神奈さんとアメリちゃん

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第百四十九話 お父さん、お母さん。紹介したい人がいます

公開日時: 2021年4月25日(日) 07:31
文字数:2,653

福井駅の東方にあるT町。そこ佇む五十坪の二階建ての戸建て。それが、私の実家。


「いやー、お盆以来だねー」


 車から降り、そんな我が家を見て感慨深く声を上げる。


「ねえ、神奈。いい加減その子誰なのか教えてちょうだいよ」


 お母さんは肩をすくめ、あいも変わらず困惑状態。


「んふふー。お父さんと一緒のタイミングでね。それより中に入ろう! もー、一秒でも早くこたつ入りたい!」


 そんなお母さんに、いたずらっぽい笑みを崩さない。


 もう一度肩をすくめ、お母さんがドアを開けてくれた。


「たっだいまー!」


 懐かしの我が家に入ると、大きく手を広げバンザイする。ふふ、バンザイ神奈スタンプだ!


「さ、ただいまーって言おう?」


「お、おお? ただいまー!」


 私に促され、アメリもただいまを言う。


「えー? 本当にうちの関係者なの、その子?」


 お母さんが、さらに頭に疑問符を浮かべる。


「おー、神奈おかえりー!」


 私のただいまシャウトが聞こえたのか、お父さんがリビングから顔を出してきた。


 お父さんもお母さんも、五十代半ばという歳の割にはスリムだ。その遺伝子のおかげか、マスペ飲みまくりの漫画家家業でも体重微増で済んだのはありがたいことです。


「たっだいまー、お父さーん!」


 元気に挙手!


「……って、その子誰だい!?」


 お父さんも、私の傍らに佇む謎の女の子に意識がいく。


「それじゃー、二人揃ったところで正解発表~! なんと、あのアメリちゃんでーす!」


 アメリに向かって両手を広げひらひら振ると、二人ともぽかーんとしてしまう。


「やだ、神奈。何の冗談?」


 お母さんが怪訝けげんな顔をする。


「えーい! この猫耳が目に入らぬかー!」


 アメリのキャスケットをすぽっと抜くと、猫耳がご開帳! 魂が抜けたような顔をするお父さんとお母さん。ふっふっふっ。その顔が見たかったー! いたずらっ子な娘でごめんねー。


「え? いや、付け耳……だよね?」


 お父さんが近づいてきてアメリの耳を引っ張ると、彼女が「うにゃあ!」と声を上げた。


「え? ええええっ!? お母さん、本物だよこれ!」


「嘘でしょ!? やだ、ほんとにほんとだ!」


「あー、アメリの耳あんまり引っ張らないでー。とにかく、これでQ.E.D.証明終了ってことで! 詳しい話はこたつでしましょー」


 ルンルンと、狐につままれたような様子の両親と、リビングへ行く。アメリも、物珍しそうに後をついてくる。


「おお~! 何これ!?」


 アメリがこたつにとてとてと歩み寄り、おなじみの攻撃をしてきた。


「こたつ、覚えてなーい? アメリも昔、よく入ってたんだけどなあ」


 さっそくコートを脱いで、こたつにイン。くはあ~! あたたか~い! いやー、こたつは人をダメにする魔性の機械だね!


「アメリも、こうやって入ってごらん」


「おお~! あったかい~……!」


 ふにゃふにゃモードになってしまうアメリ。ふふ、猫はこたつで丸くなるってね。


「いやー……。さすがに説明が欲しいよ、神奈」


 お父さんとお母さんもこたつに入ってきて、私を問いただす。


「かいつまんで話すとね……」


 猫アメリの死と転生、そして、世界に百人近い猫耳人間が実在することを話した。


「世間のみんなには内緒だよっ」


 脳が追いつかないのか、再びぽかーんとする両親。アメリは他人事のようにこたつでくつろいでいる。


「いやまあ、これ見たらたしかに信じないわけにはいかないけれど……」


 アメリの猫耳を撫で回すお父さん。「うにゅう」という気抜け声を上げるアメリ。


 夫婦二人で、脳の処理を現実に追いつかせようと悪戦苦闘してるようだ。


「うーん、脳がパンクしそうって感じね。まあ、アメリいい子だから、普通の子供みたいに接してちょーだい」


 にっこりと微笑み、こたつの上のみかんを剥く。


「はい、アメリ。あーん」


「あーん……美味しい!」


 そんな二人を置き去りにして、マイペースな私とアメリ。


「とりあえず、どうしようか」


 お父さんが、一足先に現実に適応したようだ。


「んー。アメリこの家での生活忘れてるっぽいんで、色々見せながら思い出話でもしてあげようかなって。まー、今はとりあえず長旅の疲れを取りたいかな」


 アメリにならって、こたつでとろける。たれかんな、なんつて。ゆるキャラと化したワ・タ・シ。


「おかーさーん、お茶ちょうだーい」


 家ではアメリの親やってる私でも、実家では子供。思いっきり親に甘える。


「もう、帰ってくると甘えんぼになるんだから……。アメリちゃんも飲む? ……って、飲ませて大丈夫かしら」


「へーきへーき。人間の飲み物食べ物全部おっけー」


 どうもこの姿で呼び捨てにするのがはばかられるのか、お母さんはちゃん付けで呼ぶことにしたらしい。


「おお~! 飲みたい!」


 しゅびっと挙手するアメリ。お母さんはそれを受け、台所へと向かう。


「で、神奈。向こうでの暮らしぶりはどうだい?」


 こほんと咳払いして、私の現状を尋ねてくるお父さん。お、だいぶ状況に順応してきましたね。


「うん、色んな人とご縁ができたよ!」


 まりあさんたち、かくてるのみなさんたち、白部さんたちとの出会いと今までの出来事を語った。


「へえ……。そりゃまた、いい人たちとご縁を結べたねえ」


「でしょでしょ? ぶどう狩り、紅葉狩り、誕生パーティー、その他もろもろ……。楽しいことばかりだったよ」


 しみじみと語る。


「逆に、お父さんたちのほうはどう?」


「うん? 相変わらずだね。仕事して、趣味のDIYに励んで。まあ、この雪じゃDIYもはかどらないけどね」


 ため息を吐くお父さん。ほぼ唯一の趣味がDIYだもんね。本棚を作ってもらって、私が東京の家のほうに置ききれなくなった漫画を、たくさん保管してもらってます。ありがたや。


「最近だと何作ったの?」


「テーブルと椅子二脚。結構いい値段で買い手がついたよ」


 お父さん、家具を作りすぎて五十坪のこの家でも置き場がなくなってきたもんだから、最近はネットで売りに出しているとのこと。趣味でやっている割には腕が良くて、結構いい評価をもらっているようだ。


 お母さんはお母さんで編み物が趣味で、こちらも売りに出して小遣い稼ぎしてる模様。


 漫画家の私といい、どうも手先が小器用な血筋らしい。


「はい、お茶」


 お母さんが戻ってきて、四人に配膳する。


「ありがと」


「お母さん。神奈はとてもいい人たちと出会えたようだよ」


 お父さんが、まりあさんたちのことを話す。


「あらー、夏になったらお中元でも贈ったほうがいいかしらねえ」


「お任せー」


 脱力モード全開でお茶をすする。はー、あったか。二つ目のみかんを剥く。


 二人とも、すっかり現実に順応したようで。


 それにしても、実家っていいもんですなあ。

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