神奈さんとアメリちゃん

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第二百四十四話 お雛様優輝さん

公開日時: 2021年5月26日(水) 21:01
文字数:2,522

「こんにちは! どーもどーも! 今日はお越しいただき、ありがとうございます!」


 お昼少し前、それはもうルンルン気分を隠す気のない優輝さんに、にこにことお迎えされました。


 邸内に入ると、皆さん勢揃いしてるのでご挨拶。まりあさんは、今日早めにお迎えされたのね。棚の上に、お内裏様とお雛様の人形が飾られている。


「おねーちゃん、このお人形なーに?」


「今日はひな祭りだからね。こういうお人形を飾ってお祝いするのよ」


 「おお~!」と感心するアメリ。


「あたしら、お雛様って歳でもないですけど、今はミケやお友達がいますからね。あとは、気分大事ですし!」


 屈託なく微笑む優輝さん。


 「毎回送迎していただいて、なんだか恐縮です」とおっしゃるまりあさんに、優輝さんとさつきさんが、「気にしないでください」と気を使わせまいとする。ちなみに、久美さんと由香里さんはキッチンなう。


「この世は持ちつ持たれつ! 情けは人の為ならずですよ、まりあさん!」


 気さくに語る優輝さんに、私も前々から気前の良さというか、おおらかさを何度も感じていたので、心の中でしみじみとうなずく。彼女、本当に見返りを求めず人に何かしてあげるのが好きなのよね。そういった人間性が人望となって、チームの精神的支柱になっているんだ。


 そんなお陽様のような優しさに、まりあさんも気後れが少し和らいだご様子。良きかな良きかな


 ちょっと堅苦しい感じで始まってしまったけれど、優輝さんを中心とした軽快なトークに一同盛り上がり、すっかり和気あいあい。ほんと、人をノせるのが上手い。天性の才能だね。


「はいはーい。みんな、出来たぜー。こっち来てちょーだいな」


 ダイニングから久美さんがひょっこり顔を出し、呼びかけてくる。さて、今日はどんなごちそうとケーキが出てくるのでしょう? 楽しみ!



 ◆ ◆ ◆



ダイニングにお邪魔すると、テーブルの上でろうそくが立った大きな菱餅がお出迎え! ええ、ケーキじゃないの!?


 ちょっと面食らいつつも、由香里さんに勧められるまま着席する。


「んじゃー、よろしく優輝」


「はい。今日は、あたしの誕生パーティーにお集まりいただき、本当にありがとうございます! ひな祭りでもありますので、ダブルでおめでたい! って感じでしょうか。では、今日は大いに楽しみましょう!」


 久美さんがろうそくに点火し、優輝さんが吹き消すと、みんなで拍手して「お誕生日おめでとうございます!」とお祝いする。


 優輝さんが菱餅を切り分けていく。菱餅って、こんなにすっとナイフが通るものだったかしら?


 菱餅が配膳されると、その正体に気付いた。なんと、菱餅型ケーキですよ、これ!


 「いやー、ケーキだったんですね、これ」と感嘆の言葉を漏らすと、「ちょっと面白そうだなってひらめいて、作ってみました」と、由香里さんがいたずらっぽく微笑む。由香里さんも、結構おちゃめね。


 いただきますの合唱の後、さっそくフォークで口に運んでみる。


 一段目はいちごケーキ、二段目はオーソドックスなスポンジケーキ、そして三段目は抹茶ケーキ! ひとつで三つの味が楽しめる新機軸! いやー……ほんと面白いこと考えるなあ、由香里さん。


 これに、緑茶をいただくと後味もさっぱり! ケーキに緑茶、案外合うのね。


「これからメインディッシュってことで和食を配るんで、口をさっぱりさせといてな」


 久美さんもお茶を飲みながら、皆に促す。パーティーで和食かー。どんなのが出てくるんだろ?


 「じゃ、そろそろいいかな」と彼女がケーキ皿を片し、どんと置いたのはおっきな尾頭付きの真鯛のお刺身! ご、豪華~!!


「まだまだ行くぜー」


 さらにはまぐりのお吸い物と、菜の花と炒り卵のごはんが配られる。いやー、ほんと豪華!


「ありがとうございます、久美さん。では、いただきましょう。いただきます!」


 優輝さんの音頭取りのもと、みんなで再度合唱! うわあ、美味しそうな鯛……。一切れいただき、ぱくっ。美味しい~! これに、菜の花のごはんがまた美味しさの二乗! はまぐりのお吸い物で流すと、美味しさ三乗!!


 子供たちにも、美味しいと大好評!


「これは久美さんが?」


「そそ。由香里にばっかり作らせるのもね」


 やっぱり、久美さんも料理お上手よね~。


「料理食べ終わったら、これもどーぞ」


 彼女がお猪口を配り、瓶入りの白い液体を注いでくれる。


「子供と下戸組はこっちで」


 瓶を変え、これまた白い液体を注ぐ。


「じゃ、優輝。音頭取りよろしく」


「あ、はい。乾杯!」


 皆で乾杯の言葉を交わし、きゅっといただく。お、白酒ですね! うーん、実にひな祭り!


「おお~! 甘い!」


 隣のアメリが声を上げる。


「そっちは甘酒な」


 久美さんが、にかっと笑みをこぼす。


 いやー、ほんと豪華だなあ。優輝さんの慕われぶりが伺える。


 こうして、みんなでごちそうさま。リビングでプレゼントを渡す段となりました。



 ◆ ◆ ◆



「私からはこれを」


 ラッピングされた、例の招き猫を手渡す。


「黒ハチワレの招き猫です。ソーラー電池で、動くらしいですよ」


「ありがとうございますー!」


 優輝さんが、本当に嬉しそうに受け取る。


「あと、これを」


 紙を一枚渡す。


「あっ! あたしとミケですね! お雛様だー! ありがとうございます! ほらミケ、見て見て」


「ほんとだ。ミケの可愛さがよく出てるわね! 神奈おねーさん、ありがとう!」


 紙の上には、お雛様の格好をした優輝さんとミケちゃん。


「昨日アイデアを思いついて、一晩で描きました」


「いやー、嬉しいなー! 宝物にします!」


 本当に嬉しそうに眺める彼女。


「優輝おねーちゃん、アメリも絵を描いたよ!」


 同じく、優輝さんを描いた絵を手渡すアメリ。


「ありがとうね、アメリちゃん」


 こちらも、嬉しそうに受け取る。


 こうして皆さんからプレゼントを受け取り、ホクホク顔の彼女。


 好みを把握していなかったと恐縮していた白部さんの贈り物は、三毛猫のポートレートだったようで、これも大いに喜ばれて白部さんほっと一息。


「今日は、本当にありがとうございました! この日を、一生忘れません!」


 深々と皆さんにお辞儀する優輝さん。


 最後にしばらく雑談をし、頃合いを見てひな祭り込みのお誕生会はお開きとなりました。


 今日も楽しかったなあ。飲酒しちゃったから、歩きで晩ごはんのお買い物だね。今日は何にしようかな。

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