神奈さんとアメリちゃん

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第四百五十二話 たまには、こんな日もあります

公開日時: 2022年1月2日(日) 21:01
文字数:2,550

 朝。もにゅもにゅと、アメリちゃん謹製ツナたまごサンドを頬張りなう。シェフは一足先に食べ終わり、天気予報を見ているようです。


「おお~! 明日から梅雨明けだって!」


「へ~。そりゃよかった~。あふぁ……」


 最後の抵抗といわんばかりに、ざあざあ降ってるこの長雨ともおさらばかあ。


 今日は勉強会の予定。子供たちの進捗はどこまで進むでしょ~? あふうううぅぅぅ……。むにゅ……眠い……。



 ◆ ◆ ◆



「すみません、ちょっと今ノーラちゃんを説得していまして……」


 寝ぼけモードから回復してLIZEに入ると、白部さんが何やら困っているご様子。


「どうなさったんですか?」


 心配になって尋ねてみる。皆さんも同様だ。


「昨日、レトロ遊びの話があったじゃないですか」


「はい」


「今日は勉強会じゃなくて、絶対遊びたいと言ってきかなくて……」


 ははー。我慢できなかったか。


「ちょっと、ノーラちゃんにもLIZEに入ってくるよう、伝えていただけますか?」


「わかりました」


 ややあって……。


「入ったぞー。で?」


 あらら、これはまた不機嫌そう。


「ノーラちゃん。どうしても今日じゃなきゃダメ?」


「うん」


 これは、画面の向こうでムッスリしてるの確実だねえ。


「白部さん。だったら、今日は予定を変えませんか?」


「それも考えたんですけど、やはり我慢させることも教えなきゃいけない、と思ったんです」


 ふむ。たしかに、駄々をこねれば要求が通る……というのを覚えてしまうと、後々良くない気もする。白部さんにも一理あるな。


 子育てって難しいね~。


「ノラ子。白部サン困らすんじゃないよ」


「やー、姉さん。そういう、頭ごなしな言い方は逆効果っすよ?」


 あやや。凸凹コンビでも意見割れちゃったよ。


「わたしの意見いいでしょうか? ノーラちゃん、二日続けての練習と、たしか一日がかりのお買い物なさってたんですよね。休ませてあげるのも大事ではないでしょうか」


 おおう、まりあさんまで論戦に参加だ。


 当事者二人は無言。画面の向こうで、言い争いとかしてないといいけど。


 こういうのに強そうなの……。そうだ、あのぷんすかミケちゃんの相手をよくなさってる、優輝さんはどうだろう?


 水面下で、個別チャットを送ってみる。


「あー、すみません。うちはうちでミケの説得中です。ミケがノーラちゃんに共感しちゃって。もともと、勉強よりは遊びたいタイプですから」


 ありゃま。


 いやはや、しっちゃかめっちゃかだね。


 じゃあ、キーアイテムを持つクロちゃんに打診だ。


「ボクも、どうしたらいいのか……。ノーラの願いを叶えてあげたい気持ちはあるんですけど、白部先生の言うこともわかるし……」


 うーむ、十歳児には荷が勝ちすぎるか。


 由香里さんにも個別を送ってみたら、ちょっと気まずくなった凸凹コンビの仲裁をしているらしい。あちゃー。


「近井さんだったら、この局面、どうします?」


 もはや最後の頼みの綱、近井さんに尋ねる。


「友美もたまにわがまま言いますけど、頭ごなしには叱らず、『なぜいけないのか』をじっくり話しますね」


 おお! そうですよ、そうですよ! 基本に立ち返りましょう。


「あの、皆さん! 争いはやめましょう。で、ですね。そもそも今日の予定を急に変更するとなぜダメなのか、から考え直しませんか?」


「そうですね。たしかにそうです。ノーラちゃん、今日はみんな、勉強するぞーって気になってたのね。それなのに、ノーラちゃんの気分で邪魔したら良くないと思うの」


 説得する白部さん。


「ミケは遊びのほうがいいわ」


「ミケはちょっと黙ってよう。すみません、続けてください」


 優輝さんが、横槍を入れようとしたミケちゃんを止める。


「ありがとうございます。ノーラちゃん、みんなの気持ちを邪魔してでも遊びたい?」


「う~……だって、昨日アタシだけのけ者だったんだもん……」


「あの、ボク発言いいでしょうか?」


 ある意味、問題の発端であるクロちゃんが切り出す。


「どうぞ、クロちゃん」


 白部さんが同意する。


「ノーラ。明後日遊ぼう? 少なくとも、ボクは明後日ノーラと遊ぶと約束する。だから、一日だけ我慢してみない?」


 おお、クロちゃん渾身の説得!


「みんなはどうかな?」


「ミケは明後日と言わず、今日でいいけど」


 優輝さんがとほほ猫スタンプを貼る。ミケちゃん、ゴーイング・マイ・ウェイね……。


「アメリは、クロの言うのでいいよー」


「ボク、運動苦手だけど運動でも付き合うよ? それでもダメかな?」


 クロちゃんの、心を込めた説得が続く。本当に、優しい子だ。


「……わかった。そこまで言うなら」


 おお! ノーラちゃんが折れた! クロちゃんお見事!


「ごめんね、クロちゃん。気を使わせちゃって」


 謝意を述べる、白部さん。


「いえ。ノーラ、寂しかったんだろうなって思ったんです」


 なるほど。根っこの部分は、遊ぶ遊ばないというより、一人混ざれなくて寂しかったんだ。クロちゃんは、ほんと気配りが利くなあ。


「みなさんも、お騒がせしてすみませんでした。では、予定通り一時に勉強会ということで。お詫びといってはなんですけど、私がお茶菓子をお持ちしますね」


 白部さんが謝罪とともに、改めて今日の予定を宣言する。


「あー、いえいえ。なんかこっちこそ、ミケが混ぜっ返しちゃって」


 優輝さん、お辞儀猫スタンプ。


「なによ」


「怒らないでよ。今晩は、エビマヨとテリヤキチキンのピザ、焼いてあげるからさ」


「む……なら、いいわ」


 優輝さんも、ミケちゃんの扱いが手慣れてますねえ。


「あー、さつき、ノラ子。さっきは悪かった。年長者らしくない振る舞いした。すまない。許してくれるか?」


「いや、自分は姉さんラブっすから。自分こそ、申し訳なかったっす」


「アタシ、たしかにルリ姉困らせたからな……。ゴメン、ルリ姉!」


 みんなで謝罪合戦。


「やれやれ。丸く収まった感じですね」


 ため息猫スタンプを貼る由香里さん。


「わたし、あまり役に立てなくてすみません」


 まりあさんが恐縮する。


「そんな日もありますよ。せっかく丸く収まったんですから、前向きにいきましょう」


 彼女を慰める近井さん。


 ふう、一時はどうなることかと思った。


 その後、勉強にやってきたノーラちゃんはちょっと不機嫌だったけど、アメリが休憩時間に恐竜の話をたくさんしたら、なんだかんだで打ち解けてくれました。


 良きかな良きかな


 それにしても、子育てってほんと難しいね。

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