「おお~、これがおはじき……!」
片されたリビングテーブルの上に散りばめられたきれいなおはじきを見て、アメリが興奮気味に声を上げる。
「じゃあ、ルールを説明するね。まず、こうやって取りたいおはじきと弾くおはじきの間に指で線を引くんだ。おはじきを指で弾いて、目的のに当てられたら取れる。でも、ほかのに指が触っちゃったり、弾き終わったら次の人に交代だよ」
「へー」
私もおはじき遊びなんて生まれて初めてなもんで、なんだか興味深い。
「神奈お姉さんも初めてですか?」
「うん。クロちゃん、こういうのどこで覚えてくるの?」
「戸成さんから教わりました」
「へえ。戸成さんって女性なのに将棋指すのね? 珍しい」
いやまあ、女流棋士がいることぐらいは知ってるけども。
「あ、違います。将棋を指してくれるのはおじいさんのほうで、おはじきを教えてくれたのはおばあさんのほうなんです」
なるほど。
「とりあえず、じゃんけんで順番決めましょう」
というわけで、じゃんけん。……一番手クロちゃん。以下、アメリ、私、まりあさんの順。
「ちょうどいいかな。ボクの弾き方、よく見ててねアメリ」
指でラインを引き、片目をつぶって中指でビシッと弾く。おお、命中!
「これで、一個手に入れたことになるよ。次、アメリどうぞ」
「おお……」
アメリ選手、ラインを引いた後、狙いを定め……シュート! 命中~!
「やった!」
「おめでとう。次、神奈お姉さんです」
パチパチ拍手するクロちゃん。むう、緊張しますねえ。ラインを引いて……てい! 命中!
「おお~。意外と簡単ね?」
「最初のうちは、数も多くて距離も近いですから……。少なくなると、難しくなりますよ。お姉ちゃんの番」
「はいはーい……よっ!」
まりあさんも難なくヒット。こうして、序盤は皆順調に進んでいったわけだけど……。
「くぅ~! 外したー!」
クロちゃんの言う通り、終盤になると難易度が跳ね上がる。現在私が最下位で、若干切ない。
「あー、私もダメです」
まりあさんも失敗。
「……よし、当たった」
クロちゃん、やはりこういうのが得意なのか、高い命中率でおはじきをゲットしていく。
「……うにゅう~。外れたー」
アメリも討ち死に。
こんな感じでラストワン。クロちゃん圧勝で大勢は決してるけど、最後まで手を抜かないのが大事よね。
「最後の一つになったら、『この道まっすぐ通れ』って言って、人差し指と中指で円を描くんです。で、おはじきをその範囲に通せたら最後の一つ獲得です」
「へー」
まあ、直接当てろって言われたら、いつ終わるかわかったものじゃないものね。
「この道まっすぐ通れ……!」
手番のアメリが、小さな手でぐるりと円を描く。
そして、シュート!
「やったー!」
見事、範囲内通過!
三人で、おめでとうと拍手する。
「おお~……面白かった!」
獲得数ではクロちゃんに負けたけど、ラストシュートに成功して大満足の模様。
ちなみに最下位は……私。とほほ。
「お疲れ様でした。こんな感じの遊びです」
かるたが控えているので、手早く片付け始めるクロちゃん。私たちも、順に巾着袋に入れていく。
「やー、初めてやってみたけど意外とエキサイトするねー」
「気に入ってもらえたなら、嬉しいです」
袋詰めが終わり、今度はかるたを取り出すクロちゃん。
「ええと、ルールがわからない人は?」
彼女がシャッフルしながら問うと、アメリが挙手。さすがに私も、いろはがるたは子供の頃やったことがある。
「じゃあ、説明するね」
絵札を並べていくクロちゃん。
「札の左上に『い』とか『ろ』って書いてあるね。あと絵。詠み役がたとえば『犬も歩けば棒に当たる』って詠んだら、『い』の札……これに『はい!』って言ってタッチするんだ。一番早くタッチできた人が取れるよ。間違った札をタッチしちゃったらお手付きで、一回休み。で、最後に一番多く取った人が勝ち」
「わかった!」
「じゃあ、詠み役はボクがやりますね。……『油断大敵』」
皆でしばらく視線をさまよわせていると、「はい!」とアメリが目ざとくタッチ。さすが、子供は反射神経が鋭いなあ。
こんな感じでゲームは進んでいき、またもやワタクシ最下位。というか、未だゼロ。とほほ。
なんだか悔しいなあ。
「……『泣きっ面にハチ』」
ハチ! ハチ! あった! でも、よりによって一番遠く!!
「ハイィッ!!」
体をグインと伸ばし、勢いよくタッチ! やった! 取れましたよ!!
……はっと我に返ると、三人がぽかんとした表情で私を見ているゥ! ああああ~! やってしまったァ~ッ!!
頬が熱くなり、すごすごと着席。
その後は萎縮してしまい、一枚も取れませんでしたとさ。とほほのほ。
で、結果はアメリが大差で優勝。三人で「おめでとう」の言葉と拍手を送ると、「えへへ」と照れる。可愛い。
そんなわけで、時間も良い頃合いになったので懇談会はお開きに。
「今日は、とても楽しかったです。また遊びにいらしてくださいね」
門で二人に見送られる。
「はい。私も楽しかったです。アメリもね?」
アメリに視線を向けると、「うん!」と元気良く言い、こくこくと頷く。
「あ、ただ……先ほどの痴態は他言無用に願えますと……」
先ほどの超プレイを思い出し、再び頬がかあっと熱くなる。
「はい、ご安心を。クロちゃんもいいわね」
「うん」
「アリガトウゴザイマス……。アメリも喋らないでね」
「わかった!」
ともかくも別れを告げ、楽しかった、そして少し恥ずかしかった時間も終了。せっかくなので、この間まりあさんの家に伺ったときに立ち寄ったスーパーで、買い物をしていくことにしたのでした。
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