う~ん……。
うう~ん……。
筆が進まない!
ダメダメだわ、私……。ここまで、アメリがいないと描けなくなっていたなんて。
ミケちゃんと歌謡コンのレッスンしてた頃は割と耐えられてた気がするんだけど、依存症が進んでるのかしら……。深刻ね。
頑張れ神奈! 負けるな神奈! えい、えい、むん!
かりかり。かりかり。
ふう。本調子ではないけれど、なんとか描けてはいるかな。そうよ、いつかアメリも私と距離を置く時期が来る。これはその予行演習!
「ピンポーン」
む!? インタホンが! アメリ!? アメリが帰ってきたのね!? 早い帰りだけど、寂しくなっちゃったのかしら、ふふ。
「アメリー、おかえりー!」
「あ、いえ。朝読新聞です。よければうちの……」
あうう、新聞の勧誘じゃなーい!
「すみません、すでに別の新聞を取っているので」
新聞なんか取ってないけど、こう言うと割とスムーズに帰ってくれるのよね。
「わかりました」
ふう、お仕事再開。
◆ ◆ ◆
う~……!
うう~……!
もう我慢できなぁい!
着替えとメイクを再度済ませ、お隣へ出陣!
インタホンポチー。
「お? 神奈サンじゃない。こんちは。どったん?」
久美さんの声だ。
「こんにちは。それがその、ええと……アメリの様子が気になりまして。よろしければ、お邪魔してもよろしいでしょうか……?」
「別に構わんよ。ドアは開いてるからどーぞ」
がしゃんと門のロックが外れるので、そのまま前庭を抜け、邸内にお邪魔する。
「こんにちはー……お邪魔します~」
いそいそとリビングにお邪魔すると、愛しのアメリが久美さん、ミケちゃんと「JANGO」をしていました!
「アメリー!!」
思わず駆け寄り、頬ずり。
「神奈おねーさん、こんにちは……」
私の尋常ではない様子に気圧されたミケちゃんが、引き気味に挨拶してくる。
「あ……こほん。こんにちは、ミケちゃん」
「ははーん。アメ子に会えないのが寂しくて、来ちゃったってとこかな」
久美さんの、鋭すぎる指摘にぎくり。
「はい、その……。お恥ずかしい話ですが、その通りでして……」
人差し指同士をつんつん突き合わせ、恐縮する。
「あはは。子煩悩だねー。でも、気持ちわかるよ。ちびっこたち、可愛いもんなー」
アメリのほっぺを人差し指でつんつんする久美さん。
むう、アメリのほっぺつんつん取られちゃった……。
「おお~。おねーちゃん、アメリに会いに来てくれたんだ! 嬉しい!」
ぎゅっと抱きしめられる。うふふ、甘えんぼさんなんだから~も~。
「顔がとろけてるぜー、神奈サン。ところで、一緒にどう?」
JANGOを指差す久美さん。
「そうですね。せっかくですから、ご一緒させていただきます」
というわけで、ゲームの輪に混ざる。むう、つい真剣になっちゃうわね。
で、アメリがラスト付近になるとなぜか強気になって、一気に引き抜いてどんがらがっしゃん。うーん、以前久美さんが仰っていた通りだわ……。
まあ、当のアメリは楽しそうだからいいけど。
「そういえば、ほかの皆さんはどちらに?」
「ん? ふつーに仕事。ウチだけ今の段階だとやることなくてね。ちょうどいいってんで、ちびっこたちの相手してたんよ」
なるほど。
「あ、そういえば神奈サン来ると思ってなかったから、もうバウムクーヘンみんなで食っちゃったわ。悪ぃ」
「ああ、気になさらないでください。皆さんに召し上がっていただくために買ってきたものですし」
「代わりと言っちゃ何だけど、マスペ取ってくるわ」
「ありがとうございます」
JANGOは小休止となり、裸足の久美さんがぺたぺたとキッチンへ向かう。そういえば、彼女が自宅で靴下とかスリッパ履いてるの、パ-ティー以外で見たことないな。いつも私よろしくスウェットだし。
「ミケちゃんは、自転車どんな感じ?」
所在ないので、彼女に話しかけてみる。
「ええと、うん、ジュンチョーよ! 近い内に、補助輪外せちゃうわ!」
おなじみドヤ顔胸反らしだけど、ちょっと声と表情がこわばっている。
「焦らなくていいからね。優輝さんも、多分そう仰ってるでしょう?」
「うう……。だって、妹に先を越されてるなんて、悔しいじゃない……」
しゅんとしてしまう。うーん、相変わらずプライドが高いことで。
ところで、やっぱりアメリってそばにいてくれるだけで落ち着くんだなあ。特におしゃべりしなくても、焦燥感というか何というか、ダメダメモードが一発解除されてしまった。
「おまたー」
「ありがとうございます」
久美さんがボトルと氷入りグラスを手に戻られたので、ありがたく受け取る。
その後、JANGOをプレイしながら、たまに階下に降りてくるほかのかくてるの皆さんともご挨拶を交わし、夕方まで遊んでしまいました。
「そろそろお暇しましょうか」
「おお? もう?」
「うん。ほら、もうこんな時間」
五時に差し掛かりそうなのでアメリに話しかけ、リビングの時計を指差す。
「今日は、アメリの面倒を見ていただいてありがとうございました。マスペもごちそうさまでした」
「こちらこそ、美味しいバウムクーヘンどーもごちそうさま。じゃ、二人とも元気でな!」
玄関口まで見送られ、互いにお辞儀する。
「ミケー、また遊ぼーねー!」
「ええ、元気なときにダンス対決しましょ」
ミケちゃんとも別れを告げ、自宅へと戻るのでした。
さーて、今晩は何作ろっかなー。仕事もさぼっちゃったし、きっちり取り戻さないと!
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