「んんん~っ……!!」
デスクで、ぐいーんと伸び。
くはあ。
いやー。このお仕事、どうにも体がこわばるのが辛いね。だいぶ根詰めたし、休憩しますかー。
あ、そうだ。
「アメリちゃーん」
「なーに?」
呼びかけると写真図鑑から顔を上げ、こちらを見る。まだ読んでたのね、それ。
「ちょっとお姉ちゃんの腰を踏み踏みしてもらえますか」
「おお? いいよー?」
漫画家の敵は腰痛と肩こり。特に前者。愛娘にほぐしてもらいましょー。
よっこいしょ~、なんて言いながらベッドにうつ伏せになる。三十路前の女がやっていいアクションじゃないわね。
アメリも手前に立つ。
「それじゃー、お願いします。先生」
「はーい!」
ぎゅむっ!
「ぐぇ!」
潰れたカエルのような声を出す。アメリの位置が、上すぎる!
「あめりぢゃん! もっどじだ!」
肺を潰されなら、必死に指示。
「おお? このへん?」
足の位置が腰まで下がる。
「はい、そのへんです。では、踏み踏みしてください」
ふー、死ぬかと思った……。
危機を脱すると、リズミカルに腰に圧力がかかる。
「あ~……効くぅ~……。いいよー。いい感じ~」
愛娘に腰を踏み踏みしてもらえるこの喜び!
はあ、生き返るわあ……。
私も子供の頃、よくお父さんにやってたっけ。懐かしいな。
しばらく踏んでもらってリフレッシュできたので、「気持ち良かった~。ありがとねー」とお礼を述べて、体を起こす。
さて! お仕事ラウンド・ツーと参りましょう!
◆ ◆ ◆
よーし、連載のほうの下書き完成~! 素早く芦田さんに指示出し。で、読み切りのほうの下書きに入るわけですよ。これと、連載用の作画も並行しなきゃいけないから大変!
それでも、やらにゃならぬこの稼業。頑張りまっしょい!
と気合を入れてたら、スマホのアラームが。もうごはん炊く時間か。早いなー。
「ごはん炊いてくるねー」
「待って! アメリがやるー!」
椅子から身を起こしかけると、本を閉じて彼女も椅子から身を起こす。
「そう? 悪いねえ。じゃあ、いつもみたいに一合お願いね」
「はーい!」
とててと、キッチンに向かうアメリちゃん。本当に勤勉な子だなあ。一日の大半を寝て過ごしていた、あの猫アメリと同一人物とは思えないね。
とりあえず、お米のことは任せてお仕事再開しましょ。
少しすると、マイ・ドゥーターが戻ってきました。
「おかえりー」
「ただいまー! ちゃんとやってきたよ!」
「ほんと偉いですねえ、アメリちゃんは」
ちょっと手が離せないので、とりあえず言葉で賞賛。
「えへへ。ありがと」
お陽様笑顔を向けると、再び本の世界に没頭してしまいました。
そういえば、アメリの視力が悪くなったら眼鏡ってどうしたらいいんだろ? やっぱコンタクトじゃないと無理よねえ?
まあ、そのときになったら白部さんに相談しましょ。
先のことはとりあえず置いといて、仕事に打ち込むことしばし。再びアラームが!
「ごはんが炊けましたよ。一緒にキッチン行こー」
「はーい!」
かくして、二人とも作業を中断し、調理場に向かうのでした。
◆ ◆ ◆
「さて、今夜は私が調理しようと思いますが……」
隣の愛娘を見るとしょんぼり。
「……お味噌汁はアメリちゃんに作ってもらおうかな!」
そう付け加えると、表情が明るくなる。ふう、自立心旺盛なのはありがたいけど、ちょっと気疲れするときもあるね。もっと、甘えてくれていいのよ?
「じゃ、始めましょうか!」
というわけで、三分でクッキングする脳内BGMスタート!
