うわあ……おっきなビルですこと!
九時台後半に、無事目的のプレスセンターに到着しました。
いやー、新宿ってやっぱ新宿ってだけあるわ。
などと意味不明な供述は置いておき、さっそく受付へ。
要件と名前を告げると、確認の後に首から下げる入場許可証が貸し出されました。
そして、目的の控室に到着。いやはや、どうにも緊張するなあ。今からこんなにドキドキしてて、本番大丈夫かしら?
「おはようございます」
中に入ると、見慣れた白部さんのほか、見慣れぬ方々からもご挨拶を返されました。
「こちら、猫耳人間研究学会・日本支部長の長野先生です。そしてこちらが……」
長野先生、テレビで話してた人だ! お年を召しているけど、なんともすごく威厳と柔和さの同居した印象を与える人物だ。
続いて順に、すごい肩書のお歴々を白部さんがご紹介してくださる。ひえー、私のこの場違い感!
「猫崎神奈と申します。こちらが、件のアメリです。この度は、私の意見を述べる場を与えていただき、誠にありがとうございます」
ガチガチになりながら、深々とお辞儀。皆様と、ご挨拶&握手を交わす。
「そう緊張なさらずに、肩の力を抜いてください」と長野先生は気さくに仰るけど、ちょっと私のような小市民には無理そうデス……。
アメリも挨拶と握手を交わすものの、やはり緊張している様子。私もアメリも、マスコミ陣を前にしたらガチガチどころじゃないぐらい固まっちゃうんじゃないかしら。
「なるほど、白部先生から耳にしていた通りのお嬢さんです。ご挨拶など、きちんと教えておられるのですね。実に良い子です」
長野先生から教育方針に太鼓判をいただき、なんだか嬉しくなってしまう。
「ありがとうございます。大したことはしていなくて、褒めて伸ばす、ダメなことはきちんとダメと教えているだけですので」
「いえいえ、それを正しい形で実践できているのが素晴らしいのですよ」
うはあ~。べた褒めに恐縮してしまう~。
「長野さん、お時間ですので会場へ」
スタッフと思しき方が、入室して声をかけてくる。
「では、お先に失礼」
一礼してスタッフさんと一緒に出て行く。
「会場の様子を見ましょうか」
白部さんがモニタをつけると、ややあって長野先生が登壇なされ、マスコミ陣に挨拶から始まり、猫耳人間の基礎知識を理路整然と説明していく。
いやー、物事を教え伝えるのがお上手だ。私がもし大学に進んでいたら、こんな教授に授業を習ってみたかった。
プログラムは粛々と進んでいき、白部さんの番になった。
「では、行ってきます」
胸に手を当て、深呼吸する彼女。白部さんみたいな発表慣れしてそうな方でも緊張するんだなと、なんだか不思議な気持ちになる。一方ノーラちゃんは、いつもと変わらずマイペース。
私たちに一礼して、スタッフさんと出て行ったので、一同モニタを見つめる。一部の先生方は、発表の出来について、小声で談義している。
白部さんとノーラちゃん登壇。やはりご挨拶とすでに発表されたデータ類の補足に始まり、ノーラちゃんやアメリたち猫耳人間との交流を通した体験を、当事者として語っていく。
ナマの猫耳人間であるノーラちゃんを見てざわめき、一斉にフラッシュが光る会場がすごく印象的だった。
その話し方はほかの先生方同様に理路整然としていて、やはり学問畑の方なんだなと改めて実感する。
お手本として可能な限り学ばせていただこうと、一言一言を注意深く拝聴。
白部さんの会見は終わり、次はいよいよ私の番、大トリだ。これはこれで、すごく緊張するポジション。
ややあって扉が開き、白部さんがスタッフさんとともに戻ってこられた。
「お疲れ様でした。すごく参考になりました」
「ありがとうございます。でも、あれは私なりのやり方ですから、猫崎さんの自然体でなさるほうがいいですよ」
そう仰り、机の上にダース単位で置かれているミネラルウォーターのボトルを手に取り、丸椅子に座って飲む。
「猫崎さん、お願いします」
スタッフさんに促され、アメリとともに扉に向かう。
「それでは、行ってきます」
胸に手を当て、三度深呼吸。皆様に深く一礼し、会場へと向かうのでした。
◆ ◆ ◆
現場に案内され、アメリともども袖口から登壇。さすがに漫画みたいに、右手と右足が同時に前に出るような変な歩き方にはならないけれど、緊張でカチコチ、喉はカラカラ、心臓はドキドキ。
壇上で深く一礼し場を見渡すと、ざわめきとフラッシュの嵐が起こり、多くの人々の前でこれから話すというプレッシャーに一段と押しつぶされそうになる。
でも、やらなきゃ。そのためにここまできたんだ。白部さんや、いろんな方がご尽力してくださったんだ。アメリたちの未来がかかっているんだ。心を強く持て! 猫崎神奈!
「本日はこのような場を設けていただき、誠に感謝いたします。匿名ということで私の名は秘し、こちらの子も『娘』と呼ばせていただきます。私から申し上げたいのは、猫耳人間と人類は共存できるという、今までの先生方が仰っていたことと同じです。それを当事者として、一児の母として、また姉としての体験を通して、皆様にお伝えしたいと思います」
ついに、挑戦が始まった――。
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