神奈さんとアメリちゃん

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第三百五十三話 雨の日に その四

公開日時: 2021年9月16日(木) 21:01
更新日時: 2021年10月16日(土) 10:52
文字数:2,982

「んんん~っ……!!」


 デスクで、ぐいーんと伸び。


 くはあ。


 いやー。このお仕事、どうにも体がこわばるのが辛いね。だいぶ根詰めたし、休憩しますかー。


 あ、そうだ。


「アメリちゃーん」


「なーに?」


 呼びかけると写真図鑑から顔を上げ、こちらを見る。まだ読んでたのね、それ。


「ちょっとお姉ちゃんの腰を踏み踏みしてもらえますか」


「おお? いいよー?」


 漫画家の敵は腰痛と肩こり。特に前者。愛娘にほぐしてもらいましょー。


 よっこいしょ~、なんて言いながらベッドにうつ伏せになる。三十路前の女がやっていいアクションじゃないわね。


 アメリも手前に立つ。


「それじゃー、お願いします。先生」


「はーい!」


 ぎゅむっ!


「ぐぇ!」


 潰れたカエルのような声を出す。アメリの位置が、上すぎる!


「あめりぢゃん! もっどじだ!」


 肺を潰されなら、必死に指示。


「おお? このへん?」


 足の位置が腰まで下がる。


「はい、そのへんです。では、踏み踏みしてください」


 ふー、死ぬかと思った……。


 危機を脱すると、リズミカルに腰に圧力がかかる。


「あ~……効くぅ~……。いいよー。いい感じ~」


 愛娘に腰を踏み踏みしてもらえるこの喜び!


 はあ、生き返るわあ……。


 私も子供の頃、よくお父さんにやってたっけ。懐かしいな。


 しばらく踏んでもらってリフレッシュできたので、「気持ち良かった~。ありがとねー」とお礼を述べて、体を起こす。


 さて! お仕事ラウンド・ツーと参りましょう!



 ◆ ◆ ◆



 よーし、連載のほうの下書き完成~! 素早く芦田さんに指示出し。で、読み切りのほうの下書きに入るわけですよ。これと、連載用の作画も並行しなきゃいけないから大変!


 それでも、やらにゃならぬこの稼業。頑張りまっしょい!


 と気合を入れてたら、スマホのアラームが。もうごはん炊く時間か。早いなー。


「ごはん炊いてくるねー」


「待って! アメリがやるー!」


 椅子から身を起こしかけると、本を閉じて彼女も椅子から身を起こす。


「そう? 悪いねえ。じゃあ、いつもみたいに一合お願いね」


「はーい!」


 とててと、キッチンに向かうアメリちゃん。本当に勤勉な子だなあ。一日の大半を寝て過ごしていた、あの猫アメリと同一人物とは思えないね。


 とりあえず、お米のことは任せてお仕事再開しましょ。


 少しすると、マイ・ドゥーターが戻ってきました。


「おかえりー」


「ただいまー! ちゃんとやってきたよ!」


「ほんと偉いですねえ、アメリちゃんは」


 ちょっと手が離せないので、とりあえず言葉で賞賛。


「えへへ。ありがと」


 お陽様笑顔を向けると、再び本の世界に没頭してしまいました。


 そういえば、アメリの視力が悪くなったら眼鏡ってどうしたらいいんだろ? やっぱコンタクトじゃないと無理よねえ?


 まあ、そのときになったら白部さんに相談しましょ。


 先のことはとりあえず置いといて、仕事に打ち込むことしばし。再びアラームが!


「ごはんが炊けましたよ。一緒にキッチン行こー」


「はーい!」


 かくして、二人とも作業を中断し、調理場に向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「さて、今夜は私が調理しようと思いますが……」


 隣の愛娘を見るとしょんぼり。


「……お味噌汁はアメリちゃんに作ってもらおうかな!」


 そう付け加えると、表情が明るくなる。ふう、自立心旺盛なのはありがたいけど、ちょっと気疲れするときもあるね。もっと、甘えてくれていいのよ?


「じゃ、始めましょうか!」


 というわけで、三分でクッキングする脳内BGMスタート!


