「れっつ・くっきーん!」
台所で拳を突き上げると、きょとんと見上げるアメリ。
「今回アメリシェフが全部調理するのだから、こうやって気合い入れよう! じゃ、もっかい。れっつ・くっきーん!」
「おおー、れっつ・くっきーん!」
二人で拳を突き上げる。
「さて、アメリちゃん。自由に食事を作ってみたいよね?」
屈んで目線を合わせ問うと、「うん!」と答える。
「私にも、そんな時期がありました。でもですね。何ごともキホンが大事なのです。そこができてないと、美味しくない料理ができてしまいます」
「うにゅう……」と、神妙な表情のアメリ。
「で、ですね。そこで大事なのがレシピです。レシピ通りに料理を作ることは、恥でもなんでもありません。ここ、ポイント。ほら、私もよくレシピ動画見ながら作ってるでしょ?」
こくこくと頷かれる。
「というわけで、今レシピ動画を出したので、アメリちゃんにスマホを貸します。まず画面を一回ポチッと押して、縦棒二本のを押すと、画面が止まるのね。動かしたいときは三角のときに押して。あとは、このスライダーを左右に動かすと、進んだり巻き戻ったりできるよ。試しにに動かしてごらん」
言われた通り、再生したり、止めたり、巻き戻したりする。そのたびに、「おお~!」と感嘆の声を上げるのでした。
「ほかの部分はいじらないでね。画面が変になっちゃったら、私に渡してね。それじゃー、やってみよう!」
「頑張る!」
動画を再生するアメリ。
『まず、きびなごをボウルに入れ、塩大さじ一杯を振ります……』
動画の指示に合わせて、一所懸命それを追うシェフ。応援してるよ!
動作が遅れたら巻き戻して同じところを見ながら、少しずつ手順を踏んでいく。
二分放置したら水でサッと洗い、ザルに揚げる。うん、順調順調。
続いてキッチンペーパーで水気を拭き、唐揚げの粉をまぶす。
そして、油をお鍋に注いで点火! 私も、ここからの作業は細心の注意をもって見守る。
で、きびなごを入れ始めるけど……。あやや、まだ温度が低いですよ、シェフ。
でも、「いっぱい失敗させてあげなさい」というお母さんの言葉に従い、口は出さないでおく。
アメリも一度取り出したものの、「これは揚がっていない」と判断したようで、そのまま再投入してしばし放置。で、すくい網で取り出すけど……焦げちゃってるね。アメリも失敗だと理解してるようで、「うにゅう」と切なそうな声を上げる。次、頑張りましょう。
こうして、きびなごが順次投入されていく。
「少し火を弱くして」
火加減が強すぎるので、さすがにこれは口を出す。火事になっちゃうからね。
ともかくも、回を重ねるたびに揚げ方のコツを掴んでいるようで、最後のほうになると、いい感じのきつね色に。
そして、全部揚げ終わり!
あとは動画の指示通りにリーフレタスを手で千切って、お皿に盛っていく。
「……できたー!」
嬉しさを全身から絞り出すように、拳を突き上げるシェフ。
「はーいお疲れ様ー。あとは、ごはんですよー」
本当は豆腐のお味噌汁も作らなきゃなんだけど、いきなりあれこれも全部やらせるのもね。
「はーい」
お茶碗に、ごはんを盛るアメリちゃん。お茶も淹れ、配膳。
「よくできました! はい、いつものー」
ハイタッチの構え。
「「いえーい!」」
パチンと打ち鳴らし、着席。
「では、音頭取りをお願いします、シェフ」
「うん! いただきます!」
「はい、いただきます!」
さて、アメリシェフ謹製唐揚げの出来やいかに?
ちょっと焦げちゃってるのもあって、出来・不出来が激しいけど、多分後半揚げたであろうものはちゃんと美味しい。
「アメリシェフ、揚げ物一人初挑戦にしては上出来です! 花マル!」
子供は褒めて伸ばす!
「ほんと!? えへへー。でも、焦げちゃってるのあるね。次はもっと上手にやる!」
おお、さすが向上心が高い。
「うんうん。いっぱい挑戦して、失敗のたびに上手になっていこうね」
微笑みを投げかけると、「うん!」と微笑み返される。良き哉良き哉。
そんなことなどを話しながら食べ終え、ごちそうさま。
アメリが後片付けとして、油を流しに捨てようとしたので制止する。
「ストーップ! 使った油は、もう一度熱くしてからこの粉を入れて固めるのよ」
温め直して、凝固剤を入れる。
「ここにいつも入れてあるからね」
戸棚の中に、凝固剤の箱をしまう。
「らじゃー!」
しゅびっと敬礼。
「あとは普通に食洗機行きだね」
「はーい」
てきぱきと入れていくアメリ。ずいぶん、手際が良くなったねえ。
というわけで、台所での戦いはこれにて一旦終結! 凝固と洗浄が終わったら、もう一回片付けだね。
コーヒー牛乳片手に、一緒に寝室に戻る。どんどん頼もしくなっていく我が子が、誇らしいやら、ちょっとだけ寂しいやら。
でも、素直に喜ぶべきことよね。私だって、そうやって大きくなったんだ。
私は、私のやるべきことをしっかりやろう!
読者の皆様に、ちゃんと作品をお届けすること。子育てと等しく、重要なことだ。
頑張るぞー! えい、えい、むん!
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