神奈さんとアメリちゃん

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第三百九十二話 はじめてのおつかい

公開日時: 2021年10月25日(月) 21:01
文字数:2,115

「ありゃ」


 お醤油を入れ替えようとして、困ったことに気がついた。


 替えがない。


 しまったな。うっかり買い忘れてたか。


 アメリにお手軽朝食メニューも色々教え終わって、今日は一緒にお昼ごはん作ってるわけだけども。


 とりあえず、一旦コンロの火を止める。


 どうしようかな。お隣さんか白部さんから、今回ぶんだけ借りてくるのも手だけど。


 ……む! ひらめきましたよ!


「アメリちゃん」


「おお?」


 背後でおネギを切っていたアメリに、声をかける。


「いつものスーパーに行く途中に、コンビニがあるでしょう。あそこで、これと同じお醤油買ってきてもらえませんか?」


 スマホでボトルの写真を見せる。


「おお~、いいよー! 行ってくるー!」


「ありがと-。それじゃあ、五百円。おつりとレシート、もらってきてね。あと、お駄賃ってことで、『うめえ棒』一本買っていいよ」


「おおー! うめえ棒! 行ってくるー!」


 お金をポッケに入れて、ビニール袋片手に玄関に向かうアメリちゃん。


「あ、待って。門まで送るから!」


 ぱたぱたと、後をついていくのでした。



 ◆ ◆ ◆



「いってきまーす!」


「いってらっしゃい」


 今回考えがあって、自転車ではなく、歩きで行くようお願いしています。


 愛娘の姿が、小さくなっていく。ミッション・「はじめてのおつかい」発動です!


 しかーし!


 私だって一人の親。初めてお使いに向かう娘を、一人きりで送り出しはしません。


 見失わないように、こっそりあとをついていきます。


 アメリを信頼するのと、何かあったときのための用心は別問題。


 ささっ! ささささっ!


 ちょっと不審者気味に、追跡!


 うん、ちゃんと赤信号で止まってますね。


 コンビニまでは、歩いて五分もしない。アメリちゃんは無事に信号を渡り、入店!


 さて。これで一緒に中に入ったら、あとをつけてるのがバレちゃうな。とりあえず、コンビニが見える角っこで様子見てましょう。


 じーっ……。


「神奈サン、こんちわ」


「ひょえっ!?」


 突然背後からポンと肩口を叩かれ、飛び上がりそうなほど驚く。


「うおっ!? 何! こっちのがびっくりすんだけど!!」


 声の主は、久美さんでした。


「あ、久美さん……。こんにちはー」


 ほっとしてお辞儀する。


「どーも。こんな道端で何してんの?」


「あー、実は……」


 お辞儀を返してくる彼女に、かいつまんで事情を説明する。


「へー。初めてのお使いねえ」


「そういう久美さんは、ロードワークか何かですか?」


「んにゃ。うちもちょうど醤油切らしててさ、同じコンビニに買い出し頼まれたんだわ」


 へー。向こうも切らしてたんだ。借りに行ってたら、空振りしてたんだなー。


「あ、そーだ神奈サン。ウチが、買い物ついでにアメ子の様子見てこようか?」


「それはありがたいですけど……。初めてのお使いミッションですしねえ」


「なーに、ちょっと挨拶して、ちゃんと買えてるかだけ見て、こっちの買い物が終わったら、後ろからついてって見守ってやんよ。神奈サンは、前のほうから様子見てるといいさね」


 にかっとサムズアップする彼女。


「うーん、ではお願いしましょうか。よろしくお願いします」


「ほーい。じゃ、行ってくんね」


 たったったっと、ジョギングしながらコンビニに消えていくのでした。いやー、ほんとに走るの早いな。


 待つことしばし。アメリちゃんが出てきました! 赤信号で停止中。ちゃんと、ビニール袋に物が入っている。見つからないように、物陰から様子をうかがう。気分は忍者!


 おっと、信号が青に変わる。退避~!


 行きと違って、アメリがこっち前方向いてるからなー。一気に門まで引くか。


 門でずっと待ってたフリしていると、アメリちゃんが手を振りながらこっちにやって来るので、手を振り返す。


「ただいまー! そこでずっと待ってたの?」


「おかえり! そうだよー。どうにも気になっちゃってね。ちゃんと買えた?」


「うん! 見て!」


 袋の中身と、お釣りとレシートを見せてくる。……うん、ちゃんと合ってますね。「ちゃんとできてるよー、偉いねー!」と頭を撫でると、「うにゅう」とおなじみの気抜け声。


「そうだ! 久美おねーちゃんと会ったよ!」


「そうなんだー。あ、ほら。噂をすれば」


 ビニール袋片手に、ジョギングではなく、歩きでこちらに近づいて来る彼女。ついでにビールでも買ったのかな? まあ、アメリの様子見っていう目的もあるしね。どっちにしても、走って追い抜くわけにもいかないか。アメリと一緒に、手を振る。


「どーも、こんにちは。みんなを待たせてるんで、手短だけどこれで失礼すんね。買い物頑張ったな、アメ子!」


「こんにちは。アメリがお世話になったみたいで、ありがとうございます」


 互いに、今初めて出くわしたかのような挨拶とお辞儀を交わす。彼女はウィンクとサムズアップをすると、お隣の門の向こうヘと消えていきました。


「じゃ、戻って続き作ろうか」


「うん!」


 とてとてと、一緒にキッチンへ。


 初めてのお使い、大・成・功!! アメリちゃん、偉いっ! よく頑張りました!


 その後は、二人で仲良くお昼ごはんの続きを作り、美味しく食べ終わると、ごちそうさま。


 なんだか、醤油がないのに気づいたときは困ったけど、結果オーライというか、幸先いい感じ。今日のお仕事も、すごくはかどりそう!


 よーし、お仕事頑張るぞー!!

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