「アメリちゃ~ん。ちょっと原稿描きにくいから、手を離してくれるかな~? それに、もうすぐみんな来ちゃうよー?」
月曜日。お昼ごはんを食べ終わると、妖怪・子泣きアメリと化した我が娘が、仕事中の私にずーっとおぶさっています。
「むしろ、みんなが来るまで甘えてるのー」
あらあら、今日はどうしちゃったのかしら。一段と甘えんぼさんね。積極的にスキンシップしてくれるのは嬉しいけど、仕事できないのは困るな。
仕方ない。アメリが満足するまで、甘えさせてあげますか。アメリの左二の腕を、右手でとんとん叩く。
「アメリちゃんは可愛いですねー」
「えへへ~」
しかし、そんな親子のふれあいタイムは長くは続かなかったのです。ほどなくして、呼び鈴がピンポン。
「おお~。来ちゃった……」
「また後でね」
名残り惜しそうなアメリの二の腕を、再度二回だけポンポンと叩き、インタホンへ。白部さんだったので、アメリと一緒に迎えに出る。
「こんにちは~」
互いに挨拶を交わす。
「あ、そうだ!」
愛娘がダッシュで室内に戻り、ダッシュでまた門まで戻ってくる。
「見て、スマホ!」
ケイティちゃん傘の下で、薄紫のスマホを、紋所のように掲げるアメリ。
「あらー、可愛いの買ってもらったわねー」
「おー、ルリ姉が昨日言ってたやつだな! アタシも欲しーぞ!」
「今度、買いに行こうね」
「おー!」と目をキラキラ輝かせるノーラちゃん。
「良かったねー、アメリ。可愛いって」
「うん!」
「では、立ち話もなんですので、中へどうぞ。」
お茶を出し、「クロちゃんを迎えに行ってきます」とお断りして、出支度をする。
「それじゃあアメリ、ちょっとだけ白部さんとお留守番しててね。ミケちゃんが来たら、入れてあげて」
「はーい」
というわけで、車を走らせ宇多野家へ。入り口脇に停車してクロちゃんに電話すると、ややあって彼女とまりあさんが出てきました。
「お手数かけます。こちら、粗末なものですが」
箱入りのお菓子を渡される。感じからして和菓子かな。
「いえいえ、ご謙遜なさらないでください。ありがたくいただきます」
「よろしくお願いします」
クロちゃんが乗り込んでくる。
「うん、ちゃんとシートベルトを締めてね。ではまりあさん、クロちゃんをお預かりします」
互いに頭を下げ、発進。「さわき」さんの駐車場を利用させてもらって方向転換し、道を戻るのでした。
◆ ◆ ◆
「こんにちは。遅かったじゃない」
家に戻ると、トイレから出てきたミケちゃんとばったり出くわす。
「こんにちは。クロちゃんちまで、結構距離あるからね」
クロちゃんも、ミケちゃんとご挨拶。
「自転車が使えないと、億劫よね。せっかく、だいぶ前に補助輪が外れたのに」
「あら、すごいじゃない!」
「まーね!」とドヤ顔で胸を反らす彼女。
「とりあえず、二人のお茶とお菓子も用意するから、向こうで待ってて」
「はーい」と寝室に向かう二人。では、まりあさんからのいただきものを、開封しますかー。
◆ ◆ ◆
「お茶菓子、持ってきましたー」
寝室のドアを開けると、みんなでアメリのスマホを見物してるところでした。
「これで、スマホ同盟もノーラを残すのみね!」
「早く欲しいぞー」
子供たち、好きなように色々話してます。
「人気だね、アメリのスマホ」
お茶菓子を配膳しながら微笑む。ちなみに、いただきものは栗まんじゅうでした。
「お姉ちゃん、和菓子にしてくれたんだ」
ほっこりと、はにかむクロちゃん。相変わらず、誰が見ても可愛い。
本当は鮎最中も出したいんだけど、あれは真留さんに、まるごと渡すつもりだからなー。
「はいはい、みんな。スマホはまた後でね。みんな揃ったところで、さっそく始めましょうか」
白部先生の宣言で、授業開始。私もおまんじゅうの包み一個とお茶を手に、デスクに引き上げます。
「そういえば、ミケちゃん。あれから数日経ったけど、お勉強の歌のほうどう?」
ふと気になったので、尋ねてみる。
「ジュンチョーみたいよ。あと少しで完成しそうだって」
「そっかー。良かったねえ」
良き哉良き哉。
後はこれといって何事もなく、静かにお勉強とお仕事は進んでいきました。
やがて、インタホンの呼び鈴が。PCの時計を見ると、ジャスト二時。間違いない、真留さんだ!
「すいません、うちの担当さんが来たみたいです。リビングで打ち合わせさせていただきますね」
「え! 漫画家の打ち合わせとか、見てみたい!」
「おー、アタシも見たいぞー」
クロちゃんは言葉に出さねど、やはり興味津々だとしっぽが語っている。
「んー……ちょっと話し合っておいてください、白部さん。とりあえず、迎えに行きますので」
「はい」
というわけで、門に迎えに行きます。
「先生、こんにちは」
お辞儀する真留さん。今日もファンレターの紙袋を下げている。ちゃんと耐水性のビニールパッケージのものにして、入口を閉じているあたり、彼女らしい心遣いだ。
「こんにちは。ちょーっと寝室側が、今立て込んでますけど、どうかお気になさらず」
お辞儀と奥歯に物が挟まったような言葉で返すと、怪訝な顔をなさる。はてさて、どうなりますことやら……。
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