神奈さんとアメリちゃん

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第六十一話 ゲーム作りを取材しよう! その一

公開日時: 2021年4月18日(日) 16:31
更新日時: 2021年5月20日(木) 19:00
文字数:2,295

「おはようございます。お邪魔しまーす」


 朝十時。早速、アメリと一緒にかくてるハウスを訪問。


 中に招き入れてくれた由香里さんとはすでに挨拶を交わしており、残りの四人が口々に挨拶を返してくれる。


「今日は、よろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。わたしたちは自分の部屋でそれぞれの作業をするわけですけど、どんな感じに見て回りますか?」


「そうですね……では、優輝さんからお願いします」


 少し逡巡しゅんじゅんした後、カン・・任せで優輝さんに決定!


「わかりました。では、行きましょう」


 優輝さんが由香里さんと案内役をバトンタッチする。


「アメリ。あんたはミケと特訓よ!」


「おお~!」


 というわけで、ここでアメリとは別行動。


 階段を上がってすぐ隣の部屋が優輝さんとミケちゃんの相部屋らしい。


 お邪魔しまーすと中に入ると、ノートPCが机の上に一つ。机の上には、可愛い猫の置物がいくつか置かれていて、さらに机の横に本棚。そこには、昨日サインをした私の著書とねこきっく。そして、様々な資料……あと、例のコレクションと思われるDVD群が収められていた。


 部屋の左右にはそれぞれベッドがあり、なんとなくこざっぱりしてるほうが優輝さんので、熊のぬいぐるみが置いてあるほうがミケちゃんのかな、などと考える。


「撮影、構いませんか?」


 どうぞ。と快諾いただいたので、まずは内装をスマホでパシャリ。


「では、始めます。ながら・・・で失礼しますね」


 着席して、PCを立ち上げる優輝さん。そこからテキストエディタを立ち上げる。


「あたしの場合、一度テキストエディタに書いてから開発ソフトにコピペするって方法を採ってます」


「開発ソフトというのは、わざわざ作ったんですか?」


「いえ。色々いいフリーソフトがあるんですよ。あたしたちが使ってるのは『ADVくらふたー』っていうソフトですね」


 なるほどなるほど。スマホのメモアプリにメモメモ。


 お仕事ぶりを拝見しようとするけど、優輝さんの筆が一向に進まない。難産というやつ?


「展開に悩まれている感じですか?」


「あ、いや。神奈さんに見られてると思うとキンチョーしちゃって……」


 振り返り、照れくさそうに頭を掻く彼女。


「お邪魔でしたら、次の方のところへ先に向かいますけど……」


「いえ! ぜひ! 不肖・角照優輝の仕事ぶりを見てやってください!」


 優輝さんが、食い気味に気合を入れる。


 そんなやり取りをしてると、PC用LIZEの着信音が鳴る。


「あ、ちょっと失礼します……。さつきが、キスシーンのラフ仕上げたみたいです」


 キスシーン!? わお。


 優輝さんが別途送られてきたファイルを展開すると、そこには女の子同士の儚くも美しいキスシーンが! フワ~オ!


「これ、女の子同士ですよね? なんていうか、いわゆる百合作品なんですね」


「ですです。主人公と漫画家の子のキスシーンなんですけど……」


 なんだかドキドキしていると、当の優輝さんはう~んと腕組みして考え込みモード。


 そしておもむろに立ち上がると、失礼しますと言って、部屋を出ていってしまった。


 このままここにいても所在ないので、後をついていくとそこはさつきさんの部屋。


「お、いつものやつっすか」


「うん」


 そんな会話を交わす二人。


 さつきさんの部屋は、なんというかフィギュア殿。アメコミヒーローから美少女まで、様々なフィギュアが立ち並んでいる。その中に、普通のデッサン人形もきちんとあるあたり、やはり絵描きさんなんだねーとか、変な感心をしてしまう。


 他に目立つものといえば本棚で、そこにはファッションの資料が並んでいる。あとは、デスクトップPC、液タブが机の上にある。部屋の左脇にはベッド。彼女は、そんな中で筆を走らせていたところだった。


 いつもの癖で観察をしていると、「ちょっと立って」と優輝さんに促されてさつきさんが立ち上がり、ムードたっぷりに二人で絡み合う。ファッ!?


「こうさ、この時点では光莉ひかりのほうが攻めなんで、ひなはちょっと驚いてるっていうか、戸惑い気味な絵がほしいんだよね」


「あーなるほど、なるほど。直してみるっす」


 わあ。なんか絵面が際どくて、ドキドキしちゃうんですけど! 顔が近い!


「あ、すみません。よくこんな感じに、絵の実演するんですよ。一緒に住むようになってからできるようになった、最大のメリットですね」


 ほほー。


「じゃあ、さつき。あとよろしく」


 また、失礼しますと一礼して、部屋を出ていく優輝さん。私はどうしようかな。よし、一旦優輝さんのほうに戻ろう。


 彼女の部屋に戻ると、キーを叩いてバリバリ文章を書いているところだった。


「拝見してもいいですか?」


「どうぞどうぞ」


 着座したまま、ちょっと脇に避ける優輝さん。


 文章上手いなー。つっかえずにスラスラ読める。それでいて、女の子同士の心の機微がしっかり掴めるというか。


 うーん、でも。


「なんか、小説とは違いますね?」


「ゲームは、セリフ欄の上に発言者の名前が出ますからね。ちょっと、そのへんが小説とは異なります。あとは、絵が使えますからどうしても言葉だけでは表現しづらい部分は、さつきや由香里の力に頼る感じですね。あたしは小説もちょっと書いたことありますけど、やっぱり色々違ってきます」


 へー、などと感心していると、またもや優輝さんのLIZE着信音が鳴る。


「あ、もうお昼か。ご一緒に召し上がっていってくださいよ」


「あら、そんな。悪いです」


「いえいえ。大勢で食べたほうが楽しいじゃないですか。由香里にも七人分作るように、もう言っちゃってますし」


 うーん、そう言われちゃ断れないな。


「では、お相伴させていただきますね」


 かくして、かくてるハウスでお昼をいただくことになりました。

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