神奈さんとアメリちゃん

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第百五十三話 ハーフボイルド・ヒロイン

公開日時: 2021年4月25日(日) 09:31
文字数:2,678

三時のおやつに一家でこたつを囲み、「TOKIOばななん」を食みながらスマホでぽちぽち通販申し込みなう。


「おお~? おねーちゃん、何してるのー?」


「んー? 皆さんへのお土産購入中~」


 お土産として、福井銘菓「皐月ヶ浦さつきがうらせんべい」を東京の実家に配送してもらう予定。


 自分で持って帰ったほうがお土産感出るけど、十人ぶん以上のお土産抱えて電車で長旅はちょっとねー。送料も八百円ほどかかっちゃうけど、致し方なし。せっかくだから、自分たちのぶんも買っとこ。送料変わらないし。


 よし、注文終了! 帰宅日の夜に受け取り予定を入れましたよっと。


「さーて、あとは何してようかなー」


 恐竜広場も見せたし、昨日の今日でこれ以上疲れるようなことはあまりしたくないな。大晦日と元日にはご近所回りと初詣、その後アメリ次第で、水族館とディノ・ミュージアム。で、その翌日に帰宅。結構過密スケジュールだ。


 決定! 漫画読んでだらだらしーましょ。


「アメリー。漫画の続き読むー? 私読みたいから、アメリのぶんも取ってくるけど」


「おお~! 読む~!」


「ほいほい。じゃあ取ってきますねっと」


 というわけで、自室から十冊ほど持ってきて再度こたつにイン。


「ほんと、神奈その漫画好きよねー」


「マイ聖典ですもの。これがなかったら、今の私はなかったって一冊だし」


 お母さんもお父さんも、私がこのバスケ漫画にどれぐらい励まされて今に至ったかを知ってるので、それをどうこう言わない。ただ、「本当に好きなんだね」と言うだけだ。


 私自身はバスケそのものや少年漫画やスポーツ漫画の道には進まなかったけれど、この漫画から受け取った熱いメッセージは、今も私の原動力になっている。


「ちょっと、お買い物いってくるね」


 お母さんがこたつから出る。


「晩ごはんの買い出し?」


「うん」


 身支度を整えながら、返答するお母さん。


「じゃあさ、アメリにコンロの使い方教えてあげたいから、卵買ってきてもらえる?」


「それはいいけど、何作るの?」


「ゆで卵~。入門用にちょうどいいかなって」


「了解。じゃあ、行ってくるわね」


 三人で、「いってらっしゃーい」と送り出す。


「どうにも、手持ち無沙汰だね」


 お母さんも外出してしまい、私とアメリは読書中なので、お父さんが所在なさ気に言葉をこぼす。


「やっぱり、相変わらずDIY以外にはこれといった趣味を持てない感じ?」


「だねえ」


 ふう、とため息を吐くお父さん。お母さんも編み物だけが趣味だし、うちはみんな一意専心なのだろう。


 私とお母さんはインドア趣味だからいいけれど、DIYは天候や地面の状態が悪いとできない。そこがお父さんの悩みの種だ。


「木工の小物なんかは?」


「以前、筆立てを作ったことがあるけど、いまいち達成感がなかったなあ」


 そういうものなんだ。お父さんはやむなく、テレビとスマホを適当に見ることにした模様。


 時折おやつをつまみながらダラダラ過ごしてると、「ただいまー」とお母さんが帰ってきた。


 「おかえりなさーい」と、三人でハモる。再度「ただいま」と言い、お母さんはそのままキッチンに消える。


 少しして戻ってくると、お父さんが色々とテレビやスマホで見た話題を振る。しばらく無言タイムが続いたからねー。


 ふと時計を見ると、もう五時。ふう。たまにはこうやって、こたつでひたすらだらけるのもいいもんですなあ。


「じゃあ、お先に台所使うねー。アメリ、おいで」


「おお~」


 ちょこちょこ後をついてくるアメリを引き連れ台所へ。


 さてさて、久々の三分でクッキングする脳内BGM!


「今日は、アメリちゃんにガスコンロの使い方をレクチャーしちゃいます!」


「おお~!」


 キラキラと瞳を輝かせるアメリ。


「今回作るのは、初心者向けにゆで卵! というわけで、ここに立ってちょーだいな」


 踏み台をコンロの前に置くと、「はーい」と、その上に立つ。


「まず、この手鍋に水を張りまーす」


 水を張った手鍋をコンロに置く。


「でー……アメリ、このつまみを押し込みながら左に回してごらん」


 言われた通りにすると、ボッと火が点く。


「おお!?」


「でね、今度はつまみを押さないで、右に少しずつ回していって」


 火力が弱まっていく。


「鍋の底に青い火が見えなくなったね。これ重要。鍋の外に火が出てると、ガスの無駄だからね。でね、ちょっと横から見てみて」


 一緒に、鍋の底面を覗き込む。


「火が、鍋の底にかなり当たってるね。これが強火。ギリギリ当たるぐらいが中火。かすかに当たらないのが弱火っていうんだ」


 「おお~」と、感心の声を上げるアメリ。


「じゃあ、沸騰するまで待とうか。五分もかからないはずだから」


 というわけで、しばしおしゃべり。そうすると、お湯がボコボコ煮立ってきました。


「じゃあ、ゆで卵の用意ね」


 冷蔵庫から、卵を四つ取り出す。


「まず、この丸い方の部分、おしりに爪楊枝で穴を開けるのがポイント」


 一個穴を空け、手本を見せる。


「よし、じゃあアメリもやってみよう」


 「おお~」と言いながら、ぷすぷす穴を開けていく。


「うん、上手上手。じゃあ、このお鍋の中にそっと入れてみよう」


 言われた通りに、鍋に卵を入れていく彼女。


「あとは、そうだな……七分茹でようか。それまで休憩~」


 タイマーを仕掛け、ダイニングで腰掛けておしゃべり。すると、ピピピとアラームが鳴りました。


「よっし。じゃあ、素早く行くよ!」


 コンロ前に移動。


「まず、つまみを完全に右に回して火を止めて」


 言われた通りに火を止める。


「次は、流しにお湯を捨てて、冷たい水を代わりに入れて」


 「お、おお~」と少し戸惑いながらも、セカンドミッションクリア。


「あとは、卵を鍋の底に打ち付けて、まんべんなくヒビを入れて」


 「わかった!」と、カンカン打ち付けてヒビを入れていく。


「あとは、殻を剥いていくよー。さあ、やってみよー」


 ぺりぺりと、一所懸命殻を剥くアメリ。


「きれいに剥けたねー。はい、これで完成でーす。お疲れ様でした!」


「おお~! 頑張った!」


 キラキラした瞳を向けてくるので、「偉い偉い」と頭を撫でる。例によって、「うにゅう」という気の抜けた声を上げる。良きかな良きかな


「じゃあ、片付けてリビングに戻ろうか」


「はーい」


 というわけで、戻りっ!


「お母さん、ゆで卵できたよー。晩ごはんに使えるかな?」


「うーん、普通にお塩で食べるでいいんじゃない?」


「りょうかーい。何か手伝おうか?」


 せっかくなので、手伝いを申し出る。


「大丈夫。アメリちゃんと一緒に、休んでなさい。久々に帰ってきた娘なんだから、甘やかしたいもの」


「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」


 というわけで、台所の使用をお母さんにバトンタッチ。さてさて、何ができるかな?

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