神奈さんとアメリちゃん

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第四百三十話 気を取り直して、楽しく!

公開日時: 2021年12月9日(木) 21:01
更新日時: 2021年12月10日(金) 18:52
文字数:2,171

「白部センセー、これ合ってる?」


 休憩も終わり、仕事に励んでいると、ミケちゃんの元気な声が聞こえてきました。良かった、もう引きずってないみたいだね。良きかな良きかな


「えーと……? うん、うん……。惜しいなー『達』のつくり・・・は『幸』じゃなくて、もう一本横棒が入るのよ」


「むう……。漢字は漢字で、ムズカシーわね……」


 ほうほう、漢字のテストですか。


「ミケ、頑張って。ボクも算数あまり得意じゃないけど、頑張ってるから」


 励ますクロちゃん。彼女は算数より漢字を優先しているため、まだ分数をやっているらしい。


「ルリ姉ー。割り算、合ってるかー?」


「はーい、見せてねー。……うん、ほぼ正解。一問だけ間違ってるかな。ここは、3だよ」


「おのれー、ブンレッツ!」


 分裂怪人に闘志を燃やすノーラちゃん。でも、頭が沸騰しそうとか言ってたのが、一問ミスまできたのか。好きこそものの上手なれとは、よくいったものです。


 なんだか、私もみんなに勉強教えたくなってきちゃった。でも、ガマンガマン。お仕事サボると、真留さんに迷惑かけちゃうからね。


 すると、インタホンが鳴りました。はて、どなたでしょ?


「どもー、こんにちは。あたしです。陣中見舞いと、差し入れに来ました~」


 応対すると、優輝さんでした。


「あら、ありがとうございます。今、そちらに行きますね」


 というわけで、門へ。雨の中、傘を差した優輝さんが立っていました。


「こんにちは」


「こんにちは。これ、由香里が焼いてくれました。アップルパイです」


 ケーキ用の箱を掲げる彼女。まだ温かいからラップせずに持ってきたってところかな? しかし、こういうのも持ってらっしゃるのね。


「ありがとうございます。みんなでいただきますね」


「ミケ、調子はどうですか?」


 一瞬、返答に詰まる。さっきのこと、無理に話す必要はないかな。


「……あー、いい感じにやってますよ」


 すると優輝さん、ため息を吐いてうつむくじゃないですか。


「ご迷惑かけてしまいましたか。すみません」


 参ったな。一瞬返答に詰まっただけで、見抜かれてしまった。こうなったら、正直に言おう。


「実は……」


 かくかくしかじか。


「でも、今はちゃんといい意味で反省しあって、楽しくやってますよ」


「それを聞いて、安心しました。あの子もどうにも、『お姉さん』さんとしてのプライドが、空回りするケがありますからねー」


 安心したとおっしゃいつつも、我が子の悪癖に、やれやれといった具合に首を横に振る彼女。


「後で、あたしからもきちんと言い聞かせます。あ、お仕事中に長話させてしまってすみません。せっかくのパイも、冷めちゃいますしね。では、あたしはこれで」


「はい。そちらも、お仕事頑張ってください」


 互いにお辞儀し、お隣に消えていく彼女を見送る。では、さっそくいただくとしましょうか。



 ◆ ◆ ◆



「はーい、みんなー。優輝さんからの差し入れでーす。由香里さんの手作りだよー」


 切り分けたパイと紅茶を持って、寝室へ。五人が喜びの声でお礼を言う。


「角照さんと木下さんに、後でお礼言わないとですね。アップルパイとか、なんだか私のために焼いていただいたみたいで、恐縮です」


 恐縮と言いつつも、顔をほころばせる白部さん。ほんとにリンゴがお好きなのねえ。


 というわけで、さっきの休憩からそれほど時間が経ってないけど、休憩タイム。私もご一緒しましょう。


「ねー、アメリ。なんでそんなに、勉強を楽しくできるの?」


 すっかりわだかまりが解けたミケちゃん、アメリが楽しそうに勉強するのが不思議なようで、尋ねます。たしかに、こんなに楽しそうに勉強する子って、見たことないな。


「おお? あのね、知らなかったことがわかるようになるの! それがすごく楽しいの!」


 キラキラ瞳を輝かせる愛娘。


「その気持ち、ボクもちょっとわかるな。将棋で、今まで知らなかった手筋とか戦法を覚えるの楽しいから」


 クロちゃんもノッてくる。


「ノーラも、こないだとか今日とか、楽しそうに勉強してるわよね。その怪人の切り抜きのおかげ?」


「そーだな! ブンレッツとの戦いだと思ったら、割り算がすごく楽しくなった!」


 「ふーん」と、感心してるんだか興味ないんだか、わからないような声を出すミケちゃん。


「ミケにも、そういうのがあればなあ。千多せんたちゃんが、小数の歌でも歌ってくれないかしら」


 ぼやきながら、アップルパイをもぐもぐ。


「それ、いいんじゃない!?」


「ふぇ?」


 唐突に明るい声を出す私に、ミケちゃんが怪訝な顔をする。


「だからね、千多ちゃんが小数について歌うっていうストーリー歌詞の歌。久美さんに提案してみたらどうかな?」


「あー。それ、面白いかも! 帰ったら、久美に相談してみる!」


 興味が湧いたようで、しっぽがピンと立つ。


 難題だった、ミケちゃんの勉強ソングにも、一筋の光明が見えました。良きかな良きかな


「でも、とりあえず今日は漢字頑張るわ。『達』間違えたの、悔しいもの」


 ふんすと鼻息が荒い。彼女のプライドの高さは、こういう方向に出るといい感じになる。何ごとも、良い面と悪い面があるね。


 白部さんが静かだなと思ってそちらを見ると、恍惚の表情でパイを食んでました。ほんっとーにリンゴお好きなんですね……。


 そんなこんなで休憩も終わり、勉強再開。私は、お仕事再開です。ミケちゃんの様子をちらりと見ると、俄然やる気を見せて問題用紙に取り組んでます。頑張れー! 応援してるよ!

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