神奈さんとアメリちゃん

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第五百十話 困ったちゃんなノーラ

公開日時: 2022年2月28日(月) 21:01
文字数:2,823

 今日は、ノーラちゃんの練習試合の日。晴れ舞台ということで、みんなで試合を見に来ました。


 といっても、ミケちゃんとクロちゃんは習い事で欠席、まりあさんと優輝さんはそれぞれ娘を待つべくお留守番。


 あと、優輝さんも、すでにお仕事を始めてらっしゃるようで。私も、本来ならサボっている場合じゃないのだけれど、もう仕上げまであと一息に来ているので、明日には終わるだろうと、こうして見に来たわけです。


 というわけで、T川河川敷のサッカー場。近くに駐車場がないので、みんなバスで来ました。


 白部さんは、フェンスの中でカメラを手にノーラちゃんの撮影中。我々は友人とはいえ、たまたま来た観客で無許可なため、フェンスの外で観戦。ほかの子の、ご家族と思しき方もいますね。


 ウォームアップが終わったようで、色違いのゼッケンを十一人ずつ着けて、二チームに別れます。女子サッカーのクラブなので、全員女子。


「ノーラちゃん、頑張れー!!」


 一所懸命、声援を飛ばす私たち。意外なのは、白部さんが無言なこと。観察に、徹してらっしゃるんだなあ。


 監督と思しき人のホイッスルで試合開始!


 先攻は、ノーラちゃんの属するチーム。パスを出しながら攻め上がっていく。


 ところがノーラちゃん、素人目にもわかる、フリーの仲間へのパスをカット! え!? 何してるの!?


 敵選手が近くにいたので奪いになり、取られてしまいました。そのままディフェンスが間に合わず、失点一。ええー……?


 その後も、とにかく無理やりボールを奪いにいく強引なプレイが目立ち、監督のホイッスル。風に乗って、ノーラちゃんへの叱責がかすかに聞こえてきます。


 控えに下げられてしまった、我らがノーラ選手。別の子と入れ替えになってしまいました。


 結局、もうノーラちゃんの出番はないまま、試合終了。あらまあ……。


「ええと、この後はただのトレーニングになるので、皆さんは戻られて大丈夫ですよ」


 ちょっと困った感じの白部さんが、帰宅を勧めてくる。実際、ストレッチやドリブル、パスの練習が始まり、もう大きな動きはなさそう。


 ノーラちゃん、遠目にも元気なさそうだな。大丈夫かな。


「白部さんのおすすめ通り、お先に上がりましょうか」


 由香里さんがそう提案し、白部さんを除いて、帰宅と相成りました。



 ◆ ◆ ◆



 帰宅して、お仕事再開。アメリは、知識を求めてネットサーフィンをしている模様。


 夕方になったので炊飯の用意を終え、LIZEに入ると、ちょうど白部さんたちが帰宅されたようです。


「すみません、ノーラちゃんが皆さんにお話したいことがあると」


 そう書き込む彼女。


「アタシ、そんな間違ったことしたかな? だってさ、目立たないとレギュラー取れないんだよ!?」


 ううむ。落ち込んではいるけど、反省には至ってない感じか。


「あたしは、だいたいみんなから事情聞きましたけど、実際見てないのでノーコメントで」


 まず、優輝さんが口を挟まないことを宣言。


「わたしも何があったかわからないので、口は挟まないでおきますね」


 まりあさんも同様。ミケちゃんとクロちゃんの反応がないけど、口頭で口を挟まないよう、言われたのかな。


「ノラ子、ありゃダメだよ。サッカーはチームワークが大事だろ? 一人だけ目立とうとするのは、あかんよ」


 さっそく、スポーツウーマンの久美さんに、釘を刺されました。


「でも……」


 ノーラちゃん、反論しようとするも、言葉が出てこないようです。かすかに聞こえた監督さんの叱責でも、同じこと言われてたからね。


「私はサッカー素人だけど、素人目にもあれはダメだと思ったよ」


 久美さんに同意する。


「すみません、ノーラちゃん泣き出してしまいました。少し、失礼します」


 ありゃ……罪悪感。泣かすまでのつもりは、なかったんだけどなあ。


「私、言い過ぎましたか……」


「いや、神奈サンは悪くないよ。ウチが厳しすぎたのかも」


「お二人とも、正論だと思いますよ。ただ、ノーラちゃん、見るからに凹んでましたからね。互いに顔が見えないんで、気をつけたほうがいいかもです」


 と、由香里さんが同意しつつも、デリケートな状態に注意を促す。


「ごめんね」


「すまん、ノラ子」


 画面の向こうで泣いているであろうノーラちゃんに、謝罪する。


 それにしても、普段のキャラ・・・的に、泣くのは予想外だった。表向きで人を判断しちゃいけないなあと、反省。


「少し、落ち着いたみたいです。私も少し厳しく言ってしまい、そこにお二人の言葉が重なってしまったので、ちょっと予想外にダメージを受けてしまったようです」


 白部さんが復帰。むうう~。ますます罪悪感……。


「話せそうですか?」


「さらにもうちょっと落ち着かないと、難しいかもしれません。とりあえず、お二人から謝罪があったこと、伝えておきますね」


 まいったな。


「ノーラちゃんが戻るまで、仕事してます。失礼します」


 言い添えて、LIZEを起動したまま、ウィンドゥをフリアト執筆用ソフトに切り替える。


「ふう~……」


 思わず、深い溜息。


「おお? どしたの?」


 愛娘が、心配そうに声をかけてきます。


「んー? ちょっとね。ノーラちゃん、サッカーで一人で目立とうとしてたでしょ? 『あれはダメだったよ』って言ったら、泣かせちゃって」


「ノーラ大丈夫かな……。サッカーってそういうのじゃないんだ?」


「うん。チームワークが大事なんだ。だから、控えに下げられちゃったんだよ」


 「へー」と、サッカーに詳しくない愛娘も、合点がいったようです。


 ふと思う。アメリが同じことをしてしまったら、私はどう動いただろうか。


 アメリが、協調性に欠ける行動に出るというのがまず想像しにくいけど、そこはシミュレーションで……。


 監督さんに叱責されるアメリ。凹んで戻ってきて……。


 私だったら、ノーラちゃんに言ったようなことを、アメリには言えないかもしれない。というか、言わないかもしれないに訂正。


 凹んで帰ってきた我が子。それを、さっきの私みたいに誰かが正論で諭してきて、それを私が見たなら、擁護するんじゃないかな。


 そうか、ノーラちゃんに今足りないのは、「絶対味方になってくれる人」なんだ。白部さんにも叱られたらしいし。


 叱る人は必要だけれど、針のむしろの中、誰か一人だけでも徹底して味方してくれる人がいたら、随分心が救われるはず。


 本来ならそれは、白部さんの役割なんだけど……。ちょっと、個別で送ってみよう。再度、LIZEに切り替え。


「白部さん、ちょっといいでしょうか?」


 彼女に、自分の考えを伝えてみる。


おっしゃる通りかもしれません。たしかに、私が味方してあげなかったら、ノーラちゃん辛いですよね……」


 白部さん、気に病んでしまったようです。でも、きちんと伝えたほうが良かったよね。


「ですので、フォローしてあげてください」


「はい。親許は、安息の地でなければいけませんものね。ありがとうございました。これから、慰めますね」


 お辞儀猫スタンプ。


 これで、ノーラちゃんが立ち直ってくれるといいのだけど。あとは、白部さん次第かな。


 育児って、難しいね……。

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