「へー、すげー! マジで天才なんだなー」
今日は、ノーラちゃんと白部さんがお勉強会に来ています。
で、ノーラちゃんが感心している理由ですが、アメリが自分から、特別カリキュラムの話を彼女に切り出したのです。それも堂々と!
ミケちゃんの叱咤激励が、すごく効いたんだね。私じゃ、アメリに対してあんなムーブできないから、そういうのもあるのか! という感じでした。
私が、猫時代はともかく、人化してからアメリに強い言葉を言ったのって、最初の予防接種のときぐらいかしらね。
幸い、アメリは逆に心配になるぐらい、わがまま言ったり癇癪を起こさない子だけど、ことによったら、強い言葉を使う必要もあるのかな。……なんか、いまいち状況が想像できない。そのとき考えよう。
「驚きましたね。131ですか」
「それって、やっぱりすごいんですよね?」
例の手紙を白部さんにもお見せしたところ、目を白黒させています。
「はい。IQ130超えたら、天才だと思っていただければ」
ひょえ~! やっぱりそうなんだー!
「グラフのほうは、どう見たらいいのでしょう?」
「すみません。こちらは、私にも詳しくは。CH研では、内科系、特に消化器が専門なものでして」
あー、そうか。普通のお医者さんでも、科が別れてるものね。研究職だからって、なんでもわかるわけじゃないか。
「ということは、普段、門外漢のことも調べてらっしゃる感じですか?」
「そうですね。内科以外ですと、たとえば児童精神科医の先生なんかから、『これこれこういうことに、注視して欲しい』という指針をいただいて、そこを見ている感じです」
へー。
「ご負担、大きいですね」
「はい、正直。とにかく可能な限り、見たことをそのまま記録して、上げている感じです。それを見て、各科の担当が分析するんです」
ひえー。勉強教えながら、そういうこともやってたんだ! これは大恐縮。
「すみません。なんだか、そんな大変なお仕事をされているのに、勉強まで見ていただいて」
「いえいえ。むしろ、精神科や脳神経科の先生から大変感謝されていまして、ありがたい状況です」
なんか、お辞儀されてしまいました。こちらもお辞儀をお返し。
「ルリ姉ー。分数~」
「あ、ごめんなさいね。えっとね。ブンレッツが五人に分かれるでしょ? で……」
ノーラちゃんにせっつかれ、授業に戻る白部さん。
「おねーちゃん、アメリもー」
「はいな。えーとですね。0.3に0.7を掛けるとね……」
こちらも、授業再開。
特別カリキュラムにGOサインが出た……正確には、私たちの承認待ちだけれども、受けることはほぼ決めていると、CH研にはお伝えしてある。
なので、そちらの専門チームに、アメリの勉強のことは引き継がれることになり、白部さんはノーラちゃんに集中している状態です。二面指導、大変だからね。
ちなみに、今こうして私がアメリに教えている様子自体は、白部さん、モニタリングしているそうで。
それぞれ別個に、授業に打ち込む私たち。
……ふう、疲れたな。
「白部さん、少し休憩にしませんか?」
「ノーラちゃん、どう?」
「そーだな、ちょっと休みてえ!」
うーんと、伸びをするノーラちゃん。
「じゃあ、新しいリンゴとお茶、持ってきますね」
「ありがとうございます」
「「ありがとー!」」
お礼を受けて、空のティーカップとお皿をトレイに載せて、キッチンへ。
今日のお茶請けは、白部姉妹がお客さんということで、シンプルにウサちゃんリンゴをお出ししています。ノーラちゃんも、結構リンゴ好きだからね。
しゃりしゃりと皮むきして、カットして、ウサちゃん耳を……。かんせーい!
紅茶も、ちょうどいい感じかな。
トレイに載せ、寝室へと戻るのでした。
「お待たせしました」
再度三人からお礼を言われ、配膳。着席し、授業を再開する。
「ああ……ほんと、なんでリンゴって、こんなに美味しいんでしょうね……」
うっとりする白部さん。ノーラちゃんも、おなじみ「うめー」シャウト。
「喜んでいただけて、嬉しいです」
互いに、微笑み合う。
「そういえば、アメリちゃんはエスカルゴ好きなんですよね」
「そうですね。シャンデリア行ったら必ず食べてますね。やはり、好物のデータなんかも、CH研にご報告を?」
「はい、させていただいてます。大から小まで、可能な限り、猫耳人間のデータを送るのが私の仕事ですので」
やっぱり、大変だなあ。四人の一挙手一投足を観察なさってるようなのもで、私にはとても務まりそうもない。
「あ、そうだ! 白部さん、実は……」
順調にいけば、「あめりにっき」は、今のアメリを描いた、「新・あめりにっき」になるかもしれないことを伝える。
「……なので、今すぐでなくていいのですけど、報告書がどんなものなのか、一度拝見したいのですけど、いかがでしょう?」
「うーん……守秘義務がありますからね……。アメリちゃんに関する部分だけで良ければ、必要なときお見せできますが」
「はい! それでもう、十二分にありがたいです!」
お仕事に必要というのもあるけれど、わが子のことが、どんな風に書かれているのかという、純粋な興味もある。
「あと……アメリちゃんの欠点についても書いたりしていますけど、お気を悪くなさらないでくださいね」
「欠点、ですか?」
「はい。本人の前なので、ここでは内容は伏せますが」
アメリの欠点かあ~……。まあ、心当たりがなくもない。すぐに、マナーモードになっちゃうとことか。
「おお~……アメリ、ダメな子?」
しょんぼりする当人。
「ううん、ダメじゃないよ。誰でも、苦手なことってあるからね」
しょんぼりアメリちゃんの頭を撫で、慰める白部さん。
「そうそう。私なんて、欠点だらけよ? 朝弱いし、計画性はないし……」
アメリを励ますためとはいえ、自分で言ってて情けなくなるな……。
「私も、猫耳人間と接してると、我を忘れそうになることが多々あってね」
なんだか、自虐大会が始まってしまいました。
「そうだ、今度はアップルパイでも焼きましょうか」
空気が変な方向に流れてしまったので、切り替えを試みる。
「よろしいんですか?」
「はい。今月は割と余裕があるほうなので」
「わあ。嬉しいです~」
瞳をキラキラさせる、白部さん。良き哉良き哉。
お盆進行だけど、なんとかなるでしょ。……こんなだから、計画性がないんだな、私は。
それにしても、ドクター白部の、お仕事の一環を知れたのは有意義だな。あとでもうちょっと、差し支えないレベルで、お仕事について取材してみようっと。
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