「こんにちは。ボクです、クロです」
「はーい、こんにちはー。今そっち行くねー」
お昼過ぎ、クロちゃんが遊びに来ました! アメリが耳としっぽフルオープンの部屋着なので、私だけで門に迎えに行く。
「いらっしゃーい。入って、入って」
「お邪魔します」
自転車を引く彼女を招き入れる。
「手ぶらですみませんって、お姉ちゃんが伝えて欲しいと」
「いいのいいの。後でまりあさんに、気にしないでくださいって伝えとくね」
「はい」
手ぶらとはいうけれど、彼女は紙袋を持参している。多分、お手玉なんかが入っているのだろう。
「じゃ、お茶菓子用意するから寝室で遊んでてね」
「ありがとうございます」
キッチン前でそう告げると、ぺこりとお辞儀して奥に向かう彼女。
おせんべいと羊羹、クロちゃん絶対好きよね。亀池堂さんのじゃないのが申し訳ないけど、昨日まりあさんが買ってたみたいだし、二人で食べたことでしょう。
◆ ◆ ◆
「お待たせー」
トレイを手に寝室に行くと、二人はあやとりをしている最中でした。
「お、あやとりか。いいねー」
「おねーちゃん、おかえりー」
「はい、ただいま。冷めないうちにどうぞ」
配膳し、デスクに腰掛ける。
「あ、そういえばクロちゃん!」
「はい、何でしょう?」
「ついにお月様まで行っちゃったのね!」
昨日、アメリの就寝後に「くろねこクロのたび」を読んだら、クロちゃんがロケットに乗ってお月さまに行く展開でびっくり。その後は、ウサギさんと仲良くなってお餅をお土産に無事地球に帰ってきました。まりあさんも突飛なこと考えるねー。
「はい。ボクも、本を見せてもらってちょっとびっくりしました」
びっくりしたクロちゃん……。リアクションが想像できないな。多分、落語のときの爆笑みたいに、傍から見たらそうは思えない感じだったのかも。
「あ、そうだ。ボク、ちょっと面白い物作ってきたんです。あやとりが一段落したら出しますね」
はて、なんじゃらほい? 気になりますなあ。ま、とりあえず子供たちの仲睦まじいほほえまオーラを背に受けながら、お仕事してましょっと。
「おお~!」とアメリが声を上げたのでそちらを見ると、あら、きれいな星型が。
「クロちゃん、それなんて呼ぶの?」
「これは、流れ星っていいます」
ほほう。そのまんまね。
「相変わらずお見事ねー」
「ありがとうございます」
ちょこんと頭を下げる彼女。
「アメリも褒めてー!」
「うんうん、もちろんアメリも上手よ」
パチパチ拍手すると、「えへへ」と照れる。可愛い。実にマイエンジェル。
「で、さっき言ってたのですけど……」
毛糸をしまい、紙袋から何やら紙を二枚取り出すクロちゃん。
「神奈お姉さん、アメリが読める漢字って小学二年生までで合ってますよね?」
「正確には小三の八割程度までかな」
「じゃあ、大丈夫ですね。はい、これアメリのぶん。お姉さんもどうぞ」
とてとてと寄ってきて、クロちゃんが紙を一枚手渡してくる。そこには、こう書いてあった。
出 新 天 年 元
手?元 友?間 土?形 多?女 休?中
火 工 上 数 光
「あら、二字熟語パズル? クロちゃんが作ったの?」
「はい。お姉ちゃんがこないだやっていて面白そうだったので、作ってみました。アメリが遊べるように、小二向け漢字だけで考えて」
へー。すごいなあ。
「ありがとう。仕事の合間にやらせてもらうね」
「よろしくお願いします。じゃあアメリ、ルールを説明するね……」
アメリにルール説明を始めるクロちゃん。良き哉良き哉。
◆ ◆ ◆
うーん、疲れたあ~っ!
肩を揉みほぐしながら二人のほうを見ると、アメリが「おお?」と様々なイントネーションで唸りながら、パズルと格闘なう。
「クロちゃん、暇じゃなーい?」
「いえ、アメリの百面相見てるの楽しいので大丈夫です」
たしかに、こうして眺めてると何だか色んな表情をしていて面白いかも。
「とりあえず、新しいお茶淹れてくるね」
「ありがとうございます」
「おおー。おねーちゃん、ありがとー! アメリ頑張るよー!」
子供たちに笑顔で応え、キッチンへ。
戻り。
「どう? アメリ、できたー?」
「難しい……」
ふむ、苦戦中か。配膳し、再びデスクに座る。私も、ちょっとやってみましょうかね。
最初のは……ふんふん、多分これね。次は……あ、これだ!
ふーむ。多分全問正解よね? つい熱中してしまった。
「クロちゃん、これ合ってる?」
紙を手に見せに行く。
「……はい、全問正解です。さすがですね」
「えへへ。褒められちゃった」
上機嫌で再度デスクに戻る。ふう、いい息抜きになったな。
「そういえばクロちゃん」
「はい」
「クロちゃんって、何ていうか渋いもの好きよね。お手玉とかおせんべいとか……。どういうところが魅力なの?」
「そうですね……上手く言えないんですけど、趣深さ……でしょうか」
趣深さ! 幼女の口からすごいワードが飛び出した!
「はー……なるほどねえ。まあ、たしかにクロちゃんの趣味ってそんな感じだわ」
「変、ですか?」
ちょっとしょげる彼女。
「ううん! 個性的でとっても素敵だと思う!」
将棋や盆栽に打ち込む幼女がいてもいい。自由とはそういうことだ。
「ありがとうございます」
はにかみながら、ぺこりと頭を下げられる。誰が見ても可愛い。
「わかった!」
突然、大声を上げるアメリ。
「合ってる?」
「うん、正解。ほかのも当ててみてね」
クロちゃんって、ほんと落ち着いてるよねー。最初は人付き合いが苦手だったけど、それも克服して。すごいもんだ。
思えばアメリも、お風呂が苦手、お注射も苦手、スプーンやトイレの使い方もわからないんだった。それが立派になって……。子供の成長って早いなあ。
そんなことをしみじみ思いながら、再び筆を走らせるのでした。
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