「さあさあ、アメリちゃん。日本語検定のお時間です。これは何かなー?」
「んーと……『ぬ』!」
「惜しい! 『ね』だよー。じゃあ、これはー?」
寝室で、「うどんのめがみさま」を教材に文字のお勉強。
ひらがなはまだずいぶん誤答が多いけど、カタカナは結構正解率が高くなった。ただ、「シ」と「ツ」とか「ソ」と「ン」とかはまだ割とよく間違える。
あとは、「どこそこへ」を「どこそこえ」とか「なになには」を「なになにわ」と読むのが難しいみたい。
そんな感じでお勉強に時間を費やしていると、スマホのアラームが一時間経過を知らせてくれました。
「さー! うどん打ち後半戦、いってみよー!」
再度台所へ向かい、テーブルにスマホをセット。動画に再アクセス~。
えーと?
まずは、生地を突いてみて、弾力をチェック。三分の一ほど戻る感じが良いらしいけど……おけ!
で? 端のほうを内側の折り返す感じにもみ直す、と。これを二回ぐらい繰り返せばいいのね?
それで今度は……? ありゃ、またビニールに包んで二十分寝かすのか。
「アメリー。もっかい休憩の時間です。気分転換に今度は遊ぶ?」
「んー……早く本読めるようになりたいから、もっとお勉強したい!」
「そっかそっか。頑張り屋さんで偉いねえ、アメリは」
よしよしと頭を撫でると、「えへへ」と微笑み返してくる。ああ……ほんとアメリの笑顔見てると、とろけそうになるわあ。
◆ ◆ ◆
そして、お勉強を挟んで二十分後。ついに「うどん打ちといえばこれ!」という局面に突入です!
「じゃ~ん! 麺棒~!」
いやー。クッキー作り以来ぶりの登場ですねえ、キミ。もともとはうどん打とうと思って買ったはいいけど、結局打つのがめんどくさくなって、戸棚の中でこないだまで眠りについてただけなんだけどね。良かったねえ、麺棒くん。やっと本来の仕事ですよ!
さてさて。スマホを設置して、動画を再確認。
テーブルの上にビニールを敷き、打ち粉を振ります。……へえ、小麦粉じゃなくて片栗粉がいいんだ。そういえば、餃子のときの残りがあったっけね。
で、ビニールでくるんだ生地を取り出して、棒で押して伸ばす。
ふと、対面でものすごく興味深そうに眺めているアメリの視線に気付く。
「やってみる?」
提案してみると、こくこくと激しく頷く彼女。それでは、選手交代で~す。
「いーい? この動画の通りにやってみてね?」
幸い、動画は声と映像メインで進んでいくもので、字幕が読めなくてもなんとかなる作り。
アメリが生地を棒でぐっぐっと押すたびに、生地が広がっていく。三十センチほどの大きさになったら、九十度回転させてもう一度。これを三回ほど繰り返す。
ふう~、と深く息を吐くアメリ。
「疲れた?」
「だいじょぶ!」
心強いお言葉です、お嬢様。でも、無理はしないでね。
私が生地に打ち粉を多めに振ると、動画を参考に棒を転がして伸ばしていく彼女。いやー、麺打ちでおなじみの工程に行き着くまで、こんなに手間暇かかってるなんてねえ。
伸ばし工程は、最後に巻き付いた生地を縦向きに転がして外してワンラウンド終了。
これを繰り返すこと三回。生地が三センチぐらいの厚みになったら伸ばし工程は全終了!
「あー。あとは切る工程だね。これは私じゃないと危ないから。選手交代~。アメリ先生、お疲れ様でした」
「おお~……がんばった!」
さすがにちょっと疲れ気味みたいね。ゆっくり休んでてちょーだい。
ええと。打ち粉を生地に、かなり景気よく振ります、と。
続いて折りたたんで、打ち粉をまぶしたまな板に置いて……。三ミリ幅ぐらいに切っていく。
最後に断面に打ち粉をまぶしつつ、余分な打ち粉を落とし、束に分けて……じゃーん! 生うどん完成でーす!
はー。ここまで来るのに長かったこと! うどん職人さんって大変なんだなあ。うどんの女神様もさぞお疲れだったことでしょう。
寸胴鍋でお湯を沸かし、沸騰したらうどん投入~! 再沸騰したら火を弱め、菜箸で軽く混ぜつつ十分茹でる、と。ふむふむ。キッチンタイマーセーット!
そして十分経過~。ざるに空けて、流水で洗って締める!
で、今回は温かいうどんにしようと思うので、てんぷらをレンチンしつつポットのお湯でもう一度うどんを温め、つゆを注いで素うどん完成! そして、レンチンし終わった天ぷらを載せると、天ぷらうどんに大変身!
「いやー、できたよ。できましたよ、アメリちゃん! じゃあ、伸びないうちにいただくとしましょうか」
「おお~!」
というわけで、配膳していただきますの掛け声。私の方には一味唐辛子をかける。個人的に、七味よりも一味派なのです。
……うん! 美味しい! いやー、いいコシですこと。自分で打つと美味しさもひとしおだね!
天ぷらのほうは、揚げてから時間の経った出来合いのものだからちょっと微妙だけど、うどんだけでこんなに大変だったんだから、天ぷらまで自分で揚げてたら手に負えなかったろうなあ……。
「アメリ、どう?」
「美味しい!」
「そっかそっか。頑張って打ったかいがあったね!」
互いに笑顔を交わす。
「おねーちゃん、うどんの女神様みたいだった!」
「ふふ。じゃあ、アメリはもう一人のうどんの女神様だね!」
こうして本日、二人のうどんの女神様が猫崎家に降臨しました。
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