「あ!」
かくてるハウスでティーパーティー中。白部さんの唐突な叫びに、キョトンとする我々一同。
「あの……お茶かお菓子に、なにか不備が……?」
お茶菓子を用意した由香里さんが、心配そうに尋ねる。
「あ、いえ。そうではないんです。ひろ姉の誕生日が、もうすぐなんですよ。私もひろ姉も、ここ数年忙しかったですから、私が比較的時間が自由になったので、なにかお祝いしてあげたいなあと」
ひろ姉とは、私たちの娘の主治医、松戸博子先生のこと。白部さんは、従姉妹である彼女を、この愛称で、親しみを込めて呼んでいる。
「ちなみに、いつなんでしょうか?」
気になるので、尋ねてみる。
「今月の末なんですよ」
なんと、間近じゃないですか!
「もっと早く思い出せば良かったなー。まだ、何も準備していません……」
「ちなみに、先生お住まいは、近くなんでしょうか?」
今度は、優輝さんからの質問。
「はい。医院のすぐ近くに住んでます」
「でしたら、ここで誕生パーティー開きませんか!? パーッといきましょうよ!」
出ました、イベント大好きガールモード!
「なんだか、悪いですね」
「いえいえ。松戸両先生には、あたしとミケもお世話になっていますから」
「お気遣い、ありがとうございます。では、今晩にでも打診してみますね」
優輝さんの性格を掴んでいる白部さん、ご厚意に甘えることにしたようです。あとは、松戸先生ご自身のご意向だけど、どうなるかしらね?
◆ ◆ ◆
お茶会も終わり、夜九時少し前。アメリも、そろそろおねむの時間だなあと照明を消そうとすると、LIZEに着信が。
はて、何ごとでしょーとチャットを見てみると、「こんばんは。ひろ姉、『ぜひ、よろしくお願いします』とのことです!」と、白部さんのメッセージが。おお、良き哉良き哉。
「アメリー。松戸先生がお誕生日なのは、さっき話したでしょう? 誕生パーティーにご出席なさるって!」
「おおー!」
パジャマに着替えた愛娘が、喜びと驚きが混じったような表情をする。
「というわけで、先生の好きな物訊いておくから、明日教えるね。じゃあ、おやすみ~」
額にキスして、頭を撫でる。ちょっと、ファミリーものの洋ドラみたいね。ふふ。
では、我が子の就寝の邪魔をしても悪いし、リビングでチャットしますか。
「こんばんは。松戸先生の誕生祝い、盛り上げたいですね!」
なんて、ノリが優輝さんみたいね。
「ですです。博子先生、何を贈ったら喜ばれるでしょう?」
あ、訊こうと思ったら、優輝さんに先越されちゃった。さすが、判断が早い。
「ひろ姉の好きなものというと……マスカット、絵本ですね」
「絵本ですか。その、失礼ですが、ほかにご趣味はないのでしょうか?」
意外。
「医者一族ですからね、無趣味なんですよ。ただ、ひろ姉も叔母さんの跡を継いで、小児科医にもなるつもりでしたから、子供の気持ちを理解したいという方便で、絵本を読むのは特に禁じられていなかったようで、その名残りですね」
「ほほー」とか、「へー」と返す一同。
「うちらで絵本といったら、もう、まりあさんのご作品一択っすよね」
「わたしの作品で、お役に立てるのでしたら」
さつきさんの提案に、照れ猫スタンプで返す彼女。
「じゃあ、近々駅前に買いに行きましょう!」
と、優輝さんの鶴の一声で、おなじみ「麗文堂」さんに、買いに行くことになりました。
◆ ◆ ◆
「なんだか、自分の本を買うって、変な気分ですね」
当日。麗文堂さんなう。
まりあさんが、照れた表情で「くろねこクロのたび」最新刊を手に取る。作家って、編集部から献本もらいますものね。
「わかります。私は、『うどんのめがみさま』にしようかな」
旧作だけど、いいものはいいのです。
こうして、各自被らないように買っていく。子供たちのお小遣いでは絵本は高いので、合同で「新・あめりにっき」一巻を買いました。照れくさいな。
各自、ついでだからと、個人的に買いたい本も買っています。
せっかくなので、真横の喫茶店で休憩。半端に四時で、食事どきじゃないのですねえ。
おしゃべりと飲食を愉しんだあとは、「桜京ストア」で買い物を済ませ、帰途につくのでした。
◆ ◆ ◆
「本日は、お招きに上がり、ありがとうございます!」
当日。キッチンで深々とお辞儀する松戸先生。
「ええと、お酒は大丈夫ですか?」
優輝さんが尋ねる。
「はい。今日はオフですし、バスで来ましたから。ルリちゃん、誘ってくれてありがとうね。皆さんにも、心よりお礼申し上げます」
うーん。白部さん以外には、ちょっと態度固いな。まあ、プライベートで私たちと会うの、初めてですものね。
「では、マスカットがお好きということで、マスカットの白ワインをご用意させていただきました」
サーブする久美さん。彼女も上下関係にうるさいから、年上の松戸先生には敬語。普段からは想像つかないね。……失礼か。
一方、由香里さんは、ケーキにろうそくを立てていく。そして、点火。
「では先生、お願いします」
優輝さんに促され、先生が火を吹き消すと、「お誕生日、おめでとうございます!」の合唱と、拍手が響き渡る。照れくさそうな彼女。
さっそく、マスカットがちょこんと載ったケーキが、切り分けられていく。中にももちろん、マスカット。
そして、先生の音頭取りで「いただきます」とフォークを入れる。
「美味しいです!」
由香里さんお手製のケーキに、感激する主賓。「ありがとうございます」と微笑むパティシエール。
「お酒も、美味しいです!」
こちらにも、舌鼓。ソムリエールも、「ありがとうございます」と返す。ほんと、いつもの感じと違って、ちょっと調子狂うなと、内心苦笑。
ちなみに、下戸組と子供は、マスカットジュース。
ケーキを堪能したあとは、優輝さんのピザが「マスカットは、さすがに入ってなくて恐縮ですけど」と、振る舞われ、こちらも好評でした。
◆ ◆ ◆
そして、プレゼントのお渡し会。
「全員本なので、重くなって、申し訳ないですけれど」
と、ホストである優輝さんから手渡していく。
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「みんな、こちらの宇多野さんのご作品なんですよ。子供たちの漫画は、猫崎さんのご作品で」
「それは、楽しみですね」
白部さんの解説を聞きながら、微笑みつつ受け取っていく先生。
こうして最後に子供たちから、新・あめりにっきが手渡され、一同拍手。
「ありがとうございます。一生思い出に残る誕生会となりました」
涙ぐんでしまう彼女。
あとは、バスが来る時間まで談笑し、いろいろと貴重な医学話を聞くことができました。
そして、到着時刻が近づいたので、一同でバス停までお見送り。
「今日は、本当にありがとうございました」
深々とお辞儀する先生に、私たちもお辞儀で返す。
まもなく、市のマイクロバスがやってきたので、みんなで手を振って送る。彼女も再度お辞儀し、バスは駅に向かっていきました。
今回も、楽しい誕生会だったな。いつものご恩返しができたようで、晴れやかな気分! 良き哉良き哉。
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