神奈さんとアメリちゃん

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第四百二十三話 久々の宇多野家で ―前編―

公開日時: 2021年12月1日(水) 21:01
文字数:2,606

「おはようございます。クロちゃんから聞きました! 脱稿おめでとうございます!」


 朝、ニュースとLIZEをチェックしていると、スマホにまりあさんから着信が。


「おはようございます! ありがとうございます! とりあえず一山越えたって感じですねー」


 予定より早く次号の原稿を上げたので、少しだけ精神的・時間的に余裕があって、ちょっと上機嫌。


「あ、そうだまりあさん。せっかくですから、遊びに行ってもよろしいですか?」


「え? あ、はい。うちは構いませんけど。いつ天気崩れるか、わかりませんよ?」


 今日は曇天どんてん。今日一日曇りの予報だけど、降水確率・三十%は微妙な数字だ。


「一応傘を持っていって、降ったらバスなりで帰りますよ」


「そうですか? でしたら、『さわきスーパー』でお買い物ついでに、お菓子買っておきますね」


「ありがとうございます。お昼すぎに伺う感じでよろしいでしょうか?」


「はい。では、お待ちしてます」


 通話終了。


 さて、せっかくのオフで曇りだし、草刈りでもしようかな。


「アメリちゃーん。庭の草刈るけど一緒にやるー?」


「おおー!」 お手伝いするー!」


 読んでいた本を棚にしまい、外着に着替え……ってこらこら。はーい、カーテン閉めましょうねー。



 ◆ ◆ ◆



 いやー、日照は良くなかったけど、結構伸びたもんだなあ。


 アメリちゃんが芝刈り機を使ってみたいというので、私は刈られた草の収集担当に。


「おお~! ほんとに簡単に草が刈れちゃうんだね~」


 庭をローラーしながら、歩き回るアメリちゃん。その後を、ほうきとちりとりを手に、追いかけるワタクシ。ちりとりが一杯になったら、ゴミ袋に草をポイ。ふう、体力使うなあ。今日はダンスとかボクササイズしなくていいかな。


 お隣の皆さんは、五人がかりでこれやるってんだから大変だ。広い家も良し悪しだね。


 現在、庭でこの芝生ぐらいしか育ててない私だけど、もともと緑が欲しくてこの物件にしたんだよね。あと、ペット可。


 なんの変哲もない芝生でも、やっぱり緑があると、心に潤いが出る。今は、「みどりんポトス」とトマトとバジルもいるしね。


 そんなこんなで、草刈りを無事終えたのでした。うう、持病の腰痛が……。



 ◆ ◆ ◆



 だいぶ汗をかいたので、親子でお風呂にざぶん。ふぐた夫妻魚のおもちゃによる愛の劇場が、今日も展開されました。ほえほえさんの逆ハーと違って、なんか安心するわね。


 お昼はツナマヨ、おかか、梅干しの自家製おにぎりセット。もちろん、三角形で海苔を巻いた猫崎流。ただ、普通の大きさ三個はあきらかに多すぎるので、小ぶりなのを三つです。


 食後は一休みした後、宇多野家へGO! 久しぶりに、てくてくと歩いて行きます。自転車を使わないのは、最初にお邪魔したとき以来かなー?


 徒歩十五分の道のりは楽ではないけれど、アメリちゃんと久々のお散歩を満喫しながらだと、悪くないもんです。


 そして、とーちゃーく!


 インタホンを鳴らすとまりあさんが出られたので、私たちであることを告げると、お出迎えされました。


「いらっしゃいませー。この時刻に到着ということは……行きは徒歩ですか? お疲れになったでしょう」


「ええ、まあ。でも、久々の散歩も気分のいいものでしたよ」


「とりあえず、中へどうぞ。お茶とお菓子を用意しますから、リビングでお待ち下さい」


 そんなわけで、「お邪魔します」と中へ。あ、靴箱の上に姫路城のプラモが。完成させたんだー。


 すると、向こうからクロちゃんがとてとてとやって来ました。


「いらっしゃい。アメリがこっち来るの、久しぶりだね」


「そーだね! 相変わらず、クロのおうちきれいだねー」


 それじゃ、うちが汚いみたいじゃない、アメリちゃん。掃除は毎日、一緒にやってるでしょ?


「神奈お姉さんも、こんにちは」


 ぺこりとお辞儀してくる。


「こんにちはー。姫路城、完成させたのね」


「はい。ちょこちょこ作ってました。ボク、最近暇さえあればネット将棋指してるので、なかなかプラモに回す時間がなくて。あ、そうだ。今日雨止んでるから、やっと『松風盆栽』の世話できたんですよ」


「そうなんだー。後で見ていい?」


「はい。また少し、立派になりましたよ」


 不意に、出会って間もない頃の彼女を思い出す。アメリが話しかけると、天照大神のようにまりあさんの陰に隠れて、距離を開けていたあのクロちゃんが、もう付き合いが結構長いとはいえ、全く物怖じせず、私たちと会話している。


 日々の積み重ねで見ると気づきにくいけど、この子も当時から随分成長したものだなあ。


 まあ、スキンシップは未だに得意ではないみたいだけど。でも、その程度は個性の範疇よね。


「お茶、入りましたよ」


「あ、ありがとうございます。すいません、通路で立ち話とか邪魔ですよね。リビングに行かせていただきますね」


 まりあさんがお盆を手に声をかけてきたので、取り急ぎ移動。


「相変わらず、いいお趣味ですよねー」


 白基調の清潔感漂うインテリアを眺めながら、称賛する。実際、白い家具が多いのに汚れが目立たないのだから、きれいに使っているし、掃除もまめにしているのだろう。


 小さい子であるクロちゃんがいても、このきれいさ。きっと転生直後から、物の扱いが丁寧な子だったんだな。


 白部さんは逆に、ノーラちゃんが雑で困るってぼやいてたっけ。でも、それが可愛いともおっしゃってたあたり、やはり愛が深い。


 アメリも、今はもちろん、転生直後から割と丁寧だったかな? しまだくんニシキアナゴは、しょっちゅうがぶがぶしてたけど。


 ミケちゃんはどうなんだろうな? 今度、優輝さんに訊いてみよっと。


「ありがとうございます。こう、クロちゃんが今の姿と趣味になってからは、和室だったらよかったのになあ、なんて思ってしまいますけど」


 微笑みながら、お茶菓子を配膳するまりあさん。


「おおー! 芋羊羹!」


「クロちゃんから、アメリちゃんの好物だって聞いてね。用意したの」


「ありがとー!」


 さすが、宇多野姉妹。気配りがマメだなあ。特に、クロちゃんのはちゃんと栗羊羹だったりするあたり、ほんとマメ。


 まりあさんの着席を待ってから、「いただきます」を言って食む。うふふ、美味しいわあ。


「芋羊羹、美味しい!」


 一拍遅れていただきますしたアメリも、美味しそうに芋羊羹をぱくつく。


「まだあるから、食べたかったら言ってね。切ってくるから」


「ありがとー!」


 きちんとお礼が言える、我が子の頭を優しく撫でると、相変わらず「うにゅう」と気の抜けた声を出す。


 こんな感じで、久方ぶりの宇多野家訪問は幕を開けたのでした。

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