神奈さんとアメリちゃん

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第四百二十四話 久々の宇多野家で ―後編―

公開日時: 2021年12月2日(木) 21:01
文字数:2,619

 宇多野家リビングで、楽しく談笑なう。


 まりあさんも、久しぶりに花壇の手入れができて一安心のようです。


「そういえば、まりあさんのご執筆のほうは、今どういった感じでしょうか?」


 何か書いてるというのは伺っていたけど、具体的に何を書いているのかという話は、そういえば知らなかった。


「森の魔女さんと弟子の見習い魔女さんが、街の人々のために魔法で色んな悩み事を解決していく……。そんな話を執筆中です」


 アメリと一緒に、「おお~」と声を上げる。


「あ、そうだ。先にストーリーから作ってるのですけど、魔女さんと見習いさんのデザインが今ひとつ決まらなくて。もしよろしければ、神奈さんとアメリちゃんをモデルにしてもよろしいでしょうか?」


「え、ええ~? なんだか照れくさいですねえ」


 思わず、後頭部に手を当て恐縮する。


「うーん、ダメですかー」


「あ、いえいえ! 単に照れくさいっていうだけの話で、私はOKです! アメリはどう?」


「おおー。いいよー」


 私に続き、芋羊羹を飲み込んでから快諾。


「ありがとうございます。では、モデルにさせていただきますね」


 口元に手を当て、ふふと微笑むまりあさん。


「お姉ちゃん、ボクも出たい」


「あら、じゃあお弟子さんが二人いることにしましょうね。少し、ストーリーを直さないと」


 楽しそうに緑茶を飲み、構想を膨らませていらっしゃる。彼女の中では、今どんな物語が組み上げられつつあるのだろう。


「そういえば、今更ですけど私の仕事が履けたからって、執筆活動中に伺って良かったのでしょうか?」


「そこは大丈夫ですよ。締め切りまで、余裕ありますし。長雨で、執筆以外やることのない日が続いてましたから」


 なるほど。それなら安心。


「そういえば、まりあさんって普段、どんな本を読まれるんですか?」


「本ですか? そうですねえ……。やはり同業ですから、まず絵本ですね。あ、あとは神奈さんの漫画と『ねこきっく』も、よく読ませていただいてますよ」


「ありがとうございます。ほかの漫画はあまり読まれない感じでしょうか?」


「いえ。本格的というほどではないですけど、エッセイ系のをたまに読みます」


 ほほー。


「あとは……漫画ではないですけど、自己啓発系の本やビジネス書なんかも目を通しますね」


「はー……。さすが、勉強家ですねえ」


「会社員時代の名残なんですよ。なんか、未だに習慣として残ってまして」


 そうそう、そうでした。元OLだったんですよね。


「その手の本、私なんかが読んでも、意味ありそうでしょうか?」


「知識に、無意味なものはないと思いますよ。よろしければ、比較的手軽なのをお貸ししましょうか?」


「あら、いいんですか? では、後学のために少しお借りしますね」


 ふと気づくと、アメリとクロちゃんがちょっと退屈そうだ。ちょっと大人トークに夢中になりすぎたな。


「クロちゃんは、どんな本をよく読むのかな?」


「ボクですか? お姉ちゃんの絵本以外だと、最近はもっぱら、将棋の本です。あとは、盆栽の育て方とか、日本の名勝ですとか。あ、神奈お姉さんの漫画もよく読ませてもらってます」


 買ってたねー。「日本の名勝百景」とか、陶器の本とか。


「ありがとう。アメリ、せっかくだからどんな本読んでるか、お話ししてみよう?」


「おお。教科書でしょー、あとまりあおねーちゃんの絵本でしょ、『子供の科学』とか……」


 以下、子供向け学習読本を列挙するアメリちゃん。自分で買い与えておいてなんだけど、ほんとにその手の本ばっかりね。


「アメリが勉強家なのは知ってたけど、すごいね」


 目をくりくりさせるクロちゃん。


「クロもすごいよ! 将棋とかすごく難しそうなのに、強いんでしょ!?」


「いやー。ボクなんて、まだまだだよ」


 褒め讃え合う二人。良きかな良きかな


「あ、新しい羊羹切ってきますね」


「いえ、これ以上はさすがに、カロリー摂りすぎになりますので」


「わかりました。では、新しくお茶だけれてきますね」


 お盆を手に、中座するまりあさん。


 しかし、こうやって宇多野家でゆっくり過ごすというのも、たまにはいいものだ。かくてるハウスの賑やかさも好きだけどね。


 ここ最近、働き詰めだったからなあ。


 窓の外に目をやると、松風盆栽くんや、まりあさんの育てている花々が視界に映る。


 宇多野家は、本当に二人の人柄が現れた、穏やかな空間だ。


「お待たせしました」


 ぼーっと考え事をしていると、まりあさんが戻られました。


「ありがとうございます」


 新しいお茶を配膳していただく。


「そうだ、まりあさん。近井さんという方はご印象に残っているでしょうか? アメリと一緒に砂場で遊んでくれた女の子と、そのお母さんで……」


「ああ、あの方ですね。近井さんとおっしゃるんですか」


 ソファに掛けながら、返事するまりあさん。


「はい。できれば、皆さんにもご紹介したくて。既に、優輝さんとは知己になられてます」


「そうなると、私たちもきちんとご挨拶しなければですね」


「とても良い方ですよ」


 近井さんの魅力をアピール。


「素敵な方ですね。俄然、お会いしたくなりました」


「いずれ、場を設けさせていただきますね」


「ありがとうございます。楽しみにしてます」


 微笑み、一服する彼女。


「ともちゃんっていう子、ボクともお友達になってくれるかな?」


 クロちゃんが、ちょっと不安そうにつぶやく。


「だいじょーぶだよ! アメリも、すぐ友達ちになれたもん!」


「そっか。だといいな」


 はにかむクロちゃん。あの人見知りさんが、本当に前向きになったなあ。まりあさんが彼女を、優しい眼差しで見つめる。きっと、同じことを思われたのでしょう。


 その後も話は弾み、気づけば夕刻に差し掛かろうという時間に。


「あら、もうこんな時間ですね。そろそろお暇しないと。最後に、お庭を拝見してもよろしいですか?」


「はい、ぜひ。あ、お貸しする本を選んできますね」


 というわけで、本を二冊ほどお借りした後、お庭を拝見。花壇は近くで見るとより鮮やかで、松風くんも少し大きくなって、良い枝ぶり。二人の愛の賜物だね。


「素晴らしいですねー」


 素直な感想を漏らす。生き物は、かけた手間ひまにきちんと応えてくれる。


「ありがとうございます」


「松風も、きっと喜んでます」


「今日は、本当にありがとうございました」


 深々とお辞儀すると、二人も返してくる。アメリも、慌ててお辞儀。


「では、表までお送りしますね」


「はい」


 門を出ると再度別れの挨拶を交わし、愛娘と家路をたどるのでした。


 今日は、とても穏やかな一日だったな。


 しみじみと、しみじみと。

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