本日は、おなじみお勉強会。ミケちゃんが、上機嫌で小声ながら歌を歌っています。
その内容は、千多ちゃんが勉強の楽しさを歌い上げるというもので……。
「ミケちゃん。ひょっとして、その歌?」
「そうよー。久美がハップンして、あれから一晩で作ってくれたのよー。もう家で、百回ぐらい歌っちゃった」
そりゃすごい。さすが面倒見の良さの化身!
「さすがに、『これ以上は無理だかんな』って釘刺されちゃったけどね。感謝と満足してるわ」
久美さん、お疲れ様でした。
「てことは、今やってるのは?」
「小数! 前より、スッと頭に入ってくるわ!」
そりゃめでたい。
「やっぱり、苦手意識が消えると、一気に前に進めるタイプみたいですね。ミケちゃんは」
白部さんも感心してらっしゃる。
「先生、ボクのも見てほしいです。どうですか?」
「うん、合ってるよー。クロちゃんは堅実ねえ」
「漢字はー?」
愛娘が問う。
「うん、だいたい合うようになってきてるよ」
さすがのアメリちゃんをもってしても、漢字は反復練習あるのみだからねー。
「小四漢字を覚えると、かなり色んなものが読めるようになるよ」
「おお~! 楽しみ!」
勉強そのものが楽しいという、学問の子。かつてはミケちゃんと歌謡コンテストに出たりしたけど、「そのまま順調にいけば」っていう、将来への道筋が見えた感じだね。
でも、歌謡コンテストの特訓と経験は、決して無駄ではなかったと思う。あれでアメリは、一度挫折して、そして立ち直ることを覚えた。そういう人間は、強い。
ふふ。アイドルダンスする三人組を夢想したこともあったっけ。懐かしいな。
「ノーラちゃん、割り算は覚えたから、漢字の次は分数かあ。ブンレッツが教材として使い回せるかしらね?」
「おー! エレメントレンジャーが絡むなら、何でもいけると思うぞー!」
白部さんの思案に、意気軒昂に応えるノーラちゃん。心強いね。
「お茶、淹れてきますね」
体をほぐすついでに、新しく淹れることを提案する。
「ありがとうございます」
白部さんらにお礼を言われ、空の湯呑が載ったトレイを手に、台所へ向かうのでした。
ちなみに、今日のおやつは白部さんの持ち込み。甘い、ソフトタイプのおせんべいです。
「お待たせしました」
寝室に戻り配膳していくと、再び皆からお礼を述べられました。
「なー、カン姉! アタシ、明日スマホ買ってもらえるんだー」
「あら、良かったじゃない」
私も、せっかくだからとちょっと場に混ざる。
「楽しみだなー。サッカーの動画とか、エレメントレンジャー見まくるんだー」
「サブスクに入られるんですか?」
「ええ。好きなものを、見させてあげようと思いまして」
へー。学問のサブスクとかあったら、アメリのために加入するんだけどな。
「ミケも、音楽の聴き放題サービス入れてもらったわ。もう、千多ちゃんのソロ、聴きまくりよ!」
ほほー。
「クロちゃんはそういうのある?」
「いえ、特に……。将棋番組とか落語の録画を見るぐらいですね」
ほむ。
「こないだ、『目黒のさんま』っていうお題をやってて、オチの笑いどころがよくわからなかったんですけど、お姉ちゃんに訊いたら、目黒は内地で、全然サンマの本場でも何でもないのに、お殿様が知ったかぶりするのがポイントなんですね。勉強になりました」
えーと、たしかたまたま目黒でサンマを食べたお殿様が、後日お城で脂抜き・骨抜きされて椀物にされてしまったまずいサンマを食べて、家臣に「サンマは目黒に限る」ってドヤってオチる話だっけ。たしかに、東京の土地勘がないとわかりにくいよね。
そう考えると、落語って難しいねえ。
「おねーちゃん、それどういう話?」
「あ、ボクが再現してみます」
以前プレゼントとしてもらった扇子を手に、目黒のさんまを演じるクロ師匠。なかなか上手い。
「お粗末さまでした」
アメリ、目黒はともかく台無しにされてしまったサンマの残念ぶりは伝わったらしく、くすくす笑ってました。
「で、さっきも言ったけど、当時の目黒って、海から行くのに時間かかるんだ」
「おおー」
アメリちゃん感心。さすが、知的好奇心ガール。
「落語も、たまに聞くと面白いですねえ」
白部さんもクスクス笑い、クロ師匠の腕に感服したようだ。
「ミケとノーラは面白くなかった?」
「うーん、目黒のことはさっきわかったけど、サンマの脂抜くと、そんなにまずいの?」
ミケちゃんは、そこが引っかかったようだ。
「まずいよ。すごく残念なことになる」
「へー」と、感心するミケちゃん。
「サンマとかサバは漁獲量も多いし、脂が強いから下魚……つまらない魚って思われていたんだけど、こういうのはむしろ脂が美味しいからね」
クロ先生の解説に、子供たちさらに感心。
「なんだか、サバが食べたくなってきました」
「ですねえ」
白部さんと微笑み合う。今晩はサバにしよう。こないだ、サバサンドをいただいたばかりだけど、せっかく旬だしね。
「さ、落語の話もいいけど、そろそろ勉強に戻りましょうか」
「「はーい」」
白部先生がポンと手を打つと、子供たちが休憩モードから勉強モードに移行します。
「では、私も仕事に戻りますね」
「お疲れ様です」
「おねーちゃんも、頑張ってー!」
声援を受けたので、手を振って応える。
さーて、子供たちも頑張ってるし、私も頑張るぞー!
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