お二人を宇多野邸へ送り届けた後は、私たちも帰宅。
家に着くと、うちのお姫様がほんと眠たそう。
「もう、おうちですよー。もうちょっとだけ頑張ろー?」
「おお~……。頑張る……」
落ちそうになるまぶたを何度もこすりながら、屋内に向かうアメリちゃん。手洗いだけ終えさせ、「寝すぎると夜眠れなくなっちゃうから、一時間経ったら起こすからね」と、着の身着のままベッドに横にならせるのでした。
おなじみの撮影会したいけど、後回しだね、こりゃ。
とりま、お仕事に打ち込みましょ。タイム・イズ・マネー! ……常盤兼成なんて架空のお侍さん、いつか読み切りで出してみようかしらね。
◆ ◆ ◆
おっと、アラームが鳴りました!
「アメリちゃーん、起きてくださーい。一時間経ちましたよー」
いい感じに爆睡していた愛娘を、揺すり起こす。ちょっと可哀想だけど、これも昼夜逆転防止のため。ごめんねー。
「ん……おお~……? おはよ……」
寝ぼけ眼をこすり、ゆっくり起き上がる眠り姫。
「おはよーさん。ごめんね。これ以上寝かせると、夜眠れなくなるからね」
「顔洗ってくる……」
とぼとぼと廊下の向こうに歩いていくアメリちゃん。まったく、「あと一時間~」とか言ってぐずらないのは偉いわ。どこかの漫画家も見習うべきね。
自虐はさておき、お仕事再開! あの調子じゃ、まだ撮影会って感じじゃないものね。早く撮りたいなあ。
「ただいまー……」
のっそのっそと戻ってくる愛娘。くはあ~なんて、猫時代を思い出させる大あくびしちゃって。
「おかえり。また横になっちゃダメよ?」
「はーい」
とりあえず頭がまだ回らないのか、受動的に楽しめるテレビを見ることにしたようです。そして、たまに大あくび。本当に、朝とそれ以外で対照的ね、私たち。
こりゃ、撮影会までだいぶかかりそうだね。
◆ ◆ ◆
「ん~っ……!!」
座椅子で、ぐいーんと伸びをするアメリちゃん。もう、声に寝ぼけた感じがないね。
「しゃっきりしましたか」
「うん。もうだいじょぶ~」
「ではアメリちゃん! いつものやつ、いってみよー!」
じゃん! と、いい笑顔でアメリの夏服とスマホを構える。
「お、おお~……」と、ちょっと(?)引く愛娘でした。
◆ ◆ ◆
「いいよいいよ~!! つぎは、女豹いこう、女豹! 猫耳最強ポーズ!!」
相変わらず、バーニング専属カメラマンと化すワタクシ。
アメリちゃんは私の要求に応え、様々なポーズを取っていく。
ああもう、天使! 妖精! なんかもう、とにかく要らしさの化身!!
「ああッ! へそチラ! へそチラいいわ~!!」
そういえばもう、アメリのこの愛らしい猫耳もしっぽも隠す必要ないのよね。
写真展、開こうかしら。……なーんてね。
でも、いつかツイスターに写真はアップしようかなあ。
先ほどのタイム・イズ・マネーの精神はどこへやら。心ゆくまで愛娘をフレームに収め、タップ! タップ! タップ!
アメリが「疲れた~」と音を上げるとやっとこ我に返り、「ごめん。お疲れ様~」と労う。
撮影会が終わると、お嬢様はさっそく、今日買った図鑑を読み始めました。
私も、デスクに戻りお仕事再開。
ややあって……。
「えー!!」
と、アメリちゃんの大声。
「どしたの!?」
びっくりして、何ごとかと問う。
「あのね、しまだくん、チンアナゴじゃなかった!!」
「えー!!」
なんですと!?
「どういうこと?」
「これ見て!」
図鑑を手に、こちらにとてとてとやってくる娘。
そこには、オレンジと白のしましまの、しまだくんそっくりな魚の写真と……「ニシキアナゴ」の文字!
な、なんですってー!! 今明かされる、衝撃の事実!
解説には、「チンアナゴといっしょにいることがありますが、ちがうしゅるいのなかまです」との一文が。
なんてこと……。今までずっと、チンアナゴだと思ってたのに……。
これからは、「しまだくん」と脳内で呼ばねば……。
「びっくりした!」
「私もデス……」
いやー、面目ない。今まで娘に、間違った知識を教えていたとは。
思いがけず、一つ賢くなってしまいました。
◆ ◆ ◆
そんなハプニングから仕事に戻り、筆を走らせていると、スマホのアラーム。アメリちゃんにお料理を教える時間です!
「シェフ。お料理の時間ですよ~」
「おお~、頑張る!」
というわけで、二人でキッチンへ!
「まずは、簡単なものからできるようになっていきましょう。今日教えるのは、ツナサンドです」
「ツナサンドは、昨日食べたね!」
「ですです。昨日のは一番お手軽なバージョンだったけど、今日はちょっと凝ったのを教えるよ」
「はーい!」
材料を調理台に並べていく。
「まず、玉ねぎを薄切りにしてもらえるかな?」
言われた通りに、「目がいたーい」としぱしぱしながら、薄切りにするシェフ。
「次は、きゅうりを斜めの薄切りにしてください」
これも、難なくこなす。
「あとは、このツナ二缶の油を切って、玉ねぎと一緒にボウルに入れて、胡椒少々とマヨネーズで和えます。やってみて。玉ねぎは全部入れたら入れ過ぎだから、半分ね」
うんしょうんしょと、混ぜ合わせていく。
「で、ですねー。ここからがポイントなのですよ、アメリシェフ。パン二枚の片側に、バターを薄く、かつ隙間なく塗ってください」
言われた通りに、左官仕事のように、ナイフでバターを塗っっていくシェフ。
「こうするとですね、野菜の水分をパンが吸ってベショベショになるのを、バターが防いでくれるのですよ」
「おお~!」と感心するメリちゃん。
「あとは、きゅうりをそっち側のパンに並べて、その上からさっきのツナと玉ねぎ……半分ぐらいね。それをスプーンで塗って、もう片方のパンで挟みます」
ツナサンド、仮完成!
「あとは、包丁で半分に切ったら完成ね。パンの耳は落としちゃったほうが食感はいいんだけど、めんどくさいからそこまでやらなくていーよ」
「はーい」
すとん!
「できた!」
美味しそうなツナサンドが完成!
「はーい、お疲れ様~。残った玉ねぎは、ドレッシングかけるとサラダになるよ。コンソメスープに入れても美味しいけど……また今度だね。じゃあ、残ったツナと玉ねぎで、ツナサンドをもう一個作ろううか」
「はーい!」
こうして、ツナサンドとオニオンサラダのセットが完成!
「お疲れ様ー。あとは、紅茶淹れればオッケーだね」
「やるー!」
「では、お任せします」
こうして紅茶も注がれ、対面に着席。
「じゃあ、いくね! いただきます!」
「いただきます!」
ぱくっ。うん、美味しい! シンプル故に、食べ飽きない味。これをアメリちゃんが作ってくれたと思うと、美味しさもひとしお。
「美味しいね」
「うん!」
互いに、お陽様笑顔を向け合う。こうして、アメリシェフは新たなモーニングメニューを覚えたのでした。
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