 まずは、カブを洗って葉っぱを切り落とす。


「アメリシェフ。これと薄揚げを食べやすい大きさに切って、お味噌汁の具にしてくださいな」


「らじゃー!」


 作業に取り掛かるシェフ。


 私は残った根っこの皮を剥き、これも食べやすい大きさにカット。絹さやの筋も取り、煮物にしていく。


 煮物は味しみまで時間がかかるからねー。早め早めに作っていくのがコツ。


 イサキは……どうしましょうね。煮物とお味噌汁でコンロ二口使うから、お刺身か塩焼きだなあ。よし、オーソドックスに塩焼きでいこう。


 バットに乗せて塩を振り、タイマーをセットして十分じゅっぷん放置。その間にごはんを切り、煮物の様子を見る。うん、問題なさそう。これ、沸騰させちゃダメなのよね。


 アメリちゃんの様子を見ると、特にミスもなく、いい感じに作っていってる。良きかな良きかな


 ときどきカブに竹串を差しながら、火の通りを見る。……ふむ。できましたかね。火を止めてコンロから下ろす。


 入れ替わりに、熱湯から沸かしたお湯でイサキの白子をサッと湯通しし、流水で締め。あとはコンロに煮物を戻して、と。


「味見してー」


 お味噌を溶いたアメリシェフから、お願いされたので味見。


「うん、いいと思うよ」


「やったー! ……もう、やることない?」


「うーん、そうねえ」


 と、タイマーが鳴りました。


「ちょうどいいかな。お魚焼いてみる?」


「やるー!」


「じゃあね、これイサキを皮のついてないほうから弱火で焼いてください」


 水洗いした後、キッチンペーパーで水気を拭き、バットごと手渡す。


「おお~! 頑張る!」


 グリルに入れ、点火するシェフ。


「ときどき、引き出して焼き加減を見てね」


「はーい」


 というわけで、隣に立って監督。アメリが頻繁に引き出すので、「もうちょっとゆっくりでいいよ」とアドバイス。


 さて、煮物も味がしみた頃ですかね。温め直して器に盛り、少し残した汁に水溶き片栗粉を入れてあん・・を作る。これも、沸騰させないのがコツ。


 よし、できた。カブと絹さやにかけて、完成!


 アメリのほうを見ると、引き出したイサキがいい焼き加減。


「ちょうどいいね。ひっくり返そう」


 よいしょよいしょとひっくり返すシェフ。頑張れー!


 アメリちゃんがイサキと格闘している間に、お味噌汁も温め直そう。


 ……よし、これもお椀によそって配膳、と。白子も小鉢に盛って、ポン酢をかける。


 白子といえば、イサキももうすぐ焼き上がるかな。ごはんもよそってしまおう。


 再びアメリの様子を見ると、イサキの皮がいい感じに焼けてました。


「はい、火を止めて~。出来上がりだよ~」


「頑張った!」


 きりりとした顔を向けてくるので、頭を撫でる。「うにゅう」と、おなじみの気抜け声を上げるシェフ。


 さっそくお皿に乗せてもらい、こちらも配膳。


 同時進行で、お茶をれる。


「よっし、でっきあがりでーす!」


 ハイタッチの構え。


「いえーい!」


 パチン!


 二人ともエプロンを外し、対面に着席。


「それじゃ、同時に言おうか」


「うん!」


「「いただきます!」」


 まずは、二人の愛の共同作業の産物である、メインの塩焼きから。


 うん、良い塩加減。ちょっと磯の香りがするのがまたいい。


 続いて、白子。とろーりとして至極美味。人によっては、フグの白子に匹敵するなんて言う人もいるらしい。


 そして、アメリシェフ力作のお味噌汁で一息。ああ、カブの葉と薄揚げがとても美味しゅうございます。


「お味噌汁、美味しいよー」


「ほんと!? 良かった~」


 微笑むアメリちゃん。可愛いなあ。


 そして、煮物。これはまさに滋味というべき味わい。自画自賛になっちゃうけど、素朴ながらとても美味。アメリも、「美味しい美味しい」と食べてくれてます。良きかな良きかな


 こうして各料理を食べ終わり、ごちそうさま。


 洗い物はアメリが自分ですると張り切るので、お任せすることに。まあ、今回は食洗機に雑に入れるだけでいいのばかりだからね。


 さーて、アメリちゃんの頑張りに報いるためにも、お仕事頑張りましょー!

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