作文の翌日。今日も「T総合医療センター」での、アメリの検査日がやって来ました。優輝さんのご希望で、検査日を私たちと揃えてもらうことにしたと伺っていたのですが、今日ミケちゃんと一緒に同行しているのはさつきさん。はて?
「その、優輝さんがミケちゃんと一緒に来ると思ってたんですけど、今日はさつきさんなんですね。ご病気でもされたんですか?」
「あ、いや。姉さん以外で仕事の進捗が一番進んでる人がミケちゃんを連れて行こうって取り決めになったんす。で、自分が一番作業進んでたもんで。優輝ちゃんはいたって元気だから心配ご無用っすよ」
へー。あーそうか、久美さんが候補から除外されてるのは免許持ってないからなんだね。
ちなみに、まりあさんたちは先に呼ばれて採血室に入っている。
「アメリ、注射なんてドーンと構えてれば大したことないわよ!」
「お、おお~……! だいじょーぶ! アメリ、おねーちゃんのために乗り越えた!」
胸を反らして指を振り振りアドバイスするミケちゃんに、グッとガッツポーズで自信のほどを示すアメリ。そうだよね、アメリは立派にお注射を克服したもんね!
「松平さん、お入りください」
さつきさんが採血室に呼び出される。
「おっと。それじゃお先っす。待ってるんで、一緒に帰りましょっす」
採血室に二人が入っていく。
アメリはというと、やや緊張気味であるものの前回とは比べ物にならないほど落ち着いており、私も少し安心できる。
キャスケット越しに頭を撫で、わずかに残っている緊張をほぐそうと試みる。まあ、ただ単にアメリとスキンシップしたいというのもあるけど。
「猫崎さん、お入りください」
さてさて、呼ばれましたよ。アメリは多分大丈夫だと思うけど。
◆ ◆ ◆
採血含め、諸々の検査は終わり。アメリはうめき声一つ上げずお注射に耐えてくれ、ぎゅーっと抱きしめ頭をいーっぱい撫でてあげました。
ただ、最後にお話があるということで、そのままお帰りとはならず。
はて、なんでしょう?
「はじめまして、こんにちは。アメリさんの状態についてお話させていただきます」
談話室的な場所に通されると、そこには白衣を着た、松戸先生によく似た雰囲気の女性が座っていた。
「T総合医療センター・猫耳人間研究部の白部瑠璃といいます。今日は、アメリさんについてわかったことについて、ご説明させていただきます」
首から下げたネームプレートを見せながら、一礼する。ただ、そちらには猫耳人間ではなく、CH研究部……多分、キャット・ヒューマンの略かな? と書かれており、猫耳人間の存在を知らない人たちに意味がわからないようにするためなのだろう。私たちも。ご挨拶を返す。
「結論から申し上げますと、アメリさんは我々の把握している九十八人の猫耳人間と共通の特徴を持っています」
「九十八? 私たちは松戸先生……ここを紹介してくださった方から九十六人と伺いましたが……」
「それはたしか、先月の情報ですね。あれから二人、新たに確認されたんです。その一人が、ほかでもないアメリさんです」
あー、なるほど。
「お話を続けますね。頭部と耳部、あとは人間でいう尾てい骨のさらに上の部分から尻尾が伸びているという構造の違いですが、それ以外についてはさほど人間と変わらない身体機能を有しています。ただ、これは仮説なんですが……」
一旦言葉を切る白部先生。
「猫耳人間は、物ごとの把握や飲み込み。そういったものが、大変得意な傾向があります。アメリさんもそういうところがないですか?」
言われて、どきっとする。まさに、普段私が感じていたことだからだ。
「はい。仰る通りで、ひらがな・カタカナ・数字の読み書きやお箸の使い方などを、この一ヶ月強でマスターしてしまいました。私はなんというか、素直にアメリはすごい子だなって思っているんですけど、猫耳人間に共通なんですか?」
「多少の個人差はありますが、把握している限りではそういう傾向が強いようです」
そうなんだ……。そう言えば、クロちゃんやミケちゃんも物覚えが良かったらしいしね。
「基本的に、猫耳人間はここ最近確認されるようになった存在で、これが幼少期特有のものなのか、成長しても続くものなのかのデータは取れていません」
頷いて、続きを促す。
「それと……これは医学的に意味がある情報なのか、我々でも把握しかねているのですが、猫耳人間は皆一様に『美しい女性に、ここから先に進んではいけないと言われ、虹の橋から帰ってきた』という回想を述べています」
「おお~! アメリもそうだよ!」
アメリの追認に、白部さんがこくりと頷く。
「あともう一点、生前……猫時代に特定の人間と深い愛情でつながっていたというのも共通する特徴のようです。こういった、いささかオカルトといってもいい出来事を、どう把握するかで我々の間でも意見が割れているのですが、『再現性』がある以上、研究に値するというのが、主流派の意見です」
はー……。なんだかムツカシイお話に。
「現在お伝えできるのは、以上になります。何かご質問は?」
少し考え込み、「いいえ」と頭を振る。アメリのほうを見ると、彼女も特に質問はないようだ。
「では、また何か新しいことが判明したら、追ってお知らせします。本日は、ありがとうございました」
白部さんが起立して頭を下げ別れの挨拶をしたので、私たちも起立して、「ありがとうございました」とお返しする。
彼女は「失礼します」と会釈して、そのまま廊下の先に消えていってしまった。
看板の案内に従い待合室に戻ると、まりあさんとさつきさん、クロちゃんとミケちゃんがそれぞれおしゃべりに興じていた。
「あー、お疲れ様っす。ずいぶん時間っかかったっすね?」
「すみません。アメリがどんな存在かということのレクチャーを受けてまして」
「あー、あれですね。うちのときも説明を受けましたよ」
まりあさんたちも過去に同じ経験をしていたようで、首をうんうんと縦に振っている。
「あれ、毎回聞かされるんですか?」
「いえ。詳しく聞かされるのは二回目だけで、あとは何か新事実が判明したらって感じみたいですよ?」
そうなのか。毎回こんなに時間取られたら敵わないなと思っていたので、ほっとひと安心。
「へー、そういうのがあるんすか。優輝ちゃんからは聞かされてなかったっすね。ところでさすがに、どこかでお昼にしたいっすね。もう三時っすよ。ここの食堂で食べていくっすか?」
「そうですね。では、いただいていきましょうか」
二人の提案で、お昼はこちらに決定~。帰りの運転でミスらないためにも、しっかり腹ごしらえしとかないとね。
いやー、今日も疲れた。夕食はスーパーのお弁当で楽に済まて、あとはネームに集中しよう。
あ、そうそう。アメリの書いてくれた作文は、宝物として封筒に入れて、机の引き出しにしまってあります。
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