神奈さんとアメリちゃん

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第五十三話 歌って踊れるアイドルを目指そう!?

公開日時: 2021年4月18日(日) 12:31
文字数:2,421

まりあさんとお買い物した翌日お昼過ぎ、今日も雨降りの中仕事をこなしていると、不意にインタホンが鳴る。


「はーい、どちらさまでしょう?」


「ミケだけど。今、遊びに行っていいかしら?」


 アメリは、ブロックで一人遊びしていたところ。遊び相手ができて、アメリもきっと喜ぶはず。


「どうぞー、今、門に行くからねー」


 門まで迎えに行くと、彼女一人。あら、珍しい。長袖Tと丈長スカートプラスキャスケットに、赤い鮮やかな色合いの傘を差している。もう片手には、ペットボトルの先端が覗いているビニール袋。


「今日は一人?」


「ええ。ミケ、一人でお出かけできるもの!」


 ふふん、と胸を反らしドヤ顔する彼女。かわいい。


「雨の中立ち話も何だから、中へどうぞ」


 門を開け、家に通す。


「あ、これ優輝たちから」


 玄関口で、ビニール袋を渡してくる。


「あら~、いつも申し訳ないなあ」


「優輝からの伝言よ。『気にしないでください』って」


 あらま。読まれてましたか。では、ありがたく受け取っておきましょう。


 寝室もさほど散らかってないのでそのまま通した後、台所でいただき物を開けてみる。マスペとコラ・コーラとクッキーというツボを抑えたチョイス。ありがとうございます。


 早速、コーラとクッキーを二人のために寝室へ持っていくと、何やら並んで立ち、ポーズを合わせていた。


「違う違う、右手はこう! で、左手はこう!」


「お、おお~?」


 傍から見てると、いささか不思議な踊りにも見える。


「何をしてるのかな?」


「ダンスよ。ダンスの振り付け。今日は、アメリをスカウトに来たの」


 ほ? なんだか、話が微妙に大きな方向に……?


「今度、町内子供歌謡コンテンストがあるじゃない? だから、アメリと、あとクロをスカウトしてユニット組もうってワケ」


 あー、あったあった。毎年このあたりの時期に、町内会でそんなイベントやってたよね。うち、子供いなかったから毎年スルーしてたけど。


「おねーちゃん! アメリ、アイドルやってみたい!」


 おお、アメリちゃんやる気満々ですよ。しかし、ミケちゃんが越してきた日に夢想した、猫耳アイドルユニットが実現するとは。いやまあ、近所の町内会イベントで大げさだけど。


「クロちゃんも参加するのね」


「む~……。それがね、すごい嫌がりようなの。だから、今度しっかり説得するわ」


 まあ、そんな気はしてた。彼女、奥手だもんね。


「あ、これお菓子とジュースね。ミケちゃんが持って来てくれたの」


「おお~! コーラだ!」


「炭酸が抜けるともったいないわね。ダンスは一休み。休憩しましょ」


 ほむ。もうちょっと二人の可愛い踊りを見てたかったんだけどな。まあいいや。お仕事しましょ。


「アメリ。昨日ショッキングなものを見たわ」


「おお~。どんなのー?」


 二人の会話をBGMに、すいすい筆を走らせる。


「宇宙人が、太陽を爆発させないためにゾンビを作っていたのよ!」


「あー、ミケちゃん。ちょっといいかな?」


 会話にいきなり不穏なものを感じ、くるりと椅子ごと振り返り会話に割って入る。


「何?」


「それ多分、角照さんの映画コレクションの話よね?」


「ええ」


 それが何か? という感じで返事するミケちゃん。


「その、そういうのアメリに教えるときは、『作り話だけど』って前置きしてくれるとありがたいかな」


「ええ~。それじゃ、話の迫真ぶりが伝わらないじゃない!」


「そこをなんとか。後からアメリのヘンテコ知識直すの、大変なのよ」


 明らかに不満げなミケちゃんに、頭を下げる。そこまですると、ミケちゃんにも困りぶりが伝わったようで、「しょーがないなー」なんて言いながら同意してくれた。ほっ。


 ともかくも、お仕事再開~。「ウソ話」として語られるけったいなSFゾンビ映画の話に、アメリは興味津々。「おお~」と相槌を打ちながら、聞き手に回っている。


 アメリ、素直なのはいいけど、ちょっと人の話を信じ易すぎる傾向があるからなあ。変な人についていかないように注意しないと。そういう意味でも、まだまだ目が離せないな。


 それはさておき、ふとした疑問が頭に湧いてしまった。


「ミケちゃん、ちょっと気になったんだけど。昨日、一昨日とずっと雨だったのに、いつクロちゃんと歌謡コンテストのこと話したの? もっと前から話し合ってたとか?」


 気になったことは、尋ねずにはいられない性分。首だけ振り返って素朴な疑問を呈する。


「スマホよ。優輝から借りてね」


 スマホ? あれ、でも……。


「よく会話できたね? 耳に当てたり口に当てたりして切り替えてたの?」


「イヤホン差したのよ。クロもそうしたみたいよ」


 あー、なるほど。お注射克服劇のときも、そうやって打ち合わせしたのか。タネが割れれば簡単なトリックだったのね。トリックは大げさか。


「さあ、アメリ! コーラで気力も回復したし、もっかいダンスするわよ!」


「おお~!」


 おお、ほほえまダンシング再開ですか。見ていたいけど、私もお仕事進めないとねー。


「じゃあ、次は歌の練習!」


 ダンスをしばらくやったあと、続いて何やら、私の知らない歌を歌い始めるミケちゃん。感じからするとJ-POPっぽいね。


「おお~! アメリも歌うー!」


 うーむ、下手っぴではないけど……。上手でもない。でも初めて歌う歌だもんね。言い換えれば、無限の可能性を秘めているということ!


「それじゃ優勝できないわ! 神奈おねーさん、アメリ借りていってもいい!?」


「ミケちゃんのおうちで遊ぶってことかな? 角照さんたちがちゃんといるなら、構わないけど」


 唐突なお持ち帰り宣言に面食らったけど、椅子をくるりと向けて条件付きでOKを出す。


「だいじょーぶ、みんなでゲーム作ってる最中だから! アメリもいいわね!?」


「おお~!」


「それじゃあ、特訓よー!!」


 アメリのお着替えを待ってから、二人で意気揚々と出かけていきました。ミケちゃん、にぎやかな子だなあ。アメリとは別方向にクロちゃんと好対照なキャラだ。


 ちなみにアメリ、だいぶ前から一人でお着替えできるようになってます。良きかな良きかな

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