神奈さんとアメリちゃん

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第二百八十七話 柔らかさが戻ったなって思って

公開日時: 2021年7月11日(日) 21:01
更新日時: 2021年7月15日(木) 18:43
文字数:2,280

「ただいま戻りましたー」


「「おかえりー」」


 草刈りから戻ると、二人がハモっておかえりを言ってくれました。ダンスゲームは終わったようで、ブロック遊びに付き合っていただいてる模様。


「んー? 神奈サン」


「はい、何でしょうか?」


 怪訝な表情で私の顔を覗き込む久美さんに、こちらもちょっと怪訝な表情で尋ね返す。


「いやね。さっきまで、どこかすごく険しい感じだったのにさ、なんか……柔らかさが戻ったなって思って」


「そうですか? やっぱり顔に出てたんですね。実は……」


 浦野さんとのやり取りを話して聞かせる。


「へー、いい人だねー。ウチらも、もっと懇意にしないとなあ」


「はい。私もう、嬉しくて泣いてしまいました」


「あー、目が赤いのはそれかー」


 うんうんとうなずく久美さん。


「しかし、草刈りも大変だよな。うちとか無駄に広いから、総出で定期的に刈ってるよ。ミケ子も手伝ってくれてさ」


「あー、わかります。あの面積は大変ですよね」


 なにしろ、バンを停めて、子供二人が楽々自転車練習できる広さ。


「あ、そうだ。ミケ子といえば、せっかくだから呼ぼうか?」


 スマホを取り出す久美さん。


「いいんですか? 今の時期、ちょっと心配ですけど」


 どうしても、ミケちゃんまで騒ぎに巻き込まれないかと心配してしまう。


「まー、すぐ隣だし。……あ、ミケ子さ、こっちに遊びに来させね? うん。おけ。じゃ、待ってるから。……優輝が、連れて来てくれるって」


「おおー! ミケ、来るの!?」


「おう。楽しみに待ってな」


 アメリの頭をうりうりと撫でる久美さんと、「うにゅう」と目を細めるアメリ姫。


 ふとスマホを見ると、もう十一時になろうとしている。


「よろしければ、うちでお昼召し上がっていきませんか?」


「え? 悪りーよ」


「いえいえ。こうしてアメリの相手をしていただいているお礼ということで。それに、みんなで食べたほうが美味しいじゃないですか」


「あはは、優輝みたいなこと言うね。そんじゃ、お相伴に与ろうかな」


 「では、ごはん炊いてきますね」と、台所に向かう。


 すると、炊飯スイッチを押すと同時にインタホンが鳴りました。


「はーい、どちら様でしょう?」


「あ、あたしです。ミケを連れてきました」


「今出ますー」


 門に向かうと、優輝さんとおめかししたミケちゃんが立っていました。


「こんにちは。ミケちゃんの新しい服って、こんな感じだったんですね。可愛いですねー」


「こんにちは。可愛いでしょう~。一所懸命選びましたからね!」


「ふふん。ミケが着るんだから、何だって可愛いに決まってるわ。神奈おねーさん、こんにちは」


 いつものドヤ顔胸反らし。可愛い。


「じゃあ、ミケをよろしくお願いします。あとで、久美さんのぶんと一緒にごはん持ってきますので」


「あ、それなんですけど、お昼ごはんにすでにお誘いしてまして。ですので、大丈夫ですよ」


「そうですか? 悪いですね。では、二人のぶん、お願いします。今度、お返しにうちで何かごちそうしますよ」


 昨日おにぎりをくださったのに、ありがたいお申し出をいただいてしまいました。


 互いにお辞儀し、去っていく優輝さんの背中を見送りつつ、ミケちゃんを招き入れる。


「おーっす、ミケ子ー。待ってたぜー」


「ミケー、こんにちはー!」


「こんにちは、アメリ。久美は、すっかりくつろいでるわね」


 確かに肩をすくめるミケちゃんの言う通り、久美さん完全にリラックスモードだ。


「まー、それだけ神奈サンとアメ子に親しみを感じてるってことよ。ブロックやるか? アメ子の作るオブジェ、なかなかおもしれーぞ」


「知ってる。アメリが作るものって、コセーテキよね」


 久美さんが譲った座椅子に座り、ブロックをつまみ眺めてイメージを固めるミケちゃん。


「座布団お出ししますね」


「どーも」


 お出しした座布団に座る久美さん。時計を見ると、まだご飯が炊けるまで結構かかる。


「私も、ちょっとやろうかしら」


 昨日からかなりピリピリしていたし、こういう息抜きも大事よね。座布団をもう一枚出し、四人で机を囲む。


「しかし何だね。こういうのって童心に帰るねー」


 魚と思しきオブジェを組みながら、久美さんが所感を述べる。


「ですね。アメリとこうやって遊んでると、気持ちが若返ります」


 二人で、うんうんうなずき合う。


 子供の頃は、早く大人になりたくて仕方なかった。でもこうして歳を重ねてみると、今度はたまに子供時代に戻りたくて仕方なくなる。人生とはままならないものだ。


 今日のオブジェは何にしようかな。そうだ、久美さんが魚なら、私は……。


「じゃーん、できたぜー。魚ー。種類はあんまよく考えてねーけど」


「おおー! お魚だー!」


 キラキラした瞳で見つめるアメリ。


「逆に……アメ子のはナニソレ?」


「ゆんどー! あのね、アメリカに住んでてお寿司屋さんしてる!」


「お、おう……。うん、いいと思うぞ!」


 ふふ。謎オブジェとアメリちゃん独特の謎設定に困惑してますねえ。


「私は、じゃーん。猫さん~」


 猫さんをささっと作ってみました。しっぽのパーツを探すのがちょっと大変でしたけども。


「おお~!」


 これまた瞳をキラキラ輝かせるアメリ姫。良きかな良きかな


「ミケは何作ってるのー?」


「ミケが作るのっていったら、千多せんたちゃんに決まってるじゃない。決めポーズの腕の感じが難しいのよね……」


 おなじみミケちゃんが大好きなアイドル、千多ちゃんを作ろうと悪戦苦闘中。私が細いパーツ使っちゃったからかしら? だったら悪いことしたなー。


 こんな感じで和やかな時間は過ぎていき、すっかり私もリラックスできました。浦野さんのおかげだなー。


 すると、スマホがごはんの炊きあがりをお知らせ。それじゃー、お昼ごはん作りますかー!

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