神奈さんとアメリちゃん

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第四百二十八話 美しき哉、友情

公開日時: 2021年12月7日(火) 21:01
文字数:2,103

「なんだかすみません。先々月も、いただいてしまったのに」


 「るるる」地下駐車場で荷物をしまった後、恐縮するクロちゃん。


「いいのいいの。わたしの権利を、クロちゃんに渡しただけなんだから。クロちゃんの幸せが、わたしの幸せだもの」


 そんなクロちゃんの頭を、優しく撫でるまりあさん。


「ええと、プレゼントするのはいいのですけど、クロちゃんの好みってどんな感じなんでしょう?」


「『和』です」


 語尾はそれぞれ違えど、大人組一同、近井さんの質問に揃って答える。


「『和』ですか。すると……極端な例だと、着物ですとか?」


「まあ、そういう方向っすね」


「ただ、先々月……」


 由香里さんが、まりあさんのご意向でプレゼント権をクロちゃんに譲り、みんなで和歌集や名古屋城プラモ、風鈴や扇子を贈ったことを話す。


「なるほど。ぱっと思いつくものは、先に出されてしまってますね」


 下唇に親指を当て、悩む近井さん。


「なんだかすみません」


 自分の突飛な提案が、そういう事態を招いてしまったと思ってか、まりあさん恐縮。


「いえ。それならそれで、改めて考えるだけですので」


 近井さんが、強くうなずく。頼もしい。


「ともは、何プレゼントしたらいーい?」


「絵とか描いてくれると、嬉しいかな」


「わかった! 頑張ってお絵描きするね!」


 クロちゃんに頭を撫でられ、母親同様、力強くうなずくともちゃん。ふふ、新しいができて、みんなお姉さんムーブだね。


 そうそう。クロちゃんへのプレゼントといえば、あれからアメリのあげたかんざし、きちんと挿してくれてるんですよ。ほほえまですねえ。


「とりあえず、駐車場で立ち話もなんですし、どこかで作戦会議といきませんか?」


 こういうときはこの方、由香里さんが話を前進させる。一同賛成し、混雑時も過ぎたので、再び「シャンデリアイタリアンファミレス」へと向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「ズバリ訊いちゃおうか。クロちゃん、欲しい物って具体的にある?」


 さつきさん、由香里さんと子供たちは、さっきクレープ食べたばかりなのでドリンクバーで。そうでない私たちは、めいめいティラミスやアイスなんかを頼んでます。ちなみに、私はプリン。


 で、ここにきてサプライズもないと思うので、ズバリ尋ねてしまうことに。


「うぅ~ん、欲しいものですか……。ボク、最近将棋のことばっかり考えてるんで、それ系の本が嬉しいですね。あ、いえ。いただけるなら、何でもありがたいです」


 最後に一言付け加えるあたり、奥ゆかしい。


「ということは、例の本屋麗文堂ですかねー。……くー!」


 アイス頭痛に悩まされながらも、話をまとめる優輝さん。


「善は急げということで、いただき終わったら行きましょうか。駐車場も無料時間切れそうですし」


 アイスティーを飲んでいた由香里さんが、例によって話を前進させる。


 そうね。駐車場も、いつまでもタダではないのです。行きましょ、行きましょ。……プリン美味し~!



 ◆ ◆ ◆



 というわけで、麗文堂店内。いやー。女十三人、うち幼女五人が将棋本コーナーにたむろしてる姿は、ある種壮観なことでしょう。


「ささ、なんでもリクエストして欲しいっす」


「ありがとうございます。これと、これと……」


 彼女が今、注目しているであろう戦法が書かれた本や、総合誌を手に取っていく。よくわからないけど、将棋って色々戦法があるのねえ。


「おお~……三百円じゃ、買ってあげられない……」


 本の値段を見て、自分のお小遣いでは捻出できないことを嘆くアメリ。


「じゃあ、三人で出し合って一冊買うのはどう?」


「おお!」


 その発想はなかったとばかりに、キラキラした瞳を向けてくる。


「ミケとノーラはどう!?」


「そうしましょーか」


「いいぞー!」


 というわけで、二百円ずつ出し合って、六百円の本を買ってあげることになりました。良きかな良きかな


「ありがとう、みんな」


 はにかんでお礼を述べるクロちゃん。いつも思うけど、この控えめな笑顔、実にクロちゃんって感じで可愛い。


「気にすんなー! 友情パワーだー!」


 ノーラちゃんが拳を突き上げ、燃えている!


「おおー!」


 アメリもバーニング!


「ミケはそれ、やらないわよ」


 あらら、案外ノリが悪い。まあ、本屋さんで騒ぐのもって感じなのでしょう。みんなのお姉さん的には。


 かくして、計九冊の本を手にレジへ。



 ◆ ◆ ◆



「ありがとうございました」


 店外に出て、本の入った袋を分け合って持ち、深々とお辞儀するクロちゃんとまりあさん。


「いえいえ、どういたしまして。それで、バッチリ強くなってね!」


 サムズアップすると、「ハイ!」と、大きくはないけど、彼女には珍しいほど力強い声で応える少女棋士。心底真剣に、将棋に打ち込んでるんだなー。


「それじゃあ、名残惜しいですけど、買うべき物も買ったところで帰りますかー」


 優輝さんが、首をぐりんぐりん回してほぐす。結構、長丁場になりましたものね。さすがに解散ムード。


「あ、近井さん。私、帰りにスーパーに寄っていきたいのですけど、ダメでしょうか?」


「構いませんよ。むしろ、かさばる日用品なんかが買いやすくて、助かります。ありがとうございます」


 口元に手を当て、微笑む彼女。


 こうして、帰りがけに近井さん親子と一緒にスーパーを回り、今日明日のごはんの用意をするのでした。

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