神奈さんとアメリちゃん

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おまけ編・その十八 ハッピーバースデー! 松戸先生!

公開日時: 2022年6月11日(土) 21:01
更新日時: 2022年6月13日(月) 15:42
文字数:2,815

「あ!」


 かくてるハウスでティーパーティー中。白部さんの唐突な叫びに、キョトンとする我々一同。


「あの……お茶かお菓子に、なにか不備が……?」


 お茶菓子を用意した由香里さんが、心配そうに尋ねる。


「あ、いえ。そうではないんです。ひろねえの誕生日が、もうすぐなんですよ。私もひろ姉も、ここ数年忙しかったですから、私が比較的時間が自由になったので、なにかお祝いしてあげたいなあと」


 ひろ姉とは、私たちの娘の主治医、松戸博子まつど・ひろこ先生のこと。白部さんは、従姉妹である彼女を、この愛称で、親しみを込めて呼んでいる。


「ちなみに、いつなんでしょうか?」


 気になるので、尋ねてみる。


今月九月の末なんですよ」


 なんと、間近じゃないですか!


「もっと早く思い出せば良かったなー。まだ、何も準備していません……」


「ちなみに、先生お住まいは、近くなんでしょうか?」


 今度は、優輝さんからの質問。


「はい。医院のすぐ近くに住んでます」


「でしたら、ここで誕生パーティー開きませんか!? パーッといきましょうよ!」


 出ました、イベント大好きガールモード!


「なんだか、悪いですね」


「いえいえ。松戸両先生母娘には、あたしとミケもお世話になっていますから」


「お気遣い、ありがとうございます。では、今晩にでも打診してみますね」


 優輝さんの性格を掴んでいる白部さん、ご厚意に甘えることにしたようです。あとは、松戸先生ご自身のご意向だけど、どうなるかしらね?



 ◆ ◆ ◆



 お茶会も終わり、夜九時少し前。アメリも、そろそろおねむの時間だなあと照明を消そうとすると、LIZEに着信が。


 はて、何ごとでしょーとチャットを見てみると、「こんばんは。ひろ姉、『ぜひ、よろしくお願いします』とのことです!」と、白部さんのメッセージが。おお、良きかな良きかな


「アメリー。松戸先生がお誕生日なのは、さっき話したでしょう? 誕生パーティーにご出席なさるって!」


「おおー!」


 パジャマに着替えた愛娘が、喜びと驚きが混じったような表情をする。


「というわけで、先生の好きな物訊いておくから、明日教えるね。じゃあ、おやすみ~」


 額にキスして、頭を撫でる。ちょっと、ファミリーものの洋ドラみたいね。ふふ。


 では、我が子の就寝の邪魔をしても悪いし、リビングでチャットしますか。


「こんばんは。松戸先生の誕生祝い、盛り上げたいですね!」


 なんて、ノリが優輝さんみたいね。


「ですです。博子先生、何を贈ったら喜ばれるでしょう?」


 あ、訊こうと思ったら、優輝さんに先越されちゃった。さすが、判断が早い。


「ひろ姉の好きなものというと……マスカット、絵本ですね」


「絵本ですか。その、失礼ですが、ほかにご趣味はないのでしょうか?」


 意外。


「医者一族ですからね、無趣味なんですよ。ただ、ひろ姉も叔母さんの跡を継いで、小児科医にもなるつもりでしたから、子供の気持ちを理解したいという方便で、絵本を読むのは特に禁じられていなかったようで、その名残りですね」


 「ほほー」とか、「へー」と返す一同。


「うちらで絵本といったら、もう、まりあさんのご作品一択っすよね」


「わたしの作品で、お役に立てるのでしたら」


 さつきさんの提案に、照れ猫スタンプで返す彼女。


「じゃあ、近々駅前に買いに行きましょう!」


 と、優輝さんの鶴の一声で、おなじみ「麗文堂本屋」さんに、買いに行くことになりました。



 ◆ ◆ ◆



「なんだか、自分の本を買うって、変な気分ですね」


 当日。麗文堂さんなう。


 まりあさんが、照れた表情で「くろねこクロのたび」最新刊を手に取る。作家って、編集部から献本もらいますものね。


「わかります。私は、『うどんのめがみさま』にしようかな」


 旧作だけど、いいものはいいのです。


 こうして、各自被らないように買っていく。子供たちのお小遣いでは絵本は高いので、合同で「新・あめりにっき」一巻を買いました。照れくさいな。


 各自、ついでだからと、個人的に買いたい本も買っています。


 せっかくなので、真横の喫茶店で休憩。半端に四時で、食事どきじゃないのですねえ。


 おしゃべりと飲食を愉しんだあとは、「桜京ストアスーパー」で買い物を済ませ、帰途につくのでした。



 ◆ ◆ ◆



「本日は、お招きに上がり、ありがとうございます!」


 当日。キッチンで深々とお辞儀する松戸先生。


「ええと、お酒は大丈夫ですか?」


 優輝さんが尋ねる。


「はい。今日はオフですし、バスで来ましたから。ルリちゃん、誘ってくれてありがとうね。皆さんにも、心よりお礼申し上げます」


 うーん。白部さん以外には、ちょっと態度固いな。まあ、プライベートで私たちと会うの、初めてですものね。


「では、マスカットがお好きということで、マスカットの白ワインをご用意させていただきました」


 サーブする久美さん。彼女も上下関係にうるさいから、年上の松戸先生には敬語。普段からは想像つかないね。……失礼か。


 一方、由香里さんは、ケーキにろうそくを立てていく。そして、点火。


「では先生、お願いします」


 優輝さんに促され、先生が火を吹き消すと、「お誕生日、おめでとうございます!」の合唱と、拍手が響き渡る。照れくさそうな彼女。


 さっそく、マスカットがちょこんと載ったケーキが、切り分けられていく。中にももちろん、マスカット。


 そして、先生の音頭取りで「いただきます」とフォークを入れる。


「美味しいです!」


 由香里さんお手製のケーキに、感激する主賓。「ありがとうございます」と微笑むパティシエール。


「お酒も、美味しいです!」


 こちらにも、舌鼓。ソムリエールも、「ありがとうございます」と返す。ほんと、いつもの感じと違って、ちょっと調子狂うなと、内心苦笑。


 ちなみに、下戸組と子供は、マスカットジュース。


 ケーキを堪能したあとは、優輝さんのピザが「マスカットは、さすがに入ってなくて恐縮ですけど」と、振る舞われ、こちらも好評でした。



 ◆ ◆ ◆



 そして、プレゼントのお渡し会。


「全員本なので、重くなって、申し訳ないですけれど」


 と、ホストである優輝さんから手渡していく。


「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」


「みんな、こちらの宇多野さんのご作品なんですよ。子供たちの漫画は、猫崎さんのご作品で」


「それは、楽しみですね」


 白部さんの解説を聞きながら、微笑みつつ受け取っていく先生。


 こうして最後に子供たちから、新・あめりにっきが手渡され、一同拍手。


「ありがとうございます。一生思い出に残る誕生会となりました」


 涙ぐんでしまう彼女。


 あとは、バスが来る時間まで談笑し、いろいろと貴重な医学話を聞くことができました。


 そして、到着時刻が近づいたので、一同でバス停までお見送り。


「今日は、本当にありがとうございました」


 深々とお辞儀する先生に、私たちもお辞儀で返す。


 まもなく、市のマイクロバスがやってきたので、みんなで手を振って送る。彼女も再度お辞儀し、バスは駅に向かっていきました。


 今回も、楽しい誕生会だったな。いつものご恩返しができたようで、晴れやかな気分! 良きかな良きかな

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