朝。もにゅもにゅと、アメリちゃん謹製ツナたまごサンドを頬張りなう。シェフは一足先に食べ終わり、天気予報を見ているようです。
「おお~! 明日から梅雨明けだって!」
「へ~。そりゃよかった~。あふぁ……」
最後の抵抗といわんばかりに、ざあざあ降ってるこの長雨ともおさらばかあ。
今日は勉強会の予定。子供たちの進捗はどこまで進むでしょ~? あふうううぅぅぅ……。むにゅ……眠い……。
◆ ◆ ◆
「すみません、ちょっと今ノーラちゃんを説得していまして……」
寝ぼけモードから回復してLIZEに入ると、白部さんが何やら困っているご様子。
「どうなさったんですか?」
心配になって尋ねてみる。皆さんも同様だ。
「昨日、レトロ遊びの話があったじゃないですか」
「はい」
「今日は勉強会じゃなくて、絶対遊びたいと言ってきかなくて……」
ははー。我慢できなかったか。
「ちょっと、ノーラちゃんにもLIZEに入ってくるよう、伝えていただけますか?」
「わかりました」
ややあって……。
「入ったぞー。で?」
あらら、これはまた不機嫌そう。
「ノーラちゃん。どうしても今日じゃなきゃダメ?」
「うん」
これは、画面の向こうでムッスリしてるの確実だねえ。
「白部さん。だったら、今日は予定を変えませんか?」
「それも考えたんですけど、やはり我慢させることも教えなきゃいけない、と思ったんです」
ふむ。たしかに、駄々をこねれば要求が通る……というのを覚えてしまうと、後々良くない気もする。白部さんにも一理あるな。
子育てって難しいね~。
「ノラ子。白部サン困らすんじゃないよ」
「やー、姉さん。そういう、頭ごなしな言い方は逆効果っすよ?」
あやや。凸凹コンビでも意見割れちゃったよ。
「わたしの意見いいでしょうか? ノーラちゃん、二日続けての練習と、たしか一日がかりのお買い物なさってたんですよね。休ませてあげるのも大事ではないでしょうか」
おおう、まりあさんまで論戦に参加だ。
当事者二人は無言。画面の向こうで、言い争いとかしてないといいけど。
こういうのに強そうなの……。そうだ、あのぷんすかミケちゃんの相手をよくなさってる、優輝さんはどうだろう?
水面下で、個別チャットを送ってみる。
「あー、すみません。うちはうちでミケの説得中です。ミケがノーラちゃんに共感しちゃって。もともと、勉強よりは遊びたいタイプですから」
ありゃま。
いやはや、しっちゃかめっちゃかだね。
じゃあ、キーアイテムを持つクロちゃんに打診だ。
「ボクも、どうしたらいいのか……。ノーラの願いを叶えてあげたい気持ちはあるんですけど、白部先生の言うこともわかるし……」
うーむ、十歳児には荷が勝ちすぎるか。
由香里さんにも個別を送ってみたら、ちょっと気まずくなった凸凹コンビの仲裁をしているらしい。あちゃー。
「近井さんだったら、この局面、どうします?」
もはや最後の頼みの綱、近井さんに尋ねる。
「友美もたまにわがまま言いますけど、頭ごなしには叱らず、『なぜいけないのか』をじっくり話しますね」
おお! そうですよ、そうですよ! 基本に立ち返りましょう。
「あの、皆さん! 争いはやめましょう。で、ですね。そもそも今日の予定を急に変更するとなぜダメなのか、から考え直しませんか?」
「そうですね。たしかにそうです。ノーラちゃん、今日はみんな、勉強するぞーって気になってたのね。それなのに、ノーラちゃんの気分で邪魔したら良くないと思うの」
説得する白部さん。
「ミケは遊びのほうがいいわ」
「ミケはちょっと黙ってよう。すみません、続けてください」
優輝さんが、横槍を入れようとしたミケちゃんを止める。
「ありがとうございます。ノーラちゃん、みんなの気持ちを邪魔してでも遊びたい?」
「う~……だって、昨日アタシだけのけ者だったんだもん……」
「あの、ボク発言いいでしょうか?」
ある意味、問題の発端であるクロちゃんが切り出す。
「どうぞ、クロちゃん」
白部さんが同意する。
「ノーラ。明後日遊ぼう? 少なくとも、ボクは明後日ノーラと遊ぶと約束する。だから、一日だけ我慢してみない?」
おお、クロちゃん渾身の説得!
「みんなはどうかな?」
「ミケは明後日と言わず、今日でいいけど」
優輝さんがとほほ猫スタンプを貼る。ミケちゃん、ゴーイング・マイ・ウェイね……。
「アメリは、クロの言うのでいいよー」
「ボク、運動苦手だけど運動でも付き合うよ? それでもダメかな?」
クロちゃんの、心を込めた説得が続く。本当に、優しい子だ。
「……わかった。そこまで言うなら」
おお! ノーラちゃんが折れた! クロちゃんお見事!
「ごめんね、クロちゃん。気を使わせちゃって」
謝意を述べる、白部さん。
「いえ。ノーラ、寂しかったんだろうなって思ったんです」
なるほど。根っこの部分は、遊ぶ遊ばないというより、一人混ざれなくて寂しかったんだ。クロちゃんは、ほんと気配りが利くなあ。
「みなさんも、お騒がせしてすみませんでした。では、予定通り一時に勉強会ということで。お詫びといってはなんですけど、私がお茶菓子をお持ちしますね」
白部さんが謝罪とともに、改めて今日の予定を宣言する。
「あー、いえいえ。なんかこっちこそ、ミケが混ぜっ返しちゃって」
優輝さん、お辞儀猫スタンプ。
「なによ」
「怒らないでよ。今晩は、エビマヨとテリヤキチキンのピザ、焼いてあげるからさ」
「む……なら、いいわ」
優輝さんも、ミケちゃんの扱いが手慣れてますねえ。
「あー、さつき、ノラ子。さっきは悪かった。年長者らしくない振る舞いした。すまない。許してくれるか?」
「いや、自分は姉さんラブっすから。自分こそ、申し訳なかったっす」
「アタシ、たしかにルリ姉困らせたからな……。ゴメン、ルリ姉!」
みんなで謝罪合戦。
「やれやれ。丸く収まった感じですね」
ため息猫スタンプを貼る由香里さん。
「わたし、あまり役に立てなくてすみません」
まりあさんが恐縮する。
「そんな日もありますよ。せっかく丸く収まったんですから、前向きにいきましょう」
彼女を慰める近井さん。
ふう、一時はどうなることかと思った。
その後、勉強にやってきたノーラちゃんはちょっと不機嫌だったけど、アメリが休憩時間に恐竜の話をたくさんしたら、なんだかんだで打ち解けてくれました。
良き哉良き哉。
それにしても、子育てってほんと難しいね。
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