神奈さんとアメリちゃん

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第二百八十四話 春風のいたずら

公開日時: 2021年7月8日(木) 21:01
更新日時: 2023年4月16日(日) 21:19
文字数:2,105

 今日は期限ギリギリなので、国民健康保険税を収めに市役所に来ています。


 役所は駅の結構南にあり、この後色々買い物もしようと、市役所の駐車場ではなくフォレストショッピングモール北の市営駐車場に車を停めたのですが、これが仇になるとは、このときは想像していなかったのです……。


 納税を終え、今日はアメリご執心のエスカルゴではなく、ちょっと変わったお店に入ろうという提案をし、市役所から駅に向かう途中にある、役所すぐそばの「F-TERRACE」というレストラン……というより、ダイナー軽食屋に入ってみることにしました。


 お昼どきを外れているせいか、ほかにお客さんはいないね。


 メニューを眺めていると、ローストビーフサンドセットが!


「アメリー、ローストビーフあるよ~」


「おおー!」


 ローストビーフ。前に作った時、アメリ食べ足りなそうだったもんね。


 二人で同じローストビーフサンドプレートを注文し、さらに私はこれにアイスコーヒーを一緒にいただき、おしゃべりしながら料理を待つことに。


 ややすると、一枚のプレートにローストビーフサンド、サラダ、フライドポテトが載ったもの+スープが出されました。おおう、予想よりボリューミー!


「アメリ、食べ切れそう?」


「頑張る……!」


 「無理しなくていいからね」と言い、二人で「いただきます」。


 まずは、コーヒーを一口。……ん! 美味しい! や、これは文字通り一味違うわ。すごいな。これはいいものだ。


 続いてサラダ。これも、ドレッシングが美味しい。黄色いけど、何を使ってるんだろう?


 そして、ローストビーフサンド。これも実に美味しい。ちょっとお高いお店だけど、どれもそれに見合う味だわ。市役所には何度も立ち寄ったことがあるけど、これは穴場だったなー。


 アメリの様子を見ると、美味しそうに食んでいる。特に、念願のローストビーフが嬉しいみたいね。


 そして、完食。ふう、お腹いっぱい。アメリもなんとか食べきり、お会計。美味しかったー。


 退店後は、「麗文堂書店」に向かうべく、けやき通りを歩いて行く。あ、フォレスト前でバンドやってる。ここではよく、こうやってフォルクローレ(ペルー音楽)のバンドがパフォーマンスをしています。こないだは猿回しやってたっけな。


 私たち以外にも、色んな人が足を止めて眺めている。しかし、今日は風が強い。春一番かあ。


 うお、すっごい強い風! 白いキャスケットが目の前を横切っていきました。


 ……ん? 白いキャスケット?


 アメリを見ると、猫耳がご開帳!!


 ど、どどどどどどうしよう!? どうしたらいいの!?


 帽子! とりあえず帽子!! 慌ててあとを追いかけ、ダッシュで回収!


 ひいぃ!? アメリ、めっちゃスマホで撮られてるゥ!!


「すみません! 行こう!」


 キョトンとするアメリに帽子をかぶせ、急いで手を引き駐車場に向かう。もはや麗文堂どころではない。


 文字通り、逃げ帰る私たちでした……。



 ◆ ◆ ◆



 帰宅後、恐る恐るツイスターSNSを確認してみる。


 うひゃあああああ! めっちゃ拡散されてるゥゥゥゥッ!!


 良心的 (?)な人は顔にボカシ入れてくれているけど、そのまんまの写真も多数。


 どうしよう、まずいよこれ……。


 突然スマホが鳴り、ビクッとなる。送信者は白部さんだ。


「こんにちは。ツイスター、見ました。大変なことになってしまいましたね」


 彼女の声も、ずいぶん緊張している。


「はい。どうしたらいいのか……」


「上では、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっているようです」


「すみません……。強風で帽子が飛んでしまって……」


 恐縮し、肩を落とす。


「いえ、不可抗力だったのでしょう? 仕方がないです。次善策を考えましょう」


 LIZEでも、優輝さんやまりあさんが反応し始める。いずれも、心配するメッセージだ。


「皆さんがLIZEで反応されています。とりあえず、LIZEで話しませんか?」


「そうですね。そうしましょう」


 白部さんもご同意され、作戦会議に。


「えらいことになってますね。バズっちゃってますよ」


 ツイスターを見ると、優輝さんのおっしゃる通り、さらにものすごい勢いで拡散されている。


 これはもう、歯止めが効かない。


 ネットの怖いところだ。


 まさか、アメリがこんな形で有名人になってしまうなんて……。


「上の、さらにその上の決定が出たようです。猫耳人間の公表に踏み切るようにしたとのことです」


「スミマセン……」


「いえ、いつかは発表しなければいけないことでしたから。それが少し早まっただけですので、お気になさらないでください」


 フォローの言葉をいただくけど、やはり責任は感じてしまうもので。


「やはり、公表の際はアメリや私が壇上に立つ必要があるんでしょうか……?」


「いえ、それは必要ないはずです。とりあえず、落ち着きましょう」


 落ち着けとおっしゃられても、心臓バクバクですよ。


「おねーちゃん、アメリ何か悪いことした……?」


 心配そうに、私の顔を覗き込むアメリ。


「ううん。アメリは何も悪いことしてないよ。大丈夫」


 そうだ。私もアメリも、何も悪いことなんてしていない。私がパニクったら、この子に心配をかけるだけだ。


「おいで」


 椅子を九十度ひねり膝を叩くと、お姫様がちょこんと腰掛ける。


 一度深呼吸し、皆さんとチャットしながら、アメリの髪を撫で続けるのでした。

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