「いいよいいよー! 次はこう、傘を斜め気味に構えて、振り返ってみようか!」
アメリの衣服を新調したら、まずやること。それはもちろん、撮影会!
室内で傘をおっ広げつつ、使用済みの長靴による土足もどうかのと思うので、玄関先で撮影です。
雨天につき光量がやや足りないので、フラッシュでパシャパシャ。
しかしなー。これで猫耳レインコートだったら完璧だった! 今、誰に見られるかわからないからキャスケットも脱がせられないし。
それでも、アメリの魅力は出力百二十%オーバーなのです! ああもう、アメリとケイティちゃんの可愛さが両方備わり最強に見える……。眼福。
さすがに雨の中一時間とかはアメリが辛いと思うので、五分でさっさと切り上げ。今度また撮影しましょ。
◆ ◆ ◆
「さって、お仕事しましょっかね~」
お風呂に入って体を温めつつさっぱりした後、PCを立ち上げてお仕事を始める。
まりあさんたちとお買い物を楽しんだからか、筆の乗りも実に軽快!
「そめごろうくん!」
背後からアメリの声。今日はぬいぐるみ遊びかな?
「とつぜんどうしたんですか、さめのすけさん?」
なんか、劇が始まりましたよ。
「ぼくから、ほえほえさんをうばったな!?」
んん? なんか雲行きが……?
「なんだって!? それはほんとうなのかい、ほえほえさん!」
「そうなの。わたしもう、そめごろうさんのことがすきなの! そめごろうさんなしでは、いきてゆけないの!」
「ちょっと待ってアメリ!」
たまらず椅子ごと後ろを向き、待ったをかける。
「おお~。なーに?」
「あのね、アメリ。そういうのどこで覚えたの!? 具体的にはその、ほえほえさんの奪い合いみたいなの」
「えっとね、昨日お隣に遊びに行ったでしょー? そのとき久美お姉ちゃんと、なんかそういうテレビ一緒に見た!」
さ、斎藤さあああああーんっ! すみません、面倒見ていただいたのは感謝しますけど、これはちょっと抗議させてください……。
LIZEで、何があったかとともに「これは困ります」という旨の文を送ると、土下座猫スタンプとともに「すみません。以後気をつけます」と、彼女らしからぬ口調で返事が届く。もともと彼女、目上は立てる人だったものね。
ただ、ちょっと恐縮し過ぎなので、「いえ、そこまで責めているわけではないです。ただ、アメリにそういうのはまだ早すぎると思っただけですので」とフォローする。
ふう。
「いーい、アメリ。ちょっとアメリにはそういうの早いのね。もっと大きくなったらそういうのやろう」
「おお~。わかった! ひらたさん出番なくなっちゃった」
ひらたさんというのは、マンボウのぬいぐるみのこと。「平たいからひらたさん」とわかりやすいけれど、やっぱりちょっと独特のセンスが炸裂している。
「じゃあ、私とぬいぐるみ遊びしよう」
変てこ魚介類メロドラマで執筆の調子も狂ってしまったので、しばしアメリと穏当な内容のぬいぐるみ遊びに興じました。やれやれ。
◆ ◆ ◆
アメリも真っ当な(?)ぬいぐるみ遊びに立ち戻ったようで、安心して再度仕事に取り組んでいると、なんだか疲れを覚える。PCの時計を見ると、もう五時半過ぎだ。
ありゃ、ちょっと集中しすぎたか。
「アメリ、そろそろごはんにしよっか。今、ごはんの準備するからね」
椅子ごと後ろを向き、ぬいぐるみ遊びからブロック遊びにシフトしていたアメリに呼びかける。
「おお~! 今日は、お手伝い何すればいーの?」
「今日は、アメリにできることはないかなー。だから、待っててね」
「じゃあ、テレビ見たい~」
ほいほい。テレビを付け、イヤホンを差し込んでイヤーピースとリモコンを渡す。
さあ、お炊事がんばりましょー!
