「じゃあ、始めようか。そのマシュマロは、焦げないように炙ってね」
今日は催しとして、猫耳カルテットと庭で机を囲んでいる。
晩秋の夜だけど、ストーブのお陰で寒さが身に沁みるというほどでもない。
ただし、みんなの相手をするのはあたしのみ。ほかのみんなは、仕事なり休息なり、適当に過ごしてもらっている。
みんなも呼べたらいいんだけどね。机も椅子も足りないから。
「おお~……こんな感じ?」
アメリちゃんが、マシュマロ串を炙る。テーブル中央には、神奈さんに「お賽銭箱みたいですね」なんて言われた、折りたたみ焚き火台で炭を焼いている。あはは、まあ似てるよね。某キャンプ漫画にも、そんなネタあったなあ。
「ちょっと近すぎるかな? ……そうそう。そのぐらいの距離」
三人も、アメリちゃんに倣ってマシュマロ串を火にかざす。
「それじゃあ、お話の始まり始まり~」
四人が、マシュマロを焼きながら、器用に拍手する。
「昔々、魔法の世界に、悪い魔法使いがいました。人をネズミに変えたり、川の水を干からびさせたりといった、悪いことばかりしていたのです。そんな悪の魔法使いをなんとかしようと、一人の魔女見習いの少女が立ち上がったのです!」
ここで、ストーブの上のパーコレーターから、コーヒーを注ぐ。
「さて、ちょっとみんなに考えてもらおうかな。この少女は、どんな子だろう? 姿とか、持ち物とかね」
「ミケは、三毛猫を連れてると思うわ」
「魔女の使い魔って、普通黒猫じゃない?」
ミケとクロちゃんの話し合い。あたしは、その間にゆっくりコーヒーをいただく。
「ホウキ! ホウキで、空をぴゅーって飛ぶ!」
「やっぱ剣だろ!」
「魔女なのに?」
オーソドックスなアメリちゃんの提案に対し、ノーラちゃんの突飛な発想。面白いこと考えるね。
「そーいうのを、ハッソーのヒンコンっていうんだぜ! 魔女が剣持っててもいいんだ! だろ?」
ふふ。なるほどねえ。
子供たち、あーでもない、こーでもないと議論。あんまり揉めるようだったら、さり気なく誘導しよう。
「ミケがまとめるわ。名前はシロ。十歳。黒猫を連れていて、剣にもなる魔法のステッキと、ホウキを持っている。これでいい?」
「いいよー」と、一同納得。へえ。ミケ、あっさり三毛猫のアイデア捨てたね。ちゃんと、お姉さんしてるなあ。あとで褒めてあげよう。
いい感じに、コーヒーも飲み終わった。
「じゃあ、シロちゃんは、始まりの村にいます。北は険しい山が。南には砂漠が。東には大きな海が。西には魔法の国があります。どこへ行く?」
あたしがやっているのは、即興劇。こうやって、ことあるごとに設問を投げかけて、みんなに先の展開を考えてもらう。
大雑把な起承転結は決めてあるけれど、最後にどう着地するか、自分にもわからない。
今度は満場一致で、西の魔法の国へ行くことにしたようで。まあ、ここが一番面白そうだよね。
「魔法の国では、色々と珍しい魔法アイテムが売ってるね。たとえば……一日の間、ちょっとした幸運が訪れるお守りとか」
「あ、それ欲しい」
クロちゃんが興味を示す。
「ほかにはどんなのがあるの?」
「みんなのアイデア次第かな。面白そうなら、即採用しちゃうよ」
アメリちゃんの問いに回答。
この即興劇は、みんなの想像力のトレーニングでもあるんだ。
「あー、マシュマロ、そろそろ食べたほうがいいよ」
言われて、みんなでハフハフ食べる。「美味しい!」と瞳を輝かせる子供たち。
「おかわり、いっぱいあるからね。みんなが考えてる間、あたしも焼こうかな」
キャンプファイアで、マシュマロを焼きながら語り部。いかにもキャンプって感じがいいよね。
子供たちが考えてる間、いい感じに焼けた、とろっとしたやつを、はむっ。うん、美味しい。もう一杯コーヒー飲もうかな?
ちなみに、子供たちにはオレンジジュースとアップルジュース、緑茶を出している。長話になるの確定なんで、炭酸飲料だと気が抜けちゃうからね。
「はいはい! 伝書紙飛行機! 伝書鳩みたいに、おうちに飛んでくの!」
アメリちゃんが、さっそく面白いアイデアを出す。
「いいね。誰かに、お手紙書く?」
「おかーさん! 元気だよって!」
笑顔で頷き、彼女のアイデアを肯定する。
この後も、みんなから様々なアイデアが飛び出した。どの子も、発想が自由だなあ。こりゃ、本職としてうかうかしてられないや。なんて、微笑ましい気持ちになったり。
シロちゃん大散財しちゃったけど、こういうお話で、お金のことリアルに考えてもね。
このあと、街で情報収集するシロちゃん。ここでテクニックとして、食事やお菓子をたびたび登場させるという、ドジスン先生のテクニックも、きっちり使っていく。
ん。ポケットのスマホがブルっと震えたので画面を見てみると、アラーム発動。もう、七時か。ちょっと、街の散策に力入れすぎたかな。巻いていこう。
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