まずは、カブを洗って葉っぱを切り落とす。
「アメリシェフ。これと薄揚げを食べやすい大きさに切って、お味噌汁の具にしてくださいな」
「らじゃー!」
作業に取り掛かるシェフ。
私は残った根っこの皮を剥き、これも食べやすい大きさにカット。絹さやの筋も取り、煮物にしていく。
煮物は味しみまで時間がかかるからねー。早め早めに作っていくのがコツ。
イサキは……どうしましょうね。煮物とお味噌汁でコンロ二口使うから、お刺身か塩焼きだなあ。よし、オーソドックスに塩焼きでいこう。
バットに乗せて塩を振り、タイマーをセットして十分放置。その間にごはんを切り、煮物の様子を見る。うん、問題なさそう。これ、沸騰させちゃダメなのよね。
アメリちゃんの様子を見ると、特にミスもなく、いい感じに作っていってる。良き哉良き哉。
ときどきカブに竹串を差しながら、火の通りを見る。……ふむ。できましたかね。火を止めてコンロから下ろす。
入れ替わりに、熱湯から沸かしたお湯でイサキの白子をサッと湯通しし、流水で締め。あとはコンロに煮物を戻して、と。
「味見してー」
お味噌を溶いたアメリシェフから、お願いされたので味見。
「うん、いいと思うよ」
「やったー! ……もう、やることない?」
「うーん、そうねえ」
と、タイマーが鳴りました。
「ちょうどいいかな。お魚焼いてみる?」
「やるー!」
「じゃあね、これを皮のついてないほうから弱火で焼いてください」
水洗いした後、キッチンペーパーで水気を拭き、バットごと手渡す。
「おお~! 頑張る!」
グリルに入れ、点火するシェフ。
「ときどき、引き出して焼き加減を見てね」
「はーい」
というわけで、隣に立って監督。アメリが頻繁に引き出すので、「もうちょっとゆっくりでいいよ」とアドバイス。
さて、煮物も味がしみた頃ですかね。温め直して器に盛り、少し残した汁に水溶き片栗粉を入れてあんを作る。これも、沸騰させないのがコツ。
よし、できた。カブと絹さやにかけて、完成!
アメリのほうを見ると、引き出したイサキがいい焼き加減。
「ちょうどいいね。ひっくり返そう」
よいしょよいしょとひっくり返すシェフ。頑張れー!
アメリちゃんがイサキと格闘している間に、お味噌汁も温め直そう。
……よし、これもお椀によそって配膳、と。白子も小鉢に盛って、ポン酢をかける。
白子といえば、イサキももうすぐ焼き上がるかな。ごはんもよそってしまおう。
再びアメリの様子を見ると、イサキの皮がいい感じに焼けてました。
「はい、火を止めて~。出来上がりだよ~」
「頑張った!」
きりりとした顔を向けてくるので、頭を撫でる。「うにゅう」と、おなじみの気抜け声を上げるシェフ。
さっそくお皿に乗せてもらい、こちらも配膳。
同時進行で、お茶を淹れる。
「よっし、でっきあがりでーす!」
ハイタッチの構え。
「いえーい!」
パチン!
二人ともエプロンを外し、対面に着席。
「それじゃ、同時に言おうか」
「うん!」
「「いただきます!」」
まずは、二人の愛の共同作業の産物である、メインの塩焼きから。
うん、良い塩加減。ちょっと磯の香りがするのがまたいい。
続いて、白子。とろーりとして至極美味。人によっては、フグの白子に匹敵するなんて言う人もいるらしい。
そして、アメリシェフ力作のお味噌汁で一息。ああ、カブの葉と薄揚げがとても美味しゅうございます。
「お味噌汁、美味しいよー」
「ほんと!? 良かった~」
微笑むアメリちゃん。可愛いなあ。
そして、煮物。これはまさに滋味というべき味わい。自画自賛になっちゃうけど、素朴ながらとても美味。アメリも、「美味しい美味しい」と食べてくれてます。良き哉良き哉。
こうして各料理を食べ終わり、ごちそうさま。
洗い物はアメリが自分ですると張り切るので、お任せすることに。まあ、今回は食洗機に雑に入れるだけでいいのばかりだからね。
さーて、アメリちゃんの頑張りに報いるためにも、お仕事頑張りましょー!
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