◆ ◆ ◆
といっても、まずはお米をお水に浸しとかないとねー。とはいえ、今回は茶飯なので、昆布だし、料理酒、お醤油などをお水に混ぜる次第です。
今どきの炊飯器は浸し工程とか蒸らしも自動でやってくれるらしいけど、この炊飯器は上京時にお父さんからプレゼントしてもらったもので、色んな意味で愛着があり、買い替えは忍びなくて未だに愛用しているのです。
それはさておき、あとは大根を輪切りにした後皮を厚めに剥いて、沸かしておいたお湯で下茹で~。
「ただいまー」
「おお~! もうできた!?」
私が戻ってきたことに気付き、イヤーピースを外しながら声をかけてくるアメリ。子供向け番組見てたみたいね。変なドラマじゃなくて良かった。ほっ。
「んにゃ。お米と大根を食べられる状態にするのに時間かかるから、それまで三十分ぐらい暇つぶし。アメリと遊んでもいいし、テレビ見ててもいーよ」
「じゃあ、文字教えて!」
「おっけ。勉強家だねえ、アメリちゃんは」
今日は、多角経営ならぬ多角遊戯なのね。頭を撫でると、「うにゅう」という気の抜けた声を上げる。では、文字のお勉強をしましょうか。
◆ ◆ ◆
熱心なアメリに応えるように文字を教えていると、三十分経過をスマホがアラームで知らせる。
「じゃあ、また料理作ってくるね」
大根の火を止め、炊飯器のスイッチをオン!
袋入りおでんは調味液に浸かっているけど本格的な味は付けていないタイプ。なので、つゆはこちらで作る必要がある。といっても、顆粒のつゆの素をお湯に入れるだけなんだけどね。
おでんと大根をザルに上げ、お湯に改めて入れまーす。そこにおでんつゆの素をいい感じに溶かしたら、あとは火を止めて味を染み込ませる!
ふう。大根以外手間はかからないけど、時間がかかるねえ。
◆ ◆ ◆
「おお~! もうできたー!?」
文字勉強タブレットで遊んでいたアメリが、顔を上げる。
「ごめんねー、まだなのー。でも、もうすぐできるからね~。次は何して遊ぶ?」
「文字のお勉強教えて!」
「ほいほい。じゃあ、さっきの続きといきましょう~」
というわけで、またもや文字のお勉強。
もし学校に行くことができたら、きっとこの子はスポンジのように知識を吸収できるんだろうな。
社交的な性格だから、周囲ともうまくやれそう。
そんなIFを考えると、少し切なくなってしまう。
いかんいかん! 勝手に沈んでどうする。アメリを幸せにするために、できる範囲で最善を尽くすのみだ!
脳内で独り相撲をしていると、スマホのアラームが三十分経過を知らせる。
「よっし! あとはお米を蒸らして、おでんを温め直すだけだよ~。台所に行こうか!」
「おおー!」
では参りましょうぞ、お嬢様!
◆ ◆ ◆
ご飯を蒸らしつつ、おでんを再加熱。おでんが十分温かくなったらご飯をしゃもじで切る! う~ん、茶飯のいい匂い。
おでんとご飯をよそい、私のほうには練りからしを小皿にちゅーっとね。
「できたよ~。熱いからふーふーしながら食べてね」
アメリの対面に着席し、二人でいただきますをする。
まずはお大根。私視点、おでん界のスター! ああ、味が染みてて美味しい……。良き哉良き哉。
「美味しい!」
アメリは初手、煮卵からいったのね。卵といえば、よく黄身とからしを間違えちゃうのよね~。
そして茶飯。うん、こちらも昆布の旨味が美味しい。我ながら上出来だと思う。……そんなに難しいことしてないけどね。
二手目は、イワシつみれ。昆布ともどもほとんどだし取り要員だけど、その縁の下の力持ちなところが好きなのです。
「明日は何をしようか」などと会話を楽しみながら、アメリのおでん初体験は終わるのでした。
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