神奈さんとアメリちゃん

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第四百六十五話 海よ、さらば!

公開日時: 2022年1月14日(金) 21:01
文字数:2,943

 ちょっとした(?)トラブルはあったものの、BBQを美味しくいただき終わり、みんなで後片付け。……まりあさんは相変わらずな状態なので、白部さんが付き添って見ているけれど。


 夏休み前の平日だけあって、一か所しかない炊事施設もガラガラで快適です。


 アメリやともちゃんが学校に上がったら、こういうささやかな贅沢もやりにくくなるんだねえ。学校卒業してから十年。一人で漫画描いてた頃は、考えもしなかった。


 後片付け終わりっ! きれい、きれい!


「終わりましたね。じゃあ、すみません。うちらは荷物車に戻さなきゃなんで、どなたか、まりあさんを我々のパラソルの下まで連れて行っていただけますと」


 優輝さんがゴミ袋を手に、上体を起こす。かくてるのみなさんも、クーラーボックスを肩に下げる。


「だーいじょぶですよぉ~。ほら、こ~んなに……」


 と言って立ち上がろうとするまりあさん、ふらふらと転倒しそうになり、慌てて白部さんに支えられます。


「どなたか、片側をお願いできますか?」


 まりあさんの脇に肩を通す、我らが先生。


「ぼくが。……よっと」


 従姉妹の松戸博子先生に似て、背が高めな白部さん。良夫さんとも背が釣り合い、無理なくまりあさんを運べそうです。


「疲れたら、代わってくださいね」


「ありがとうございます。せーの!」


 交代要員を申し出、心配そうな子供たち……とくにクロちゃんを安心させるべく話しかけながら、えっちらおっちらとパラソルへと向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「よいしょお~!」


 途中、私&親子ちかこさんで交代し、無事パラソルの下にまりあさんを寝かせることができました。


「お疲れ様でした」


 ねぎらってくださる、かくてるのみなさん。亀の歩みだったので、向こうのほうが早かったみたいです。


「誰か見てないと、まずいですよねえ」


 どうしたものかという感じで、サンバイザーのつばを上げる優輝さん。


「私が見ますよ」


 そうおっしゃるのは、やはり我らが白部先生。


「いいんですか?」


「医者ですからね。代わりに、どなたかノーラちゃんの面倒を見ていただけますと」


「ルリ姉、一緒にいるぞー?」


「いいのいいの。せっかくの海だもの。遊んでらっしゃい」


 どうしたものかと、白部さんと周囲を交互に見るノーラちゃん。


「よし、遠泳はやめだ! ノラ子、泳ぎ教えちゃる! な!」


 ドンと、胸を叩く久美さん。


「ん~……。ルリ姉、ほんとにだいじょぶかー?」


「うん。楽しんでらっしゃい」


「わかった。呼ばれたら、すぐ駆けつけるからな!」


 健気なノーラちゃんに、微笑み、うなずく白部さん。


「ボクはどうしたら……」


 今度は、クロちゃんが困ってしまいました。


「アメリと砂遊びする?」


 スコップとバケツを差し出す。


「どうかな、アメリ?」


「おおー! クロ、やろ!」


「じゃあ、そうするね」


 ちょっと心細そうだけど。


「白部さんがついてるから、大丈夫だよ」


 ぽんぽんと肩を叩く。


「わかりました」


「ともも、お砂遊びするー!」


 砂遊びといえば、ともちゃんの出番よね。


「じゃあ、三人は私が見てますね」


 親子ちかこさんが、面倒見を買って出てくださいました。


「ミケはどうする?」


 優輝さんが、愛娘に問う。


「んー……。久美、泳ぎって二人同時に教えられる?」


「できるぜ」


「じゃあ、お願い」


 というわけで、子供たちの動きもまとまりました。


「しかし、『きゃっきゃうふふ』も、なんだかやる空気じゃない気がしてきたっすね」


「そう言わずにやろうよ。ね、神奈さん?」


 珍しく、悪ノリ気分じゃなくなったさつきさんをアゲる・・・ためか、こちらにウィンクを飛ばしてくる優輝さん。


「え、ええ。じゃあ、やりましょう!」


 立候補しちゃったし、貴重な体験だし! やりましょうとも!


