「なんだかすみません。先々月も、いただいてしまったのに」
「るるる」地下駐車場で荷物をしまった後、恐縮するクロちゃん。
「いいのいいの。わたしの権利を、クロちゃんに渡しただけなんだから。クロちゃんの幸せが、わたしの幸せだもの」
そんなクロちゃんの頭を、優しく撫でるまりあさん。
「ええと、プレゼントするのはいいのですけど、クロちゃんの好みってどんな感じなんでしょう?」
「『和』です」
語尾はそれぞれ違えど、大人組一同、近井さんの質問に揃って答える。
「『和』ですか。すると……極端な例だと、着物ですとか?」
「まあ、そういう方向っすね」
「ただ、先々月……」
由香里さんが、まりあさんのご意向でプレゼント権をクロちゃんに譲り、みんなで和歌集や名古屋城プラモ、風鈴や扇子を贈ったことを話す。
「なるほど。ぱっと思いつくものは、先に出されてしまってますね」
下唇に親指を当て、悩む近井さん。
「なんだかすみません」
自分の突飛な提案が、そういう事態を招いてしまったと思ってか、まりあさん恐縮。
「いえ。それならそれで、改めて考えるだけですので」
近井さんが、強く頷く。頼もしい。
「ともは、何プレゼントしたらいーい?」
「絵とか描いてくれると、嬉しいかな」
「わかった! 頑張ってお絵描きするね!」
クロちゃんに頭を撫でられ、母親同様、力強く頷くともちゃん。ふふ、新しい妹ができて、みんなお姉さんムーブだね。
そうそう。クロちゃんへのプレゼントといえば、あれからアメリのあげたかんざし、きちんと挿してくれてるんですよ。ほほえまですねえ。
「とりあえず、駐車場で立ち話もなんですし、どこかで作戦会議といきませんか?」
こういうときはこの方、由香里さんが話を前進させる。一同賛成し、混雑時も過ぎたので、再び「シャンデリア」へと向かうのでした。
◆ ◆ ◆
「ズバリ訊いちゃおうか。クロちゃん、欲しい物って具体的にある?」
さつきさん、由香里さんと子供たちは、さっきクレープ食べたばかりなのでドリンクバーで。そうでない私たちは、めいめいティラミスやアイスなんかを頼んでます。ちなみに、私はプリン。
で、ここにきてサプライズもないと思うので、ズバリ尋ねてしまうことに。
「うぅ~ん、欲しいものですか……。ボク、最近将棋のことばっかり考えてるんで、それ系の本が嬉しいですね。あ、いえ。いただけるなら、何でもありがたいです」
最後に一言付け加えるあたり、奥ゆかしい。
「ということは、例の本屋ですかねー。……くー!」
アイス頭痛に悩まされながらも、話をまとめる優輝さん。
「善は急げということで、いただき終わったら行きましょうか。駐車場も無料時間切れそうですし」
アイスティーを飲んでいた由香里さんが、例によって話を前進させる。
そうね。駐車場も、いつまでもタダではないのです。行きましょ、行きましょ。……プリン美味し~!
◆ ◆ ◆
というわけで、麗文堂店内。いやー。女十三人、うち幼女五人が将棋本コーナーにたむろしてる姿は、ある種壮観なことでしょう。
「ささ、なんでもリクエストして欲しいっす」
「ありがとうございます。これと、これと……」
彼女が今、注目しているであろう戦法が書かれた本や、総合誌を手に取っていく。よくわからないけど、将棋って色々戦法があるのねえ。
「おお~……三百円じゃ、買ってあげられない……」
本の値段を見て、自分のお小遣いでは捻出できないことを嘆くアメリ。
「じゃあ、三人で出し合って一冊買うのはどう?」
「おお!」
その発想はなかったとばかりに、キラキラした瞳を向けてくる。
「ミケとノーラはどう!?」
「そうしましょーか」
「いいぞー!」
というわけで、二百円ずつ出し合って、六百円の本を買ってあげることになりました。良き哉良き哉。
「ありがとう、みんな」
はにかんでお礼を述べるクロちゃん。いつも思うけど、この控えめな笑顔、実にクロちゃんって感じで可愛い。
「気にすんなー! 友情パワーだー!」
ノーラちゃんが拳を突き上げ、燃えている!
「おおー!」
アメリもバーニング!
「ミケはそれ、やらないわよ」
あらら、案外ノリが悪い。まあ、本屋さんで騒ぐのもって感じなのでしょう。みんなのお姉さん的には。
かくして、計九冊の本を手にレジへ。
◆ ◆ ◆
「ありがとうございました」
店外に出て、本の入った袋を分け合って持ち、深々とお辞儀するクロちゃんとまりあさん。
「いえいえ、どういたしまして。それで、バッチリ強くなってね!」
サムズアップすると、「ハイ!」と、大きくはないけど、彼女には珍しいほど力強い声で応える少女棋士。心底真剣に、将棋に打ち込んでるんだなー。
「それじゃあ、名残惜しいですけど、買うべき物も買ったところで帰りますかー」
優輝さんが、首をぐりんぐりん回してほぐす。結構、長丁場になりましたものね。さすがに解散ムード。
「あ、近井さん。私、帰りにスーパーに寄っていきたいのですけど、ダメでしょうか?」
「構いませんよ。むしろ、かさばる日用品なんかが買いやすくて、助かります。ありがとうございます」
口元に手を当て、微笑む彼女。
こうして、帰りがけに近井さん親子と一緒にスーパーを回り、今日明日のごはんの用意をするのでした。
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