まりあさんとお買い物した翌日お昼過ぎ、今日も雨降りの中仕事をこなしていると、不意にインタホンが鳴る。
「はーい、どちらさまでしょう?」
「ミケだけど。今、遊びに行っていいかしら?」
アメリは、ブロックで一人遊びしていたところ。遊び相手ができて、アメリもきっと喜ぶはず。
「どうぞー、今、門に行くからねー」
門まで迎えに行くと、彼女一人。あら、珍しい。長袖Tと丈長スカートプラスキャスケットに、赤い鮮やかな色合いの傘を差している。もう片手には、ペットボトルの先端が覗いているビニール袋。
「今日は一人?」
「ええ。ミケ、一人でお出かけできるもの!」
ふふん、と胸を反らしドヤ顔する彼女。かわいい。
「雨の中立ち話も何だから、中へどうぞ」
門を開け、家に通す。
「あ、これ優輝たちから」
玄関口で、ビニール袋を渡してくる。
「あら~、いつも申し訳ないなあ」
「優輝からの伝言よ。『気にしないでください』って」
あらま。読まれてましたか。では、ありがたく受け取っておきましょう。
寝室もさほど散らかってないのでそのまま通した後、台所でいただき物を開けてみる。マスペとコラ・コーラとクッキーというツボを抑えたチョイス。ありがとうございます。
早速、コーラとクッキーを二人のために寝室へ持っていくと、何やら並んで立ち、ポーズを合わせていた。
「違う違う、右手はこう! で、左手はこう!」
「お、おお~?」
傍から見てると、いささか不思議な踊りにも見える。
「何をしてるのかな?」
「ダンスよ。ダンスの振り付け。今日は、アメリをスカウトに来たの」
ほ? なんだか、話が微妙に大きな方向に……?
「今度、町内子供歌謡コンテンストがあるじゃない? だから、アメリと、あとクロをスカウトしてユニット組もうってワケ」
あー、あったあった。毎年このあたりの時期に、町内会でそんなイベントやってたよね。うち、子供いなかったから毎年スルーしてたけど。
「おねーちゃん! アメリ、アイドルやってみたい!」
おお、アメリちゃんやる気満々ですよ。しかし、ミケちゃんが越してきた日に夢想した、猫耳アイドルユニットが実現するとは。いやまあ、近所の町内会イベントで大げさだけど。
「クロちゃんも参加するのね」
「む~……。それがね、すごい嫌がりようなの。だから、今度しっかり説得するわ」
まあ、そんな気はしてた。彼女、奥手だもんね。
「あ、これお菓子とジュースね。ミケちゃんが持って来てくれたの」
「おお~! コーラだ!」
「炭酸が抜けるともったいないわね。ダンスは一休み。休憩しましょ」
ほむ。もうちょっと二人の可愛い踊りを見てたかったんだけどな。まあいいや。お仕事しましょ。
「アメリ。昨日ショッキングなものを見たわ」
「おお~。どんなのー?」
二人の会話をBGMに、すいすい筆を走らせる。
「宇宙人が、太陽を爆発させないためにゾンビを作っていたのよ!」
「あー、ミケちゃん。ちょっといいかな?」
会話にいきなり不穏なものを感じ、くるりと椅子ごと振り返り会話に割って入る。
「何?」
「それ多分、角照さんの映画コレクションの話よね?」
「ええ」
それが何か? という感じで返事するミケちゃん。
「その、そういうのアメリに教えるときは、『作り話だけど』って前置きしてくれるとありがたいかな」
「ええ~。それじゃ、話の迫真ぶりが伝わらないじゃない!」
「そこをなんとか。後からアメリのヘンテコ知識直すの、大変なのよ」
明らかに不満げなミケちゃんに、頭を下げる。そこまですると、ミケちゃんにも困りぶりが伝わったようで、「しょーがないなー」なんて言いながら同意してくれた。ほっ。
ともかくも、お仕事再開~。「ウソ話」として語られるけったいなSFゾンビ映画の話に、アメリは興味津々。「おお~」と相槌を打ちながら、聞き手に回っている。
アメリ、素直なのはいいけど、ちょっと人の話を信じ易すぎる傾向があるからなあ。変な人についていかないように注意しないと。そういう意味でも、まだまだ目が離せないな。
それはさておき、ふとした疑問が頭に湧いてしまった。
「ミケちゃん、ちょっと気になったんだけど。昨日、一昨日とずっと雨だったのに、いつクロちゃんと歌謡コンテストのこと話したの? もっと前から話し合ってたとか?」
気になったことは、尋ねずにはいられない性分。首だけ振り返って素朴な疑問を呈する。
「スマホよ。優輝から借りてね」
スマホ? あれ、でも……。
「よく会話できたね? 耳に当てたり口に当てたりして切り替えてたの?」
「イヤホン差したのよ。クロもそうしたみたいよ」
あー、なるほど。お注射克服劇のときも、そうやって打ち合わせしたのか。タネが割れれば簡単なトリックだったのね。トリックは大げさか。
「さあ、アメリ! コーラで気力も回復したし、もっかいダンスするわよ!」
「おお~!」
おお、ほほえまダンシング再開ですか。見ていたいけど、私もお仕事進めないとねー。
「じゃあ、次は歌の練習!」
ダンスをしばらくやったあと、続いて何やら、私の知らない歌を歌い始めるミケちゃん。感じからするとJ-POPっぽいね。
「おお~! アメリも歌うー!」
うーむ、下手っぴではないけど……。上手でもない。でも初めて歌う歌だもんね。言い換えれば、無限の可能性を秘めているということ!
「それじゃ優勝できないわ! 神奈おねーさん、アメリ借りていってもいい!?」
「ミケちゃんのおうちで遊ぶってことかな? 角照さんたちがちゃんといるなら、構わないけど」
唐突なお持ち帰り宣言に面食らったけど、椅子をくるりと向けて条件付きでOKを出す。
「だいじょーぶ、みんなでゲーム作ってる最中だから! アメリもいいわね!?」
「おお~!」
「それじゃあ、特訓よー!!」
アメリのお着替えを待ってから、二人で意気揚々と出かけていきました。ミケちゃん、にぎやかな子だなあ。アメリとは別方向にクロちゃんと好対照なキャラだ。
ちなみにアメリ、だいぶ前から一人でお着替えできるようになってます。良き哉良き哉。
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