「おお~。これがプロ漫画家さんの仕事場っすか。やっぱり本棚は猫とファッションの資料が多いっすね。あと、漫画も」
「はい。他には、建築とか家具の資料なんかも細々と」
アメリみたいに感心する松平さん。ながらでいいと事前に許可をいただいているので、失礼ではあるけれど、背を向けてPCと向き合いつつお話。
「自分も同人誌で漫画は描いたことあるっすけど、やっぱプロの漫画家さんにはかなわないなあって感じるんすよ。やっぱ、プロならではのコツとかあるんすか?」
「ええ、ありますよ。最適なコマ数とか、コマ割りとか、視線誘導とか……色々勉強しました」
「なるほど……。漫画家とイラストレーターって、似てるようで要求スキル違うんすねえ……」
「すみません。そのままで構いませんので、お写真いいですか?」
木下さんの声だ。
「はい。どうぞ」
フラッシュらしき光と、シャッター音が何度か起きる。
「じゃあ、あたしからも質問を。担当さんとはどんな感じでやり取りしてるんですか?」
「私は、『ねこきっく』の月刊連載と、増刊号の読み切りを年に一度ぐらいのペースで抱えてます。編集部は一緒なので、担当さんも一人ですね。今の担当さんは二代目にあたります。作家さんによって方法が異なるんですけど、私の場合はまず文章でのプロットを見せて、第一段階の可・不可の判断をいただいていますね。このときは直接会って打ち合わせます」
なるほどなるほどと、角照さんの声。キータイプ音が聞こえる。そういえば、角照さん何か箱みたいのを持ってたな……?
「すみません、それなんですか? ノートPCにしては小さいですけど」
どうにも気になって、椅子ごと後ろを振り返りると、先ほどの箱のようなものが展開されてノートPCっぽいものになっている。
「ああ、これですか? 『パミラ』っていって、小型のワープロみたいなもんですね。外で作業したいとき使うんです」
ワープロとか、懐かしい響きだなあ。お父さんが昔持ってたっけ。
「ありがとうございます。そういうのがあるんですね。私も勉強になりました。質問しておいてなんですけど、失礼ながら仕事に戻らせていただきますね」
再度PCのほうを向き、仕事を再開する。
「ええと、どこまでいったっけ……。ああ、プロットですね。ネームっていうのはいつ描くんですか?」
「プロットにGOサインが出たら、まず一作ぶん描いてファイルで送って打診します。一発で通ることもあれば、かなりリテイク要求されたりと結果はまちまちです。返事はだいたい電話かLIZEですけど、話がうまく伝わらないときは、直接会って打ち合わせすることもありますね。ネームにかかる時間は早いと二日、リテイクが多くて長引くと四日ぐらいかかります」
「ネームが通った後はどう進むんでしょうか?」
「下書きです。ラフと呼ばれるものですね。下書きはだいたい五日で終わります」
三人の、「なるほどー」とか「参考になります」という声が聞こえてくる。
「あの、よろしければなんですけど、ネームと下書きって見せていただくわけにはいきませんか?」
木下さんの声。
「後で良ければ、過去作のをファイルで送ってお見せしますよ」
「ありがとうございます!」
声の感じからすると、後ろで深々と頭を下げているようだ。
「それで、下書きから先はどんな感じになるんでしょうか?」
この声は角照さん。
「ペン入れ……本格的な執筆ですね。これは、アシさんと細かく打ち合わせながら完成させていきます。所要期間は大体二週間弱ぐらいですね。自慢っぽくなってしまいますけど、筆は早いほうなので、今までお話しした見積もりより早く完成することが結構あります。いわゆる、原稿を落としたことは一度もないです」
「ありがとうございます。大変貴重なお話を伺えました」
「いえいえ。ゲーム作りのご参考になれば幸いです」
こちらの仕事も一段落ついたので、肩をもみながらくるりと椅子を向ける。
「あ、もう一時半手前ですね……。夢中で気づかなかったです」
「もうそんな時刻ですか。私も、時が経つのを忘れてました」
角照さんがスマホで時刻に気付き、四人で苦笑。みんな、熱中すると時間を忘れるタイプみたいだ。
「さすがにお腹が空きましたね。何かご用意しましょうか?」
「いやあ、そんな。取材までさせていただいたのに悪いですよ。あ、ちょっとすみません。久美さんからメール来てますね」
スマホを操作する角照さん。どうやら私に気を使って、さっきの時刻確認まで電源を落としていた模様。ほかの二人もそうなんだろうな。
「あー、食事どうするかって話みたいです。だいぶ待たせちゃったなあ……。そうだ、うちでピザ食べていきませんか?」
「ええ!? こないだご馳走になったばかりなのに悪いですよ!」
「そう言わずに。みんなでピザパーティーといきましょうよ! 今度は取材のお礼です!」
ははあ。パーティーの類が好きなのね。景気いいタイプというか。どうも、こう厚意でグイグイ推されると断りづらいな……。
「では、ご厚意に甘えさせていただきます」
「そう来なくっちゃ! あ、でもこないだみたいな遠慮はなしですよ。猫崎さん、鶏肉しか食べてなかったでしょう。ビールも最初の一杯だけだし。こういうのは、楽しくやらないと!」
ウィンクしてサムズアップする角照さん。いやはや、本当に気風のいいお姉さんだこと。
では、ありがたくゴチになりましょうか。
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