「こんにちは! どーもどーも! 今日はお越しいただき、ありがとうございます!」
お昼少し前、それはもうルンルン気分を隠す気のない優輝さんに、にこにことお迎えされました。
邸内に入ると、皆さん勢揃いしてるのでご挨拶。まりあさんは、今日早めにお迎えされたのね。棚の上に、お内裏様とお雛様の人形が飾られている。
「おねーちゃん、このお人形なーに?」
「今日はひな祭りだからね。こういうお人形を飾ってお祝いするのよ」
「おお~!」と感心するアメリ。
「あたしら、お雛様って歳でもないですけど、今はミケやお友達がいますからね。あとは、気分大事ですし!」
屈託なく微笑む優輝さん。
「毎回送迎していただいて、なんだか恐縮です」と仰るまりあさんに、優輝さんとさつきさんが、「気にしないでください」と気を使わせまいとする。ちなみに、久美さんと由香里さんはキッチンなう。
「この世は持ちつ持たれつ! 情けは人の為ならずですよ、まりあさん!」
気さくに語る優輝さんに、私も前々から気前の良さというか、おおらかさを何度も感じていたので、心の中でしみじみと頷く。彼女、本当に見返りを求めず人に何かしてあげるのが好きなのよね。そういった人間性が人望となって、チームの精神的支柱になっているんだ。
そんなお陽様のような優しさに、まりあさんも気後れが少し和らいだご様子。良き哉良き哉。
ちょっと堅苦しい感じで始まってしまったけれど、優輝さんを中心とした軽快なトークに一同盛り上がり、すっかり和気あいあい。ほんと、人をノせるのが上手い。天性の才能だね。
「はいはーい。みんな、出来たぜー。こっち来てちょーだいな」
ダイニングから久美さんがひょっこり顔を出し、呼びかけてくる。さて、今日はどんなごちそうとケーキが出てくるのでしょう? 楽しみ!
◆ ◆ ◆
ダイニングにお邪魔すると、テーブルの上でろうそくが立った大きな菱餅がお出迎え! ええ、ケーキじゃないの!?
ちょっと面食らいつつも、由香里さんに勧められるまま着席する。
「んじゃー、よろしく優輝」
「はい。今日は、あたしの誕生パーティーにお集まりいただき、本当にありがとうございます! ひな祭りでもありますので、ダブルでおめでたい! って感じでしょうか。では、今日は大いに楽しみましょう!」
久美さんがろうそくに点火し、優輝さんが吹き消すと、みんなで拍手して「お誕生日おめでとうございます!」とお祝いする。
優輝さんが菱餅を切り分けていく。菱餅って、こんなにすっとナイフが通るものだったかしら?
菱餅が配膳されると、その正体に気付いた。なんと、菱餅型ケーキですよ、これ!
「いやー、ケーキだったんですね、これ」と感嘆の言葉を漏らすと、「ちょっと面白そうだなってひらめいて、作ってみました」と、由香里さんがいたずらっぽく微笑む。由香里さんも、結構おちゃめね。
いただきますの合唱の後、さっそくフォークで口に運んでみる。
一段目はいちごケーキ、二段目はオーソドックスなスポンジケーキ、そして三段目は抹茶ケーキ! ひとつで三つの味が楽しめる新機軸! いやー……ほんと面白いこと考えるなあ、由香里さん。
これに、緑茶をいただくと後味もさっぱり! ケーキに緑茶、案外合うのね。
「これからメインディッシュってことで和食を配るんで、口をさっぱりさせといてな」
久美さんもお茶を飲みながら、皆に促す。パーティーで和食かー。どんなのが出てくるんだろ?
「じゃ、そろそろいいかな」と彼女がケーキ皿を片し、どんと置いたのはおっきな尾頭付きの真鯛のお刺身! ご、豪華~!!
「まだまだ行くぜー」
さらにはまぐりのお吸い物と、菜の花と炒り卵のごはんが配られる。いやー、ほんと豪華!
「ありがとうございます、久美さん。では、いただきましょう。いただきます!」
優輝さんの音頭取りのもと、みんなで再度合唱! うわあ、美味しそうな鯛……。一切れいただき、ぱくっ。美味しい~! これに、菜の花のごはんがまた美味しさの二乗! はまぐりのお吸い物で流すと、美味しさ三乗!!
子供たちにも、美味しいと大好評!
「これは久美さんが?」
「そそ。由香里にばっかり作らせるのもね」
やっぱり、久美さんも料理お上手よね~。
「料理食べ終わったら、これもどーぞ」
彼女がお猪口を配り、瓶入りの白い液体を注いでくれる。
「子供と下戸組はこっちで」
瓶を変え、これまた白い液体を注ぐ。
「じゃ、優輝。音頭取りよろしく」
「あ、はい。乾杯!」
皆で乾杯の言葉を交わし、きゅっといただく。お、白酒ですね! うーん、実にひな祭り!
「おお~! 甘い!」
隣のアメリが声を上げる。
「そっちは甘酒な」
久美さんが、にかっと笑みをこぼす。
いやー、ほんと豪華だなあ。優輝さんの慕われぶりが伺える。
こうして、みんなでごちそうさま。リビングでプレゼントを渡す段となりました。
◆ ◆ ◆
「私からはこれを」
ラッピングされた、例の招き猫を手渡す。
「黒ハチワレの招き猫です。ソーラー電池で、動くらしいですよ」
「ありがとうございますー!」
優輝さんが、本当に嬉しそうに受け取る。
「あと、これを」
紙を一枚渡す。
「あっ! あたしとミケですね! お雛様だー! ありがとうございます! ほらミケ、見て見て」
「ほんとだ。ミケの可愛さがよく出てるわね! 神奈おねーさん、ありがとう!」
紙の上には、お雛様の格好をした優輝さんとミケちゃん。
「昨日アイデアを思いついて、一晩で描きました」
「いやー、嬉しいなー! 宝物にします!」
本当に嬉しそうに眺める彼女。
「優輝おねーちゃん、アメリも絵を描いたよ!」
同じく、優輝さんを描いた絵を手渡すアメリ。
「ありがとうね、アメリちゃん」
こちらも、嬉しそうに受け取る。
こうして皆さんからプレゼントを受け取り、ホクホク顔の彼女。
好みを把握していなかったと恐縮していた白部さんの贈り物は、三毛猫のポートレートだったようで、これも大いに喜ばれて白部さんほっと一息。
「今日は、本当にありがとうございました! この日を、一生忘れません!」
深々と皆さんにお辞儀する優輝さん。
最後にしばらく雑談をし、頃合いを見てひな祭り込みのお誕生会はお開きとなりました。
今日も楽しかったなあ。飲酒しちゃったから、歩きで晩ごはんのお買い物だね。今日は何にしようかな。
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