神奈さんとアメリちゃん

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第三百六話 嵐を呼ぶアフタヌーンティー!

公開日時: 2021年7月30日(金) 21:01
更新日時: 2021年8月8日(日) 14:55
文字数:2,795

 今日も今日とてネーム制作に打ち込む朝九時。昨日リフレッシュできたおかげか、割と遊んでた割にラストまでもうちょいというところに来ました。我ながらペース配分が上手いというか、適度な息抜きはむしろ能率を上げるんだなあと。


 そんな折、スマホが鳴りました。どなたでしょー? と送信者を見ると優輝さん。


「おはようございます」


「おはようございます~! さっそくですけど神奈さん、今日うちでアフタヌーンティーでもいかがですか?」


 ほうほう。それはまた優雅な。ネームもあと一息だし、構わないかな?


「はい、喜んで。何時頃伺ったらよろしいでしょう?」


「三時から始めようかと思ってます。まりあさんと白部さんもいらっしゃいますよ」


「あら、ますます楽しみですね! では、三時に」


 というわけで通話終了。


「アメリちゃーん、三時にお隣さんでアフタヌーンティーしますよー」


「おお? 何するの?」


「お茶飲んで、お菓子食べて、おしゃべりなどなど!」


「おおー! 楽しみ!」


 いやー、ほんと楽しみだねー。良きかな良きかな


 あっと、そうだ!


 習慣になって締め切っていたカーテンをシャーッと勢いよく開く。もう、アメリの正体を隠さなくていいのだから。


 お陽様さんさん、いい天気! 今日は暖かくなりそう! 素晴らしいな、素晴らしいな!



 ◆ ◆ ◆



「こんにちは~」


 三時手前になったのでお隣にお邪魔なう。今日はすでに買い物を済ませてあり、私からも何かお菓子を持っていこうとしたのだけど、優輝さんから「お気を使わなくて大丈夫ですよ」と明るく返されたので手ぶらです。


 客人第一号は私たちで、リビングで待機中。続いて白部さんやまりあさんたちがやって来ました。皆でご挨拶を交わし終わったところで、由香里さんとさつきさんがお茶菓子を用意しにキッチンへ向かわれました。


「お待たせしました」


 由香里さんが手にしているのは、漫画なんかでお嬢様がそれこそアフタヌーンティーを愉しむときテーブルに乗ってるアレ。前、調べたことあるのよね。アフタヌーンティースタンドっていうんだっけ。スコーンやケーキが載っていて美味しそう!


「こちら、ひょっとして由香里さんの手作りだったりしますか?」


「はい。張り切って作っちゃいました。これが、いい息抜きになりまして」


 楽しそうに口元に手を当て微笑む彼女。


「紅茶は自分が用意したっす。由香里ちゃんほどじゃないっすけど、お茶をれるのは自信あるんすよ」


 配膳していくさつきさん。


「姉さんには、いつものブランデー入りっす」


「サンクス」


「じゃあ、用意も整ったところで愉しみましょう! いただきます!」


 ホストである優輝さんの掛け声で、皆でいただきます。


 まずは、紅茶の香りを愉しむ。う~ん、いい香り。


「あら、私のはアップルティーですね? ありがとうございます」


 嬉しそうな白部さん。


 一方、久美さんが香りを嗅いだ後、何やら怪訝な表情を浮かべて、一口含む。


「さつき、これブランデー入ってねーぞ?」


「あれ、おかしいっすね? 確かに入れたはずなんすけど」


 互いに不思議そうな表情を浮かべるお二人。


 すると、横合いから「うふ、うふふふ……」という、大変聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる。ま・さ・か……。


「うふふ~。何だかほわほわして気持ちいいです~」


 真っ赤な顔で嬉しそうにふわふわしているまりあさん。事態を察し、固まる一同。ただし、ハッピーまりあさん初体験の白部さんとノーラちゃんは、よくわからないけど尋常ならざる空気に困惑なう。うちのお嬢様はお構いなくマイペースでお茶菓子を美味しそうにいただいている。強いわね、アメリ……。


「あの、どうされたんですか、宇多野さん?」


 隣席の白部さんが、小声で耳打ちしてくる。


「まりあさん、めちゃくちゃお酒が弱い上に、とんでもない笑い上戸なんです」


 こちらも小声で返答すると「あちゃー」とばかりに額に手を当てる彼女。


「いちばーん! 宇多野まりあ、歌いまーす! 宇多野だけにー!」


 こぶしを利かせて、演歌を朗々と歌い始めるまりあさん。さらに立ち上がり、いつぞやのノリノリなダンスまで披露する。呆気に取られる、私とアメリとクロちゃんを除く一同。皆さん、これ見るの初めてですものね。アメリは相変わらずお菓子に夢中。まりあさんもアメリも、別方向に強すぎる。


「やー、どうしましょう」


 パッキーゲームを乗り切った、ポジティブガール優輝さんもさすがに困ってしまい、横から耳打ち。


 久美さんははす向かいで、「おばか! おばか!」と言いながらさつきさんにチョップしてるし、カオス。


「何か気を逸らしましょう……! 『大航海世代』なんてどうですか?」


「それ、試してみましょう!」


 サムズアップする優輝さん。


「まりあさん! せっかくですから、ちょっと面白いゲームしてみませんか!?」


「あらー、何でしょう~?」


「これなんですけど……」


 優輝さんが手早くセットアップし、レクチャー開始。


「おお~! アメリもやりたい!」


 うちの子もすっかりこのゲームを気に入ったようで、参戦表明。まりあさんも「面白そうですね~!」とノリノリで、さしあたってメンバーはまりあさん、アメリ、優輝さん、ミケちゃんとなりました。


 そして……。


 私たちは、破壊神を見ました。妨害カードの鬼引きで嵐を呼び、渦潮を生み、港に不況を起こし、鼠害や壊血病を発生させる破壊神・まりあさんがそこにはおりました。この海は地獄だ……。


 その一方で、初めてとは思えないプレイングで交易によって荒稼ぎし、みるみるトップに。


 優輝さんとミケちゃんも、さすがにこれは手加減できないと共同戦線を組んでまりあさんに対抗するものの、びくともせず。強い! 絶対に強い!


 なお、うちのアメリちゃんは妨害が飛んでこようが何だろうが、例によって楽しそうにマイペース食品王プレイ。この子も、ほんと別の意味で強いわ……。


 結果は、まりあさんの圧勝。二位はアメリで、優輝さん、ミケちゃんは大きく離され三位、四位。極めて楽しそうなまりあさん&アメリと、真っ白に燃え尽きている優輝さん&ミケちゃんが好対照でした。


「マリアサン、ハジメテトハオモエナイグライ、ツヨイデスネ……」


 生気のない声で、彼女のプレイングを褒める優輝さん。


「えー、ビギナーズラックですよぉ~。あと高校時代、世界史で興味持って大航海時代のことよく調べてただけで」


 うふふと、優輝さんたちの生気を吸い取ったかのごとき元気さで明るく受け答えするまりあさん。


 ともかくも、二人の尊い犠牲により、まりあタイフーンの被害は最小限に収まったようです。


 その後、楽しそうにマシンガントークを繰り広げるまりあさんのお話を聞きながら、お茶会はしめやかに進み、終了。


 酔いと疲れで、船を漕ぎ始めていたまりあさんはさつきさんに搬送され、クロちゃん共々ご自宅へと戻られました。


 その夜、例によって例のごとく、まりあさんから全方位謝罪メッセージが届いたのは言うまでもありません。ちゃんちゃん。

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