「ただいま戻りましたー」
「「おかえりー」」
草刈りから戻ると、二人がハモっておかえりを言ってくれました。ダンスゲームは終わったようで、ブロック遊びに付き合っていただいてる模様。
「んー? 神奈サン」
「はい、何でしょうか?」
怪訝な表情で私の顔を覗き込む久美さんに、こちらもちょっと怪訝な表情で尋ね返す。
「いやね。さっきまで、どこかすごく険しい感じだったのにさ、なんか……柔らかさが戻ったなって思って」
「そうですか? やっぱり顔に出てたんですね。実は……」
浦野さんとのやり取りを話して聞かせる。
「へー、いい人だねー。ウチらも、もっと懇意にしないとなあ」
「はい。私もう、嬉しくて泣いてしまいました」
「あー、目が赤いのはそれかー」
うんうんと頷く久美さん。
「しかし、草刈りも大変だよな。うちとか無駄に広いから、総出で定期的に刈ってるよ。ミケ子も手伝ってくれてさ」
「あー、わかります。あの面積は大変ですよね」
なにしろ、バンを停めて、子供二人が楽々自転車練習できる広さ。
「あ、そうだ。ミケ子といえば、せっかくだから呼ぼうか?」
スマホを取り出す久美さん。
「いいんですか? 今の時期、ちょっと心配ですけど」
どうしても、ミケちゃんまで騒ぎに巻き込まれないかと心配してしまう。
「まー、すぐ隣だし。……あ、ミケ子さ、こっちに遊びに来させね? うん。おけ。じゃ、待ってるから。……優輝が、連れて来てくれるって」
「おおー! ミケ、来るの!?」
「おう。楽しみに待ってな」
アメリの頭をうりうりと撫でる久美さんと、「うにゅう」と目を細めるアメリ姫。
ふとスマホを見ると、もう十一時になろうとしている。
「よろしければ、うちでお昼召し上がっていきませんか?」
「え? 悪りーよ」
「いえいえ。こうしてアメリの相手をしていただいているお礼ということで。それに、みんなで食べたほうが美味しいじゃないですか」
「あはは、優輝みたいなこと言うね。そんじゃ、お相伴に与ろうかな」
「では、ごはん炊いてきますね」と、台所に向かう。
すると、炊飯スイッチを押すと同時にインタホンが鳴りました。
「はーい、どちら様でしょう?」
「あ、あたしです。ミケを連れてきました」
「今出ますー」
門に向かうと、優輝さんとおめかししたミケちゃんが立っていました。
「こんにちは。ミケちゃんの新しい服って、こんな感じだったんですね。可愛いですねー」
「こんにちは。可愛いでしょう~。一所懸命選びましたからね!」
「ふふん。ミケが着るんだから、何だって可愛いに決まってるわ。神奈おねーさん、こんにちは」
いつものドヤ顔胸反らし。可愛い。
「じゃあ、ミケをよろしくお願いします。あとで、久美さんのぶんと一緒にごはん持ってきますので」
「あ、それなんですけど、お昼ごはんにすでにお誘いしてまして。ですので、大丈夫ですよ」
「そうですか? 悪いですね。では、二人のぶん、お願いします。今度、お返しにうちで何かごちそうしますよ」
昨日おにぎりをくださったのに、ありがたいお申し出をいただいてしまいました。
互いにお辞儀し、去っていく優輝さんの背中を見送りつつ、ミケちゃんを招き入れる。
「おーっす、ミケ子ー。待ってたぜー」
「ミケー、こんにちはー!」
「こんにちは、アメリ。久美は、すっかりくつろいでるわね」
確かに肩をすくめるミケちゃんの言う通り、久美さん完全にリラックスモードだ。
「まー、それだけ神奈サンとアメ子に親しみを感じてるってことよ。ブロックやるか? アメ子の作るオブジェ、なかなかおもしれーぞ」
「知ってる。アメリが作るものって、コセーテキよね」
久美さんが譲った座椅子に座り、ブロックをつまみ眺めてイメージを固めるミケちゃん。
「座布団お出ししますね」
「どーも」
お出しした座布団に座る久美さん。時計を見ると、まだご飯が炊けるまで結構かかる。
「私も、ちょっとやろうかしら」
昨日からかなりピリピリしていたし、こういう息抜きも大事よね。座布団をもう一枚出し、四人で机を囲む。
「しかし何だね。こういうのって童心に帰るねー」
魚と思しきオブジェを組みながら、久美さんが所感を述べる。
「ですね。アメリとこうやって遊んでると、気持ちが若返ります」
二人で、うんうん頷き合う。
子供の頃は、早く大人になりたくて仕方なかった。でもこうして歳を重ねてみると、今度はたまに子供時代に戻りたくて仕方なくなる。人生とはままならないものだ。
今日のオブジェは何にしようかな。そうだ、久美さんが魚なら、私は……。
「じゃーん、できたぜー。魚ー。種類はあんまよく考えてねーけど」
「おおー! お魚だー!」
キラキラした瞳で見つめるアメリ。
「逆に……アメ子のはナニソレ?」
「ゆんどー! あのね、アメリカに住んでてお寿司屋さんしてる!」
「お、おう……。うん、いいと思うぞ!」
ふふ。謎オブジェとアメリちゃん独特の謎設定に困惑してますねえ。
「私は、じゃーん。猫さん~」
猫さんをささっと作ってみました。しっぽのパーツを探すのがちょっと大変でしたけども。
「おお~!」
これまた瞳をキラキラ輝かせるアメリ姫。良き哉良き哉。
「ミケは何作ってるのー?」
「ミケが作るのっていったら、千多ちゃんに決まってるじゃない。決めポーズの腕の感じが難しいのよね……」
おなじみミケちゃんが大好きなアイドル、千多ちゃんを作ろうと悪戦苦闘中。私が細いパーツ使っちゃったからかしら? だったら悪いことしたなー。
こんな感じで和やかな時間は過ぎていき、すっかり私もリラックスできました。浦野さんのおかげだなー。
すると、スマホがごはんの炊きあがりをお知らせ。それじゃー、お昼ごはん作りますかー!
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