「全球凍結が地球で起こりましたね。すると溶けたとき、雪解け水と同じく、ミネラルたっぷりの水が海にたっぷり流れ込んでくるんです! それで、生命が大きく、多様化出来たんですね」
「おお~!」
今日も、ノーラちゃんを除く三人娘と、押江先生の授業。先生、昨日の珍事がまったくなかったかのように、平静です。
「神奈お姉さん、ここ教えてもらえますか?」
「ほいほい。1に0.2掛けるのはね。1を十分の二にしますよーってのと同じ意味なのね」
クロちゃん、ミケちゃんも、コツコツ自習を進めては、わからないところを訊きに来てくれます。
私はこの、すでに慣れた環境下で、筆を走らせ中。私、環境の変化に強いタイプだけど、押江先生も、なんか昔からいらしたような気がしてくるわ。
「では、このへんで一旦休憩にしましょう!」
「はーい」
「じゃあ、ミケたちも休憩するわ」
四人は、休憩タイムに入ったようです。私も一休みしますかー。
「お茶淹れてきますねー」
腰を叩きながら、椅子から立つ。
「腰痛そうだから、アメリがやるよー。おねーちゃんは、休んでてだいじょーぶ!
「苦労をかけるねえ。ありがとう」
「行ってきまーす」
ふう。孝行娘を持って、ありがたいことです。「あたた」なんて言いながら、折りたたみ机に着座。
「腰痛ですか。お辛そうですね」
心配そうに仰る先生。
「職業病ですねえ。これと、肩こりはどうにも……」
そう言いながら、左肩を揉みほぐす。
「あとでアメリに、腰を踏んでもらいましょうかねえ」
これも、いつまでできるのかな。
「お姉ちゃんもデスクワークしてますから、S町の整体、でしたっけ? そこに週一で通ってますよ」
と、クロちゃん。
「そうなんだ。私も行ってみようかなあ?」
そんな不健康トークを繰り広げていると、アメリちゃんが戻ってきました。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
皆でお礼。
「調子はどう?」
アイスティーを飲みながら、愛娘に尋ねる。
「腰?」
「それは見てて大丈夫そうだけど、お勉強のほう」
「おお! あのね、押江せんせー色々質問してくるんだよ! それが面白い!」
へー?
「そんな感じで、授業を進めてらっしゃるんですか?」
今度は、先生に話を振ってみる。どういうことだろう?
「アメリカ式のやり方ですね。日本のは、上意下達といいますか、教師が生徒に一方的に教える感じですけど、アメリカですと、生徒に色々考えさせるんです。生徒同士で話し合いさせられると、ベストなんですけどね」
「あー、なんかそういうの、聞いたことあります」
二人がそんな感じで授業してるのは気づかなかったな。そこを注目……注耳? して聞いてみよう。いや、待った。
「そうだ、先生。その授業、私も受けてみていいですか? 少しだけ」
「私は構わないですけど、アメリさんはどうかな?」
「おおー! おねーちゃんと一緒、面白そー!」
アメリちゃんも、ノリノリですね。
「でも、またどうしてですか?」
「そうですねえ。なんでも体験っていうのが、特に最近の考え方になってまして。アメリがどんなことしてるのか、体験してみたかったんです」
「なるほど。そういうことでしたら、ぜひご一緒に!」
先生もノリがいいですね。良き哉良き哉。
その後も、五人でわちゃわちゃと会話し、休憩終了!
「では、猫崎さんを交えて、やっていきましょう!」
「「はーい」」
二人で仲良くお返事!
「エディアカラ生物は、防御機能を持っていませんでしたが、カンブリア生物になると、ハルキゲニアのように防御機能を持つ生物が現れました。これにより、弱肉強食が生まれたと考えられています。でも、なぜそのような世界になったと思いますか?」
うお、いきなり質問来たー!
「お二人で、色々相談してみてください」
「おお。えっとねアノマロカリスみたいに、歯が生えた?」
困ったな。私、生物取らなかったからなー。
「どうなんでしょう、先生?」
「それを考えていただくんです。思考力のトレーニングです!」
にこにこと、人差し指を立てる先生。ひょー! ほんとに、きっちり考えさせるんだ。これが、アメリが今やってる勉強法かー。
「うーん、お姉ちゃんは、腕? ほら、アノマロカリスとか、顔になんか付いてるじゃない? ああいうのが、できたからかなって思うんだけど」
「エディアカラ生物にも、たしか吻持ってる生物いたよ?」
ふん?
「先生、ふんってなんでしょう? うんち……じゃないですよね?」
「それは答えられますね。ざっくり、触手っぽいものとお考えください」
おお、これは教えてくれるんだ。しかし、相変わらずにこにこしていて、逆に顔色が伺えない……。
でも、ここで合格宣言が出ないっていうことは、私たちの推理はハズレってことかな?
「それぞれの生物の絵を見てみたいですねえ」
「こちらに、ある程度のものを持ってきてあります」
すらっと、生物のイラストを広げる先生。
「アメリの図鑑も出す!」
カンブリア生物図鑑を取り出すアメリちゃん。
よーし、漫画家の観察眼の見せ所ですよ!
うーん? ううん?
「アメリ。このオパビニアとかいうの、へんてこな姿だねえ?」
目が五つあって、口がにょ~んと伸びていて。
「面白いよね! 目が五つもあって、どういう世界が見えてたのかなー?」
そういえば、昆虫とかも複眼持ちよね。……ん? 目?
エディアカラ生物と、カンブリア生物のイラストを、よく見比べてみる。
エディアカラ生物には目らしきものがなくて、カンブリア生物には、持っているものが複数いる!
「先生、ひょっとして、目だったりしません? 目ができたことで、なんかこう……」
「おお! 目で、獲物を追ってる!?」
「いい視点です!」
両手で、サムズアップする先生。
「これが有力な学説なのですけど、カンブリア生物は目を持ったことで、獲物を捕らえるようになったといわれてるんです!」
「「いえーい!」」
二人でハイタッチ!
「ふふ。楽しいムーブですね。仲の良さが伺えます。こんな感じで、アメリさんとは授業してるんですよ」
へえ~。これは面白い!
「では、続けましょうか」
「あ、すみません。私は、仕事に戻らないとですので」
面白いけど、あんまり本業をサボるわけにもいかない。
「わかりました。またいつでも、仰ってくだされば、やりますので!」
「ありがとうございました。とても勉強になりました」
アメリの頭をひと撫でして、よっこいしょとデスクにつく。
ふー。面白い体験をしたなあ。こんな授業だったら、私ももっと、勉強に身が入ったのかな。
まあ、過ぎたことを考えても、せんないよね。これからのために、お仕事頑張りましょー!
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