「ありゃ」
お醤油を入れ替えようとして、困ったことに気がついた。
替えがない。
しまったな。うっかり買い忘れてたか。
アメリにお手軽朝食メニューも色々教え終わって、今日は一緒にお昼ごはん作ってるわけだけども。
とりあえず、一旦コンロの火を止める。
どうしようかな。お隣さんか白部さんから、今回ぶんだけ借りてくるのも手だけど。
……む! ひらめきましたよ!
「アメリちゃん」
「おお?」
背後でおネギを切っていたアメリに、声をかける。
「いつものスーパーに行く途中に、コンビニがあるでしょう。あそこで、これと同じお醤油買ってきてもらえませんか?」
スマホでボトルの写真を見せる。
「おお~、いいよー! 行ってくるー!」
「ありがと-。それじゃあ、五百円。おつりとレシート、もらってきてね。あと、お駄賃ってことで、『うめえ棒』一本買っていいよ」
「おおー! うめえ棒! 行ってくるー!」
お金をポッケに入れて、ビニール袋片手に玄関に向かうアメリちゃん。
「あ、待って。門まで送るから!」
ぱたぱたと、後をついていくのでした。
◆ ◆ ◆
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
今回考えがあって、自転車ではなく、歩きで行くようお願いしています。
愛娘の姿が、小さくなっていく。ミッション・「はじめてのおつかい」発動です!
しかーし!
私だって一人の親。初めてお使いに向かう娘を、一人きりで送り出しはしません。
見失わないように、こっそりあとをついていきます。
アメリを信頼するのと、何かあったときのための用心は別問題。
ささっ! ささささっ!
ちょっと不審者気味に、追跡!
うん、ちゃんと赤信号で止まってますね。
コンビニまでは、歩いて五分もしない。アメリちゃんは無事に信号を渡り、入店!
さて。これで一緒に中に入ったら、あとをつけてるのがバレちゃうな。とりあえず、コンビニが見える角っこで様子見てましょう。
じーっ……。
「神奈サン、こんちわ」
「ひょえっ!?」
突然背後からポンと肩口を叩かれ、飛び上がりそうなほど驚く。
「うおっ!? 何! こっちのがびっくりすんだけど!!」
声の主は、久美さんでした。
「あ、久美さん……。こんにちはー」
ほっとしてお辞儀する。
「どーも。こんな道端で何してんの?」
「あー、実は……」
お辞儀を返してくる彼女に、かいつまんで事情を説明する。
「へー。初めてのお使いねえ」
「そういう久美さんは、ロードワークか何かですか?」
「んにゃ。うちもちょうど醤油切らしててさ、同じコンビニに買い出し頼まれたんだわ」
へー。向こうも切らしてたんだ。借りに行ってたら、空振りしてたんだなー。
「あ、そーだ神奈サン。ウチが、買い物ついでにアメ子の様子見てこようか?」
「それはありがたいですけど……。初めてのお使いミッションですしねえ」
「なーに、ちょっと挨拶して、ちゃんと買えてるかだけ見て、こっちの買い物が終わったら、後ろからついてって見守ってやんよ。神奈サンは、前のほうから様子見てるといいさね」
にかっとサムズアップする彼女。
「うーん、ではお願いしましょうか。よろしくお願いします」
「ほーい。じゃ、行ってくんね」
たったったっと、ジョギングしながらコンビニに消えていくのでした。いやー、ほんとに走るの早いな。
待つことしばし。アメリちゃんが出てきました! 赤信号で停止中。ちゃんと、ビニール袋に物が入っている。見つからないように、物陰から様子を窺う。気分は忍者!
おっと、信号が青に変わる。退避~!
行きと違って、アメリがこっち向いてるからなー。一気に門まで引くか。
門でずっと待ってたフリしていると、アメリちゃんが手を振りながらこっちにやって来るので、手を振り返す。
「ただいまー! そこでずっと待ってたの?」
「おかえり! そうだよー。どうにも気になっちゃってね。ちゃんと買えた?」
「うん! 見て!」
袋の中身と、お釣りとレシートを見せてくる。……うん、ちゃんと合ってますね。「ちゃんとできてるよー、偉いねー!」と頭を撫でると、「うにゅう」とおなじみの気抜け声。
「そうだ! 久美おねーちゃんと会ったよ!」
「そうなんだー。あ、ほら。噂をすれば」
ビニール袋片手に、ジョギングではなく、歩きでこちらに近づいて来る彼女。ついでにビールでも買ったのかな? まあ、アメリの様子見っていう目的もあるしね。どっちにしても、走って追い抜くわけにもいかないか。アメリと一緒に、手を振る。
「どーも、こんにちは。みんなを待たせてるんで、手短だけどこれで失礼すんね。買い物頑張ったな、アメ子!」
「こんにちは。アメリがお世話になったみたいで、ありがとうございます」
互いに、今初めて出くわしたかのような挨拶とお辞儀を交わす。彼女はウィンクとサムズアップをすると、お隣の門の向こうヘと消えていきました。
「じゃ、戻って続き作ろうか」
「うん!」
とてとてと、一緒にキッチンへ。
初めてのお使い、大・成・功!! アメリちゃん、偉いっ! よく頑張りました!
その後は、二人で仲良くお昼ごはんの続きを作り、美味しく食べ終わると、ごちそうさま。
なんだか、醤油がないのに気づいたときは困ったけど、結果オーライというか、幸先いい感じ。今日のお仕事も、すごくはかどりそう!
よーし、お仕事頑張るぞー!!
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