 というわけで、ざぶざぶと、ふとももあたりまで水に浸かります。


「先手、神奈さんで」


「は……はい。ええと、どうすればいいのかな? そーれ!」


 ここは控えめに……ちゃぱっと!


「あはっ! やったな、こいつぅ~!」


 お返しが飛んでくる。わっぷ!


 一度始めると、恥ずかしさも遠慮も吹っ飛んでしまい、青春気分を謳歌。


 それにしても……優輝さん、ほんとかっこいいな。背が高くて、スレンダーで、マニッシュで。


 ……やだ、ちょっとドキッとしちゃった。やっぱり私って、そっち・・・なのかしら?  うにゅう。


 でも、ほんとに「女が見てかっこいいと思う女」な外見なのよね。性格も快活だし、リーダーシップもあるし。……映画の趣味だけは、残念だけど。


 彼女につい見惚れながら、和気あいあいと水かけ遊びを楽しむのでした。



 ◆ ◆ ◆



「ふう、さすがに疲れましたね……わぷ!」


「あ、すみません」


 水かけを中断して直立した彼女に、不意打ちをする形になってしまった。


「いえいえ。じゃあ、十分楽しんだし、子供たちの相手をしましょうか。久美さんたちに任せっぱなしも、なんですしね」


「ですね」


 さつきさんと由香里さんのペアも、そろそろ上がるようです。


「いやー、念願叶って楽しかったです。また今度、やりましょう」


 優輝さんの笑顔が眩しい。ほんと、イケメンだなあ……。


「はい。また来たいですね」


 海から上がり、アメリたちを探すと……三人で、立派なお城を造ってました。しかも、西洋のじゃなく、姫路城! クロちゃん……。


「上手だねえ」


 チョイスはともかく、実際上手なので称賛する。


「おかえりなさい。クロちゃん、器用ですねえ。結構な部分を、彼女が造ったんですよ」


 へー。そりゃすごい。


「良夫さんはどちらに?」


「みんなにジュース買いに、売店まで走ってくれてます。猫崎さんのぶんも、ありますよ」


「ありがとうございます。アメリの面倒を、見ていただいただけでなく……」


 ご厚意に、お礼を述べる。


「気になさらないでください」


 温厚に、微笑む彼女。


「あ、噂をすれば」


 良夫さんが重そうな袋を両手に下げ、こちらに戻ってくるのが見えました。



 ◆ ◆ ◆



「白部さん、どうぞ。まりあさんも、飲めそうですか?」


「ありがとうございます。宇多野さん、寝ちゃってますね。脱水を起こさないよう気をつけながら、引き続き様子を見ます」


 スポドリと、まりあさん用の予備のスポドリを受け取り、再び介抱に戻る白部さん。


 手の空いてるメンバーで、飲み物を配り歩いています。残念ながら、マスペはなかったようで。がっくし。


 でも、ご厚意のいただきものだしね。美味しく飲みましょう。


 お城の仕上げに入っているアメリたちのそばに腰掛け、コーラをいただく。


「みんなのぶんも、あるからね」


 「はーい」と三重奏が返ってくる。


 だいぶ、陽も傾いてきた。そろそろ引き上げどきか。


「できた!」


 クロちゃんが宣言したので、姫路城と三人をパシャリ。ほかにも、アメリの写真を記念にいくつも撮っておく。


「そろそろ引き上げますか? もう少し遊んでいたいという方は」


 優輝さんが決を採るも、みんな心残りはないようだ。


「じゃあ、帰りますか。また来年!」


 海にビッと人差し指と中指を立て、キメる彼女。子供たちも、「またねー」と、海に別れを告げる。


 また一つ、人生の思い出のページが増えた。



 ◆ ◆ ◆



 疲労につき、事故に気をつけながらなんとか近井家まで戻ってきました。


「ありがとうございました」


 ご夫妻と、ともちゃんにお礼を述べられた後、帰宅。


「ただいま~」


 二人とも、へろへろです。軽くシャワーを浴び、夕食もサンドイッチで済ませ、早めに就寝するのでした。

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