神奈さんとアメリちゃん

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第三百十一話 ほのぼのサッカー

公開日時: 2021年8月5日(木) 21:01
文字数:2,166

 今日も今日とて筆を進めるワタシ。しかし、漫画家の仕事というのはどこまでいっても自分との戦いというか、変化のない仕事だから、アメリがいなかったら、そして生き返ってくれなかったら、一人寂しく執筆作業を続けていたんだろうなと思う。ありがとう、アメリ。


 横でベッドに腰掛け読書している猫耳のお姫様を見ると、生活の潤いというものの大切さを思い知る。


 アメリの背が温かな陽光に照らされ、そのぬくもりを感じさせてあげられるのが嬉しい。カーテンを締め切っていた頃は、家の中もちょっと雰囲気暗かったからね。


「アメリちゃんは何を読んでいるのかなー?」


 ふと、手にしている本が気になって、尋ねてみる。


「こみっくさいえんす! あのね、雲が雨をいっぱい溜められるのって、温度が大事なんだって!」


「へー。そりゃ私も知らなかったなあ。後で休憩するときに少し借りていい?」


「いいよー」


 あー、ほのぼの。ほのぼのの極みですねえ。平和って素晴らしい!


 ここで、コーヒー牛乳をぐびっと。はー、美味しい。愛と平和ほど尊いものはないとしみじみ思う、お昼下がりなのでした。


 すると、ピンポンとインタホンの呼び鈴が鳴るじゃないですか。どなたでしょ?


「はーい、どちら様ですか?」


「こんにちは、白部です。ノーラちゃんが明日まで待てないと聞かないものでして、ご迷惑でなければアメリちゃんと遊ばせてあげてほしいのですが、いかがでしょうか?」


「こんにちは。ちょっと、本人に訊いてみますね」


 寝室へUターン。


「アメリー。ノーラちゃんが遊びに来たけどどうする?」


「遊ぶー!」


 ぱあっと顔を輝かせるお嬢様。


「じゃ、一緒に門までお迎えに行こうか」


「はーい!」


 本をしまい、門へGO!


「白部せんせー! ノーラー! こんにちはー!」


「こんにちは」


「おーっす!」


 しゅびっと挙手して挨拶する二人娘。ノーラちゃん、なんだか久美さんに似てきた気がするな。


 と、反対側の手を見ると、ノーラちゃんサッカーボールを小脇に抱えていいる。


「ノーラちゃん、こんにちは。そのサッカーボールどうしたの?」


「カン姉、こんにちは! これ、ルリ姉に買ってもらった!」


 キラキラした瞳を向けてくる。


この格好パンツルックが解禁になりましたから、買ってあげたんです」


 ふふと微笑む白部さん。


「それで、差支えなければ、お庭を借りてサッカーの練習でも……と思ったのですけど、何か倒すとまずいものとかありますか?」


「うちは、今のところそういったものはないですね。構いませんよ。アメリはどう?」


 我が子を見ると、「やってみたい!」とこちらも瞳キラキラ。


「ありがとうございます。二人のことは私が見ていますので、猫崎さんはお仕事を続けていて大丈夫ですよ」


「わかりました。庭に案内しますね」


 あまり広くはないけれど、自転車の練習ぐらいはできる我が庭。シュートとかしなければ大丈夫でしょう。


 というわけで、シュート練習はなしの方向でお願いして、私は一礼して自室へ。


 窓を開け網戸にし、庭を眺めると、アメリとノーラちゃんが交互にドリブルの練習をしています。


「おお~、難しい……」


 アメリの声が風に乗って届く。この子も運動神経は悪くないけれど、やはりこういうのはノーラちゃんのほうが上手いようだ。


 ドリブルを練習し終わると、今度はパス練習。ノーラちゃんは運動大好きっ子だし、アメリも反復練習を苦にしないタイプだから、いつまでも続けてそうな勢い。


 途中、白部さんが「はーい、ちょっと休憩しましょう」と、持参したスポドリのボトルを手渡す。


 窓際の石段に腰掛け、美味しそうに飲む二人。


「サッカー楽しい?」


 会話できる距離になったので、声をかけてみる。


「「うん!」」


 見事にハモる。良きかな良きかな


「白部さん、二人の練習をところどころ見てましたけど、素人目にもノーラちゃん運動センスいいですねえ」


「ありがとうございます。そうですね。実際私が報告を受けているデータでも、上位に入ってますから」


 そういや、もうすぐT総で検査ですなあ。明日は、みんなが来る前に松戸医院で予防接種だし。


 しかし、こうして思いっきり運動しているアメリを見るのは、ちょっと感無量なものがある。人目を忍んで、運動らしい運動ってストレッチとかダンスゲームとかしかさせてあげられなかったもんね。


 そうだ。


「ちょっと失礼しますね」


 離席し、キッチンへ。例のカップケーキを手早く作り、トレイ片手に寝室へ戻って網戸を開ける。


「おやつだよー。白部さんもどうぞ」


「あら、ありがとうございます。ノーラちゃんもお礼言いましょう」


「カン姉、ありがとー!」


 美味しそうにケーキを食べる三人。私も仕事机でいただく。


 ああ、平和だ。ほんとに、平和って素晴らしい。


 食べ終わったカップを受け取って片すと、再び二人の練習をBGMに作業に打ち込む。今度はボールの取り合いの練習を始めた模様。


 しばらくすると、二人ともさすがに疲れ切ったようで、白部さんが「今日は本当にありがとうございました。ノーラちゃんも大変満足したようです。また明日、お願いしますね」と、お声がけくださいました。


 三人で門に回り、互いに別れを告げる。アメリがだいぶ汗をかいたので、二人を見送った後、お風呂にGO。ふぐた夫妻魚のおもちゃで遊びながら、汗と汚れを流しさっぱり。


 その後も、疲れてお昼寝するアメリちゃんを横に見守りながら、原稿を進めるのでした。

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