「おねーちゃーん! ミケと遊びたい!」
朝食のパンをもっそもっそと食んでると、対面のアメリが元気に提案してきました。
「んー……いいよー。呼んでもいいし、遊びに行ってもいいし……ふわあ」
相変わらずの朝テンションでOKを出す。
「じゃあ、食べ終わったら行ってくる!」
慌てて詰め込み始めるアメリ。喉につかえてしまったらしく、胸をドンドン叩きながら牛乳で流し込む。
「慌てて食べないのー……ふわ」
ほんとに、朝から元気って羨ましいねえ。私、昨日寝るのちょっと遅かったしな。
アメリはお皿を流しに置くと、とてとてと洗面所や寝室側へと走り回る。
「行ってきます!」
外着に着替えて元気に挙手。
「はーい、行ってらっしゃーい」
大あくびをかましながら、手を振って見送る。
早朝からご迷惑だったかも、なんて考えられたのはもうしばらく経ってからの話で、このときはまるで頭が回りませんでしたとも。ほんと私は朝がダメダメなのです……。
◆ ◆ ◆
うーん、アメリがいない寝室はやはり寂しい。でも、アメリだって広いかくてるハウスで遊ぶほうが、のびのびできるだろうしなあ。あ、そうだ! 優輝さんに事後連絡!
「はい。おはようございます、神奈さん」
「おはようございます。すみません、早朝からアメリがお邪魔して」
「ああ、いえいえ。うち、全体的に朝が早いですから大丈夫ですよ。久美さんとかいつも五時起きでランニングしてますし」
五時! 思わず舌を巻いてしまう。その朝の強さ、十%ぐらいでいいから分けてもらいたいデス……。
「あ、よろしければ神奈さんもうちにいらしませんか? お昼に、さつきが面白い料理作るって言ってますし」
面白い料理……。以前、突発的BBQパーティーの原因になった、くさやファイブが頭をよぎる。
「ああ、くさやじゃないので安心してください。あれから心を入れ替えたようなので。さつきも、料理の腕いいですよ」
うおう、心を読まれてしまった……! でも、さつきさんのまともな料理ってちょっと興味深い。いや、くさやがまともじゃないってわけではないけれど、程度の問題がね。
「そうですね。では、このあと掃除を済ませたらお伺いしましょうか。よろしくお願いします」
「はい、楽しみにお待ちしています!」
というわけで通話終了。さーて、お掃除お掃除!
◆ ◆ ◆
「こんにちはー」
十時頃、お隣にお邪魔。久美さんに通されると、優輝さんがいらっしゃらない模様。皆さんからご挨拶を返される。アメリとミケちゃんは、ダンスゲームに熱中なう。
「優輝さんはどちらに?」
「自室で最終調整。あといじるとこあるとしたら、あいつの担当部分だけだからね」
久美さんがマスペのボトルを傾けながら説明してくれる。私も、お出しされたマスペをいただく。
「あ、そうそう。まだ皆さんにはご感想伝えてなかったですね!」
かくてるのお三方にゲームの感想をべた褒めで伝えると、照れくさそうな、恐縮したような反応をされてしまった。
「いやー、べた褒めされるとこそばゆいっすね」
「でも、嬉しいことじゃない」
後頭部を撫でて恐縮するさつきさんに、由香里さんが笑顔を向ける。
「そうだ、久美さん。ゲームとちょっと関係ないんですけど……」
以前、いつものスーパーで抱いた「聞き飽きない中毒性の高いBGM」について、質問をぶつけてみる。
「ああ、あるよ。そういうテク。目指す方向で音の作り方も随分変わってきてね。良かったら、ちょっとついてきてよ」
久美さんが、自室へぺたぺた向かうので、私も後をついていく。
「たとえば、ゲームのラスボスとかさ、めっちゃ印象づけて緊迫感持たせたい場合は、こんな感じに組むんだけど」
久美さんがキーを叩くと、スピーカーから荘厳な音楽が流れてくる。
「逆に雑魚戦とか何度も聴くようなのは、こんな感じに作るんだわ」
緊迫感はやや抑えめなものの、耳に残るメロディが流れてくる。
「たとえば、ひなまつりだと、通学路のBGMはこうだけど」
落ち着いていて、これまた耳に残るメロディを流す久美さん。あー、これゲームで何度も聴いたなー。
「光莉が断筆を宣言するシーンでは、こうだったじゃん?」
心が締め付けられるような、重苦しいBGMが流れる。そうそう、これ聴いてて怖かった!
「神奈さんだったら、どっちが聴いてて飽きない?」
「それは……前者ですね」
「そゆこと。単に曲調の明るい・暗いもあるけど、やっぱよく耳にする曲って、聴いてて耳に残って、なおかつ何度聴いても飽きないように作るんだわ」
機器の電源を落とす久美さん。はー……勉強になるなあ。
「ま、こんな感じ。じゃ、戻ろーか」
というわけで、再度リビングへ。アメリとミケちゃんは選手交代して、さつきさんと由香里さんがゲームで踊っていた。
「二人はもうゲーム終わり?」
「休憩中~。アメリもなかなかやるわ」
アルピス・ソーダを飲みながら、ふうと一息つくミケちゃん。
「おお~! 疲れるけど、ダンスやっぱり面白い!」
アメリもコーラを飲みながら疲れ気味に答える。
「お二人は、どっちが勝ってるの?」
「由香里がやや優勢ね」
うーむ、さすがそつなしガール・由香里さん。
「神奈サン、二人の勝負がついたらウチとやろーぜ」
「ええ!? 私、コンピューターゲームは一昨日初体験したばかりですし……」
「矢印通りにステップ踏むだけだから、難しくはないよ。細かい設定はウチが全部やるからさ」
うーむ。でも、これも経験か。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
「よっし、そーこなくっちゃな!」
ほどなくして、さつきさんたちは決着。由香里さんが勝ったみたい。
「おつー。じゃ、ウチらと交代な」
「お二人とも、頑張ってくださいね」
由香里さんの応援を受け、マットの上に乗る。うわーキンチョーするう!
「曲は、一番簡単なやつだな……。よっし、始まんよー」
おお、カウントダウンが始まった!
曲に乗って流れてくる矢印に合わせ、ステップを踏んでいく。いや、慌ただしいなこれ!
夢中でステップを踏んでいるけど、画面は久美さん側が豪華な感じになっていく。多分というか、間違いなく劣勢だ。
そして、フィニッシュ! ふあ~……疲れたあ~。結果は、やはり久美さんの勝利。
「お疲れさん~。初めてにしちゃ、上手いよ」
久美さんたちが拍手してくる。うにゅう、照れくさい。でも、なんか嬉しいな。
「ありがとうございます。コンピューターゲームも面白いもんですねえ」
「だろ?」
久美さんがにかっといい笑顔を向けてくる。ああ、この人たちは本当にゲームが好きなんだなあ。
ゲームの面白いと思ったところは、やり取りが双方向なところ。漫画やテレビ番組は見るだけだけど、ゲームは自分の行動に対して結果が変化する。そこが興味深く、面白い。
私、ゲームにハマっちゃいそうだわ……。
「自分は、そろそろごはん作ってくるっす。神奈さんたちは、楽しみに待っててほしいっす~」
笑顔でそう言い残して、キッチンに消えていくさつきさん。果たして、何が出てくるのでしょうか。楽しみなような、不安なような。
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