低いですよ、シェフ。


 でも、「いっぱい失敗させてあげなさい」というお母さんの言葉に従い、口は出さないでおく。


 アメリも一度取り出したものの、「これは揚がっていない」と判断したようで、そのまま再投入してしばし放置。で、すくい網で取り出すけど……焦げちゃってるね。アメリも失敗だと理解してるようで、「うにゅう」と切なそうな声を上げる。次、頑張りましょう。


 こうして、きびなごが順次投入されていく。


「少し火を弱くして」


 火加減が強すぎるので、さすがにこれは口を出す。火事になっちゃうからね。


 ともかくも、回を重ねるたびに揚げ方のコツを掴んでいるようで、最後のほうになると、いい感じのきつね色に。


 そして、全部揚げ終わり!


 あとは動画の指示通りにリーフレタスを手で千切って、お皿に盛っていく。


「……できたー!」


 嬉しさを全身から絞り出すように、拳を突き上げるシェフ。


「はーいお疲れ様ー。あとは、ごはんですよー」


 本当は豆腐のお味噌汁も作らなきゃなんだけど、いきなりあれこれも全部やらせるのもね。


「はーい」


 お茶碗に、ごはんを盛るアメリちゃん。お茶もれ、配膳。


「よくできました! はい、いつものー」


 ハイタッチの構え。


「「いえーい!」」


 パチンと打ち鳴らし、着席。


「では、音頭取りをお願いします、シェフ」


「うん! いただきます!」


「はい、いただきます!」


 さて、アメリシェフ謹製唐揚げの出来やいかに?


 ちょっと焦げちゃってるのもあって、出来・不出来が激しいけど、多分後半揚げたであろうものはちゃんと美味しい。


「アメリシェフ、揚げ物一人初挑戦にしては上出来です! 花マル!」


 子供は褒めて伸ばす!


「ほんと!? えへへー。でも、焦げちゃってるのあるね。次はもっと上手にやる!」


 おお、さすが向上心が高い。


「うんうん。いっぱい挑戦して、失敗のたびに上手になっていこうね」


 微笑みを投げかけると、「うん!」と微笑み返される。良きかな良きかな


 そんなことなどを話しながら食べ終え、ごちそうさま。


 アメリが後片付けとして、油を流しに捨てようとしたので制止する。


「ストーップ! 使った油は、もう一度熱くしてからこの粉を入れて固めるのよ」


 温め直して、凝固剤を入れる。


「ここにいつも入れてあるからね」


 戸棚の中に、凝固剤の箱をしまう。


「らじゃー!」


 しゅびっと敬礼。


「あとは普通に食洗機行きだね」


「はーい」


 てきぱきと入れていくアメリ。ずいぶん、手際が良くなったねえ。


 というわけで、台所での戦いはこれにて一旦終結! 凝固と洗浄が終わったら、もう一回片付けだね。


 コーヒー牛乳片手に、一緒に寝室に戻る。どんどん頼もしくなっていく我が子が、誇らしいやら、ちょっとだけ寂しいやら。


 でも、素直に喜ぶべきことよね。私だって、そうやって大きくなったんだ。


 私は、私のやるべきことをしっかりやろう!


 読者の皆様に、ちゃんと作品をお届けすること。子育てと等しく、重要なことだ。


 頑張るぞー! えい、えい、むん!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート