神奈さんとアメリちゃん

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第二百八話 芸術の冬?

公開日時: 2021年4月29日(木) 19:01
更新日時: 2021年5月19日(水) 21:49
文字数:2,242

F市美術館は、我が家やかくてるハウスから、自転車をちょっと漕げばたどり着ける距離にある。


 駐車場代ももったいないしということで、ちょっとした運動も兼ね、十時集合と相成りました。


 待ち合わせ場所は、美術館横の駐輪場ということだけど……あ、いたいた。


 とはいえ、由香里さんとさつきさんだけか。どうしたんだろう?


「こんにちはー。お待たせしましたか?」


「こんにちは。いえ、私たちもさっき到着したところです」


 さつきさんとも挨拶を交わし、アメリもお二人にご挨拶する。


「今日はお二人だけですか?」


「はい。優輝ちゃんは来たがってたんですけどね、細かい手直しが多くて手が離せなくて。で、ミケちゃんは以前こちらに連れてきたことがあるんですけど、面白くなかったらしくて……。久美さんもいまいち興味がない感じで」


「で、グラフィック担当ということもあって、自分らだけ来たってスンポーっす」


「なるほど。とりあえず駐輪場で立ち話もなんですので、中に入りましょうか」


「そうですね。さっちゃん、行こう」


 というわけで、館内へ。一階は物販エリアや喫茶店などがあり、受付さんによると、主な展示物は二階にあるらしい。


 ……はて? このエスカレーター止まってるな?


「おおー、行こー。おお!?」


 アメリがエスカレーターに差し掛かると、急に上方向に動き出す。ほほー。近づくと動くんだ。省エネ設計ねー。


「アメリ、館内では静かにね」


「はーい」


 彼女と手をつなぎ、二階へ。こちらの受付で観覧料を支払い、いざ展示場へ。


「現代画が中心なんですよ、ここ。一部、江戸時代のとかもあるんですけど」


 小声で解説を始める由香里さん。へー。


 順路に従い、眺めていく私たち。まず目を引いたのは、波打つエメラルドの液体のような絵画。あら、爽やかな感じ。作者は……女の人で二十年前の絵か。無題ですって。


 そのお隣には、菜の花のような花が描かれた「黄色の花」。これも女性作者で、四年前の絵。これまた爽やかな感じ。


 順繰りに見ていくと、随分へんてこな絵と出くわした。ただ真っ黒なキャンバスが額縁に収められている。男性作者で46年ぐらい前の絵。う~ん、前衛ゲージュツの世界はよくわからないわ……。


 アメリの様子をちらりと見ると、ちょっと退屈そう。まあ、子供が見て面白いものでもないよね。ミケちゃんが来ないとわかってたら、かくてるハウスで遊ばせてたほうが良かったのかな。


 でも、今さらどうしようもないので、次行ってみよう~。


 色んな絵画があるけれど、やはり私が目を引かれるのは花を描いたもの。この桜のとかきれいね。一九一〇年の絵ですって。


 あとはシュールっていうのかな? ちょっとへんてこな絵を描く人のものが特集されていて、「田園」と名付けられた絵がどう見ても田園に見えなかったり、「山」と名付けられた絵に階段が付いていたり……。うーん、この人の感性はちょっと不思議だ。


 ちらりと横を見ると……アメリが退屈しきってしまっている。困った。


 「乗馬」と書かれたタイトル通りの躍動感ある絵に差し掛かると、「おお」とアメリが小さく声を上げる。目に若干生気が戻っており、これはお気に召した模様。やっぱり、動物好きなのね。今度、動物園に連れて行ってあげようかしら。


 企画展と称するコーナーでは、江戸時代の画家一人の絵を飾っている模様。そちらを見ると、屏風絵や詩の入った墨画など、なかなか味のある絵が見受けられる……アメリのテンションは、また下降してしまったけれど。


 それほど広い美術館でもないので一時間もせずにすべて見終わってしまいました。まあ、アメリが退屈してたしこんなもんかな。


 下りエスカレーターがないのでエレベーターで一階に降り、喫茶店でお昼にしましょうなんて話になりました。


「ぐはっ!?」


 店頭のメニューを見て、けったいな悲鳴を上げるさつきさん。


 おおう……何とかプレートの類がだいたい千二百円前後。これは、クリスマス前にすでに財布がピンチだった彼女にはキツイ。私は出せないこともないけど……。


「えーと、せっかくこういうとこに来て無粋なんすけど、その、良かったらうちで食べないっすか? ごちそうするっすよ……」


 あきらかに、助けを求めるような目で提案してくるさつきさん。


「そうですね。さつきさんの手料理美味しいですし、そうしましょうか」


「ありがとうございますっす。腕によりをかけて作らせていいただくっす」


 ほっと息を吐く彼女。由香里さんは、無言で苦笑の表情を浮かべている。ま、こちらはまたみんなの余裕があるときにお邪魔しましょ。


 というわけで、自転車を漕ぎ漕ぎかくてるハウスへ~。


 「こんにちはー。お邪魔しまーす」と入室すると、リビングでミケちゃんと久美さんが例のダンスゲームに興じていました。


 一曲終了すると、「おっす、こんちは。昼前だけど、館内で昼飯食うって言ってなかった?」と、私たちに挨拶した後、由香里さんに話を振る。


「まあ、ちょっと色々ありまして。今日のお昼はさっちゃんが作ることになりました」


「ほーん? まあ、ウチは当番代わってもらえるなら楽でいいけどさ」


「早く、ゲーム売りたいっすね……。じゃあ、調理始めるんで、神奈さんたちはテキトーにくつろいでいてくださいっす。


「はい。では、そうさせていただきますね」


 さっきまで退屈さ全開だったアメリが、その反動かミケちゃんと楽しそうにおしゃべりしている。やはり話題は、謎映画の模様で。


 さて、マスターアジアを名乗るさつきさん、急遽の当番変更で何を作られるのでしょうか。これは期待!

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