神奈さんとアメリちゃん

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第二百話 音楽とダンスと

公開日時: 2021年4月28日(水) 18:01
更新日時: 2023年1月7日(土) 22:25
文字数:2,817

「おねーちゃーん! ミケと遊びたい!」


 朝食のパンをもっそもっそと食んでると、対面のアメリが元気に提案してきました。


「んー……いいよー。呼んでもいいし、遊びに行ってもいいし……ふわあ」


 相変わらずの朝テンションでOKを出す。


「じゃあ、食べ終わったら行ってくる!」


 慌てて詰め込み始めるアメリ。喉につかえてしまったらしく、胸をドンドン叩きながら牛乳で流し込む。


「慌てて食べないのー……ふわ」


 ほんとに、朝から元気って羨ましいねえ。私、昨日寝るのちょっと遅かったしな。


 アメリはお皿を流しに置くと、とてとてと洗面所や寝室側へと走り回る。


「行ってきます!」


 外着に着替えて元気に挙手。


「はーい、行ってらっしゃーい」


 大あくびをかましながら、手を振って見送る。


 早朝からご迷惑だったかも、なんて考えられたのはもうしばらく経ってからの話で、このときはまるで頭が回りませんでしたとも。ほんと私は朝がダメダメなのです……。



 ◆ ◆ ◆



 うーん、アメリがいない寝室はやはり寂しい。でも、アメリだって広いかくてるハウスで遊ぶほうが、のびのびできるだろうしなあ。あ、そうだ! 優輝さんに事後連絡!


「はい。おはようございます、神奈さん」


「おはようございます。すみません、早朝からアメリがお邪魔して」


「ああ、いえいえ。うち、全体的に朝が早いですから大丈夫ですよ。久美さんとかいつも五時起きでランニングしてますし」


 五時! 思わず舌を巻いてしまう。その朝の強さ、十%ぐらいでいいから分けてもらいたいデス……。


「あ、よろしければ神奈さんもうちにいらしませんか? お昼に、さつきが面白い料理作るって言ってますし」


 面白い料理……。以前、突発的BBQパーティーの原因になった、くさやファイブが頭をよぎる。


「ああ、くさやじゃないので安心してください。あれから心を入れ替えたようなので。さつきも、料理の腕いいですよ」


 うおう、心を読まれてしまった……! でも、さつきさんのまともな料理ってちょっと興味深い。いや、くさやがまともじゃないってわけではないけれど、程度の問題がね。


「そうですね。では、このあと掃除を済ませたらお伺いしましょうか。よろしくお願いします」


「はい、楽しみにお待ちしています!」


 というわけで通話終了。さーて、お掃除お掃除!



 ◆ ◆ ◆



「こんにちはー」


 十時頃、お隣にお邪魔。久美さんに通されると、優輝さんがいらっしゃらない模様。皆さんからご挨拶を返される。アメリとミケちゃんは、ダンスゲームに熱中なう。


「優輝さんはどちらに?」


「自室で最終調整。あといじるとこあるとしたら、あいつの担当部分だけだからね」


 久美さんがマスペのボトルを傾けながら説明してくれる。私も、お出しされたマスペをいただく。


「あ、そうそう。まだ皆さんにはご感想伝えてなかったですね!」


 かくてるのお三方にゲームの感想をべた褒めで伝えると、照れくさそうな、恐縮したような反応をされてしまった。


「いやー、べた褒めされるとこそばゆいっすね」


「でも、嬉しいことじゃない」


 後頭部を撫でて恐縮するさつきさんに、由香里さんが笑顔を向ける。


「そうだ、久美さん。ゲームとちょっと関係ないんですけど……」


 以前、いつものスーパーで抱いた「聞き飽きない中毒性の高いBGM」について、質問をぶつけてみる。


「ああ、あるよ。そういうテク。目指す方向で音の作り方も随分変わってきてね。良かったら、ちょっとついてきてよ」


 久美さんが、自室へぺたぺた向かうので、私も後をついていく。


「たとえば、ゲームのラスボスとかさ、めっちゃ印象づけて緊迫感持たせたい場合は、こんな感じに組むんだけど」


 久美さんがキー鍵盤を叩くと、スピーカーから荘厳な音楽が流れてくる。


「逆に雑魚戦とか何度も聴くようなのは、こんな感じに作るんだわ」


 緊迫感はやや抑えめなものの、耳に残るメロディが流れてくる。


「たとえば、ひなまつりだと、通学路のBGMはこうだけど」


 落ち着いていて、これまた耳に残るメロディを流す久美さん。あー、これゲームで何度も聴いたなー。


光莉ひかりが断筆を宣言するシーンでは、こうだったじゃん?」


 心が締め付けられるような、重苦しいBGMが流れる。そうそう、これ聴いてて怖かった!


「神奈さんだったら、どっちが聴いてて飽きない?」


「それは……前者ですね」


「そゆこと。単に曲調の明るい・暗いもあるけど、やっぱよく耳にする曲って、聴いてて耳に残って、なおかつ何度聴いても飽きないように作るんだわ」


 機器の電源を落とす久美さん。はー……勉強になるなあ。


「ま、こんな感じ。じゃ、戻ろーか」


 というわけで、再度リビングへ。アメリとミケちゃんは選手交代して、さつきさんと由香里さんがゲームで踊っていた。


「二人はもうゲーム終わり?」


「休憩中~。アメリもなかなかやるわ」


 アルピス・ソーダを飲みながら、ふうと一息つくミケちゃん。


「おお~! 疲れるけど、ダンスやっぱり面白い!」


 アメリもコーラを飲みながら疲れ気味に答える。


「お二人は、どっちが勝ってるの?」


「由香里がやや優勢ね」


 うーむ、さすがそつなしガール・由香里さん。


「神奈サン、二人の勝負がついたらウチとやろーぜ」


「ええ!? 私、コンピューターゲームは一昨日初体験したばかりですし……」


「矢印通りにステップ踏むだけだから、難しくはないよ。細かい設定はウチが全部やるからさ」


 うーむ。でも、これも経験か。


「じゃあ、ちょっとだけ……」


「よっし、そーこなくっちゃな!」


 ほどなくして、さつきさんたちは決着。由香里さんが勝ったみたい。


「おつー。じゃ、ウチらと交代な」


「お二人とも、頑張ってくださいね」


 由香里さんの応援を受け、マットの上に乗る。うわーキンチョーするう!


「曲は、一番簡単なやつだな……。よっし、始まんよー」


 おお、カウントダウンが始まった!


 曲に乗って流れてくる矢印に合わせ、ステップを踏んでいく。いや、慌ただしいなこれ!


 夢中でステップを踏んでいるけど、画面は久美さん側が豪華な感じになっていく。多分というか、間違いなく劣勢だ。


 そして、フィニッシュ! ふあ~……疲れたあ~。結果は、やはり久美さんの勝利。


「お疲れさん~。初めてにしちゃ、上手いよ」


 久美さんたちが拍手してくる。うにゅう、照れくさい。でも、なんか嬉しいな。


「ありがとうございます。コンピューターゲームも面白いもんですねえ」


「だろ?」


 久美さんがにかっといい笑顔を向けてくる。ああ、この人たちは本当にゲームが好きなんだなあ。


 ゲームの面白いと思ったところは、やり取りが双方向なところ。漫画やテレビ番組は見るだけだけど、ゲームは自分の行動に対して結果が変化する。そこが興味深く、面白い。


 私、ゲームにハマっちゃいそうだわ……。


「自分は、そろそろごはん作ってくるっす。神奈さんたちは、楽しみに待っててほしいっす~」


 笑顔でそう言い残して、キッチンに消えていくさつきさん。果たして、何が出てくるのでしょうか。楽しみなような、不安なような。

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